人間が生きていくために欠かせないのが、タンパク質である。炭水化物のようにエネルギーにもなるが、欠くことができない必須アミノ酸を提供してくれる。
人々は貧しい時代には、植物からタンパク質を取る。大豆だったり穀物だったりである。少し裕かになれば、魚からだったり地域によっては昆虫や蛇や蛙などの両生類や爬虫類、さらには昆虫だったりしていたのである。
更に裕福になれば、鳥を食べたり玉子を食べる。更には牛乳を飲むようになり、豚肉そして最終的には牛肉になるのである。これを蛋白の階段・プロテインラダーと呼んで、裕さの表現方法として使われたりする。
これが社会的変化だけなら一理あるのですが、ここに企業的畜産業、工業的畜産が参集することで様相は一変しました。先進諸国の畜産は、畜産の原風景を一変させることになった。
鶏や豚や牛に、大量の安価な穀物を与えるようになった。家畜たちは、安価な穀物を給与されて、高価な畜産物、玉子・鶏肉・牛乳・豚肉・牛肉を生産する道具として扱われるようになっているのです。
穀物を給与することで、一つは大型化が可能になりました。もう一つは高生産になるのです。穀物は、家畜が食べていた雑食や草などカロリーの低いものに比べて、格段に栄養価が高く家畜は好んで食べます。給与法も簡単になり、大規模化することができるのです。
極端に言えば人は、牛肉が食べられるような身分になるため働いているようなものです。
相当上手く飼育する畜産農家でも、肉牛を仕上げるためには約30カ月かかり、おおよそ4トンの穀物を給与します。出来上がった牛肉はせいぜい300キロです。何かおかしくありませんでしょうか?
4000キロの水分ゼロの穀物を与えて、水分50%の300キロの牛肉を生産するのです。26倍になりますが、これは贔屓目の話で、実際は30倍以上にもなります。その他の飼料や水など膨大にかかるのです。
与える4トンの穀物は20万円ほどですが、売る300キロの牛肉は100~3000万円もします。
カロリーベースで日本の食料自給率が低い最大の原因が、裕福になって畜産物を食べ始めたからです。人口
世界の食糧危機は、人と競合する穀物を与える先進国の畜産業が、生み出すものと言って過言ではない。例えば日本の場合、人と家畜はほぼ同量の穀物を食べているのです。13億人の中国が、牛肉を食べ始めました。世界から穀物を買い漁っています。
私たち畜産の獣医師は、大量の穀物を給与される家畜の、いわば修理屋です。畜産加工業と呼びましたが、工業なら機械を増やすことも出力を上げることもできますが、畜産の場合は動物なのです。
極限まで生産を強要されている牛たちは、大量の穀物給与で脂肪肝になって、代謝器病に喘いでいます。その他、生産病と言われる乳房炎や消化器病や蹄病や繁殖の治療に、獣医師は大忙しなのです。
しかし、こうした畜産の形態は必ずしも経営的にうまく行っていないことは、以前に
書きましたが、家畜は不健康になるし、必ずしも経営的にうまくってはいないのです。安倍政権は、
大型化の畜産を望んでいるのは、穀物を恒常的にアメリカから輸入するシステムを崩したくないからです。
物価の優等生と言われる玉子ですが、鶏は不健康になり質の低下がその代償になっています。
消費者は価格の代償に、食糧問題や環境問題が潜んでいることを知ってほしいものである。