アメリカ工場式畜産のジレンマと副題がついた本、「イーティング・アニマル」ジョナサン・サフラン・フォア著、黒川由美訳、東洋書林刊、1800円(ちょっと高い)を読んだ。帯には「米国食肉産業のうんざりするような事実!!」と書かれている。
著者はこの方面の専門家ではない。情に流されて、家畜が可哀そうだというような側面が強く感じられる。駆け出しの小説家のようであるから、仕方ないがその分内容的には、事実に即して忠実に描かれている。何よりも、各章の引用文が良い。
例えば、「アメリカ人が口にする食品のうち、地球上で本当に適しているものは0.25%にすぎない」とか「アメリカの畜産業界が地球温暖化におよぼす影響は、各世界のあらゆる交通手段がもたらす影響より40%も大きい」とか「アメリカ人は一生のうちになんと2万1千頭分の動物の肉を食べる』などと、現実の数字を言葉で表現している。
著者は、大型畜産を工場式畜産と呼んで、家畜が本来の姿で存在しないこと、劣悪な環境で飼育され、動物の尊厳などないと嘆く。屠場では瞬間的に殺され、時には意識があるまま、熱湯に浸けられる豚や牛に、家畜福祉などないことを訴えている。
ブロイラーでは、生産効率を上げるために30種ほどの添加物を与えているが、EUで認められているのは、わずか2種だけである。
さらに、わずか2社が、地球上の採卵鶏の75%の種の特許を持っていることには、多少驚かされた。採卵のために改良された鶏は、恒常的に骨折をする。
いまだに、アメリカの牛や豚それに鶏は大量の抗生物質に、浸かったままのようである。こうした飼育方法は、消費者に嫌われる日本とは大きく異なる。日本のように、指示薬品や出荷制限のある薬品は、獣医師などが使用することになっている。出荷商品の検査も結構厳しいものがある。
従って、アメリカの治療薬品は極めて安価である。消費者には競争力のある、安価な商品を提供できる。競争力とはこうした、『食』の基本を省くことで強くなるのである。
アメリカには、ほとんどこうした規制はない。規制薬品が食品から検出されると、厳しい罰があるだけである。自己責任と呼ばれるものである。
劣悪な環境での家畜の飼養につてもなんら規制はない。EU諸国では、家畜を生命体としての存在を認めるように取り組み始めている。家畜福祉という取り組みであるが、アメリカは全く見向きもしていない。生産効率が落ちるからである。
TPPという、無関税交易は効率だけで動くことになる。つまり、アメリカ化を意味することになるが、食の安全などどこにもないのである。