詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

千人のオフィーリア(メモ27)

2016-12-22 00:00:00 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ27)

私は帽子。日食の日の、麦わらの。
覚えているかしら。
髪をほどいたら
編み目の隙間から無数に散らばった、
三日月の形の太陽。
         天のひとつが地上では無数にくだける。
--海の底の、貝の夢のよう。
オフィーリアが言って、
--私が見えるようにしたのよ
と教えてあげた私は帽子。麦わらの。
--ほら、風のように揺らしながら数えるのよ。
  十八まで数えれば恋の年。
  じょうずに足せば三十七、

オフィーリア、オフィーリア。
あのときから離れたことなど一度もなかったのに、
オフィーリア、どこを流れているの?
私は帽子、リボンのほどけた帽子。麦わらの。
リボンの先はオフィーリアにとどくかしら。
菫色のリボンは
あの日の記念。
四阿の床に三日月の太陽が散らばり、
まわりが菫色になった、
腰のリボンも。
オフィーリア、
蝶結びをほどいて、
帽子に結びなおしたのは誰?

遠い野で菫の上に椅子が倒れる。

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千人のオフィーリア(メモ26)

2016-12-18 22:04:23 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ26)

先に恋したのは
ロミオだったかしらジュリエットだったかしら
先に死んだのは
ジュリエットだったかしらロミオだったかしら
綴じ糸がほどけた本みたい
正気ではいられない。
でも素敵ねえ、両親が敵対しているなんて

気づいたのは
私が先だったかしら、
--傷物にされたらどうしよう
お父さまが心配したから
私がその気になったのかしら。
ああつまらない。
お父さまは家臣。言われるがまま。
私にその気がなくっても、
--おおせのとおりに。
手に負えないドラマなんて
燃え上がる血、凍える血なんて
どこにもないなんて。
気づいていないわ、
お父さまは。
そう気づいたのはオフィーリアが先。

先に恋したのは
オフィーリアだったかしらロミオだったかしら
先に死んだのは
ハムレットだったかしらジュリエットだったかしら
先はどっち?
殺し合いをグローブ座の芝居がまねたのだったかしら
座付きの男が殺し合いを横取りしたのだったかしら





*

詩集「改行」(2016年09月25日発行)、残部僅少。
1000円(送料込み/料金後払い)。
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千人のオフィーリア(メモ25)

2016-12-12 11:19:07 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ25)

三日後のオフィーリアが侮辱する。
「あなたの連れ、にぶいんじゃない?」
振り返ると鏡の中に一時間前のオフィーリア、
自分の目しか見えないくらいに目をみひらいて、
「どうして?」
訪ねる声がふるえるのは憎しみの予感か、恐怖か。
「三日前、ドアを開いて入ってきた男にあなたが目を向けたすきに、
彼は私を見たのよ。私は横を向いていたけど気づいたわ。
でも、なんてにぶいんだろう。
私がわざと横を向いているのに気づかないなんて、
盗み見している男に気づいていないと思うなんて、」

「長い廊下をつけてくる足音を聞いたとき、
私がどんなに振り返りたいこころを抑えていたか知らないなんて、
ゆるせないわ。」
「待って」
四日後のオフィーリアはさえぎる。
「それ、私が書いた手紙よ。
ラブレターまで盗むの?
何の権利があって?」
「私がオフィーリアだからよ」
八十五歳になったオフィーリアが笑う。




*

詩集「改行」(2016年09月25日発行)、残部僅少。
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千人のオフィーリア(メモ24)

2016-12-08 00:00:00 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ24)

「こと。ば。の甘い苦痛。すみれの、ことば。花(ことば)。と。カーブのかげり。つたう。した。グラスが。たり。たとえば、雨の日。甘い舌。したた、るるるる。ひみつの、み、つ。み。の。罪の蜜。ことば。」
手紙の、穴。雨が開けた穴。雨に滲む文字。

雨って「比喩」なんだけれど。

「わかっている。
おんなの気持ちはみんな同じだ。弱いもの、それがおんなだ。
気持ちは書く必要がない。
気持ち以外のこと、気持ち以上のことを知りたい。」
どういう意味だろう? 
手紙の中の、このひとは誰?
「髭を剃るとき、ガラスの扉のマグネットが結合する硬い音を聞いた。」

いまでは鏡に映った顔をのぞきみるように感じてしまうオフィーリア。
のぞきみられているようにも。




*

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千人のオフィーリア(メモ23)

2016-12-02 23:38:42 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ23)

話そうとするとそばにいないオフィーリア。
新聞にはいちばん現実的な嘘のつき方が書いてある。
「えっ、たとえばどんな?
「調べてみたら? 東京発。パリ発。外電はでまかせ。
真実なんてないわ。好みがあるだけよ。

慰謝料と不倫。どちらが主張として正しいか知ってる?
慰謝料はお金。愛や肉欲よりも確かだわ。相手が誰でも自分は変わらない。
いてほしくないときにいて、
いてほしいときにいないオフィーリア。
「いるときにいてほしいくなり、
いないときにいなくてよかったことをすれば?

姉が賛成し妹が反対したオフィーリアみたい。
姉が反対し妹が賛成してくれると思っていた。
どうしていいかわからなくないオフィーリア。
パスポートをそっと開いて、
名前と顔を確かめるオフィーリア。
私は誰なのかしら。
パスポートの写真は嫌い。左のほほが緊張している。
自分の部屋にある鏡よりも姉の部屋にある鏡が好き。
「だって、きれいに映るのよ。

聞いてほしいのに聞いてくれないオフィーリア。





*

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千人のオフィーリア(メモ22)

2016-11-27 00:02:04 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ22)

オフィーリアが「欠伸」という文字を知ったとき、
廊下の窓から教室を覗いたオ(ハ?)ムレットと目が合った。
まさか帰ってくるなんて!

ただひとり帰って来たナントカという
あの男みたい。

「シチューは煮えたかしら」と鍋をかき回した後に、
過去を思い出したみたいに「欠伸した」。
「あくび」というルビが振ってあって、
誘われるように口を開けて

まさか。
欠伸を追いかけて滲んでくる涙。
とめることができない。

できることなら、
乙女の喜びの涙と思ってくれない?
オフィーリアは期待するけれど、
「ちょっと見ないうちババアになったなあ」という目つきだけ残して
目を逸らした

口の端から垂れ下がる涎を源とする川を流れるオフィーリアが、
二十三人目だったときの、だれも同情してくれない
思い出を思い出すために
二十四人目のオフィーリアになったの。





*

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千人のオフィーリア(メモ21)

2016-11-25 00:00:00 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ21)

夜の時間がかすれた声で抗議した。
きのうの次がきょう、きょうの次があしたなんてだれが決めた。
きょうの次がおとついで、あさっての未来があしたでも、
私は困らないよ。
オフィーリアよ、いまこそ復讐せよ。

昼の時間がなれなれしい声で言う。
きのうがあしたの夢を見るなら、
あしたはきのうの夢にやってくる。
あさっての夢はきょうに嫉妬し、
しあさってはおとついの夢に呪いをかける。
私は困らないよ。
オフィーリアよ、いまこそ復讐せよ。

いま、いま、いま。        
ことば、ことば、ことば。

朝の時間は透明な声で歌うのさ。
あしたがきょうのなかに押し入り
きのうはあしたにまたがって、
あさっての股からおとついが生まれる。
きょうがきのうにつながらない。
私は困らないよ。
オフィーリアよ、いまこそ復讐せよ。



*

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千人のオフィーリア(メモ20)

2016-11-24 00:00:00 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ20)

オフィーリアの肖像画
畳んだ手紙を持つ手

肖像画のオフィーリア
手に畳んだ手紙

鏡をのぞく肖像画
肖像画をまねる鏡

肖像画をのぞく鏡
鏡をまねる肖像画

蓋の開いた化粧水の瓶
セルロイド人形の生ぐささ

化粧水の瓶の蓋は転がり
生ぐさいセルロイド人形

息をすると口の周りは
夜の潮のやわらかさ

口の周りの息は
やわらかな潮の夜
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千人のオフィーリア(メモ19)

2016-11-21 00:30:12 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ19)

知ってる? ここはポドマック通りよ。
明かりのかわりにピアノの音が水たまりを走ったからって
初物はいないわよ。あさっての通りを歩いてみるんだね。
いいえ、ここはトポマック通りじゃないわ。
おめあては口に出せないことば? ぶたれること?
入れたいの? 入れられたいの? なめたいの? なめられたいの?
そうよ、ドポマック通りよ、間違えないで。
「おれはなあ、細い紐を蝶結びにする発明をあの女に譲ってやった。
何言ってやがらあ、それで大儲けしたくせに」
だからホトマック通りだって。嘘ついたってしようがないでしょ。
そんな小さいものは引っぱりだしたって小便するしか能がないくせに。
マックポート通りは三つ先よ。あそこはね、
嘔吐の花ばかり。強烈な刺激に目をやられてあばたもえくぼに見えるって話さ。
ああ、ポートマックから来たのかい?
背中が凝ってるねえ。ももの裏側も。真ん中の足はどうだい?
そうだねえ、マクポッド通りへ行ってみるんだね。
鳥の羽であそこをなでてくれるさ。指をつばでしめらせるのは
本のページをめくるためだってさ。
知ってるよ、マグトッポ通りというのは嘘の名よ。
ストッキングを足の付け根まであげるとこを見せてくれる。
トグマッポ通り? 酔っぱらったら舌かみそうな通りなんか知らないよ。
湿った唇でも乾いた唇でも、みんなオフィーリア。
昔の名前も明日の名前もあるもんか。





*

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千人のオフィーリア(メモ18)

2016-11-20 00:46:38 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ18)

狭い通りでわざと肩をぶつけ合う男同士が
けんか相手を確かめるみたいに明かりの下に引っぱりだして。
キスして。ツラトゥストラみたいに荒々しく、
汚いことばをわめいた舌で私の裏側をひっかき回して。

毛むくじゃらの手が私の尻をつかむのを
街灯がスポットライトのように照らすでしょう。
私には見えるわ。

そのまま引き寄せて。
ズボン越しでも子宮に届くくらいに
あなたの愛を勃起させて。
その曲がり角で。




*

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千人のオフィーリア(メモ17)

2016-11-18 00:57:57 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ17)

うずまく川の上に組まれた橋をおぼえているか
水といっしょにくるくるまわるオフィーリアの目は
青いスミレのように何も見なかった
自分の悲しみのほかは。

書きかけの詩のなかに、そんなふうには書かないで。

履いていた白い靴。片方が脱げて流れて行った。
追いかけるようにオフィーリアは流れた。
早い夏。胡桃の天使の睾丸はまだ緑の皮につつまれている。
だれもそれを見てひとはいない。
詩に書かれのは西洋と東洋がいれかわる大きな戦争の後、

そんなふうに剽窃しないで。

うっそうとしげる木からしたたる樹液の、蜘蛛の糸のようなねばり。
隠れて読んだ本のページを破ったオフィーリア。
ここに書いてあるように書いてほしい。
でも読まれたくない。だから、
もうそのことばをだれも読むことができないように破って隠した。
六百四十三人目のオフィーリア。

そんなふうに書かないで。詩がどんなに行き詰まっても。

みな同じように女から生まれ、
ひとりひとりが違った死に方をする。
同じオフィーリアの名で呼ばれても。
そんなふうに、流通している哲学を書かないで。

街角のポスター。真新しい殺人、古くさいバイオリンの旋律。
ありきたりの感染症。
どんなことばもオフィーリアを輝かせる。

そんなふうに、詩には書かないで。




*

詩集「改行」(2016年09月25日発行)、残部僅少。
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千人のオフィーリア(メモ16)

2016-11-15 01:00:34 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ16)

眠りがまだ幼い少女だったころ、
木の舟に乗って月の川を流れるオフィーリア。
櫂もなく、流れのママにただひとり。
一本の木の下をくぐるとき、
水の向こうへ行ってしまった母の夢が乗り込み、
ゆっくり戻ってくる。
この岸辺。

さあ、左手を出してごらん。
重ねてごらん。
太陽の丘から見下ろす感情の川。
木星が水源の知能の川。
金星の丘にそってカーブする命の川。
知っているかい?
感情と知能の川を横断していく運命の川があることを。




*

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千人のオフィーリア(メモ15)

2016-11-13 08:49:41 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ15)

オフィーリアをのぞきこむオフィーリア、
オフィーリアをのぞきこむオフィーリアを見上げるオフィーリア、
橋の上、橋の下、鏡の前、鏡の中、
見られるオフィーリアは見るオフィリーの何でできている?
見るオフィーリアは見られるオフィーリアの何でできている?

九番目の爪。ベッドで聞いた雨音。瓶。のち、西の風。
角を曲がるまで。男がおんなにしたことのすべて。嘘。
日食。五月の木漏れ日は三日月の形。ラフランスの味。
何か言った? 取り上げられなかった赤子。の膝の裏。
砕かれて。な忘れそ。作り話。ぺちゃくちゃ。青い水。
すれ違った女は私より美しい。敷石。枯れ葉の穴から。
知らないわ。つぼみ。ペルシャのズボンを履いたゆめ。
おのまとぺ。まるで、あれみたい。もう一度。な匂い。
悪い道。蝋。消えない香水。去勢されたくすくす笑い。

はるかな高み、銀河を流れていく五百九十二人目のオフィーリアよ、
私だけに教えて。オフィーリアの何でできている?




*

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千人のオフィーリア(メモ14)

2016-11-12 00:00:00 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ14)

私の前にだれがこのことばを読んだのだろう。
存在しないオフィーリアよ、
私はカップに近づけていた唇をとじる。

--ことばにすると、どんな姿態も淫らではなくなる。
  だから唾でよごれる声は飲み込みなさい。

意識の喉がしろくふくらむ。
夜の鏡のなかで。カーテンを開けた夜のガラス窓のなかで。

そのころ、存在しない百三十七人目のオフィーリアは、
ウィンドーの内部のマネキンの長くのけぞる、のど。











*

詩集「改行」(2016年09月25日発行)、予約受け付け中。
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千人のオフィーリア(メモ13)

2016-11-09 00:20:45 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ13)

水の抱擁。やわらかな、
--ねえ、オフィーリア。水に入るときは下着をつけたまま?
  ねえ、オフィーリア、下着を脱いだ方がいいの?
  ねえ、どっちがきれい?
水を覗いて思ったのはいつのことだろう。

水の抱擁。いじわるな、
手。ブラウスの下にすべりこみ、
               冷たい。
乳房をなでる。
       冷たい、
春を追いかける雪解けの匂い。
息を吐くとき、
洩れそうになる声を追い抜いて
のどへ。のどまで。犯すように。
絞め。
   殺されたい。
頼んだら。
するりとブラウスの外へ逃げる。
いくじなし。
童貞の少年みたい。
じれったい。

未練のように。
布越しに、なでる。
手のひらの形で
色になる。
透けて。

袖口のさくらんぼの絵に縫いつけられた、
蝶結びのリボン。
スミレやバラではなく、
誰も名前を知らない花だけを束ねて、
透けていく胸を隠したい。

見られていると考えると、体中が罪の色に染まる
見られていないと考えると、体中が憎しみの色に染まる。
--ねえ、オフィーリア。水に入るときは下着をつけたまま?
  ねえ、オフィーリア、下着を脱いだ方がいいの?
  ねえ、どっちが醜い?

こうなったら、目をそむけさせたいの。











*

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