詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

千人のオフィーリア(メモ12)

2016-11-06 01:34:55 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ12)

いとしのブルームさま
処女が月経のとき頭が痛くなるように、月に一度頭が痛くなるというのはほんとうですか? 仕事に行かずホテルでカーテンを引いて寝ているというのはほんとうですか? うわさを聞いて心配しています。私はまだブルームさまがズボンのボタンを外すのを見たことがありません。もしかするとブルームさまは概念を流産した年増女なのでしょうか。

いとしのオフィーリアさま
ことばはいつでもほんものではありません。月経。辞書の中のその文字を見ながら、私の少年は何度もオナニーを繰り返しました。挿入。その魅力的な書き順を、一画一画、何度指でなぞったか。でも、一番の輝かしいのは性という漢字。まるで宝石。性善説。相対性理論。どこに隠れていても盲目の光を放つ。そして勃起ということばにさえ勃起し、射精ということばに自分自身からあふれでてしまうとき、少年には膣と陰茎の区別、子宮と陰嚢の区別はありません。私は書を捨てて街へ出た家出少年です。

いとしのテンプル・マウントさま
修辞の首都の河にはコンドームが、サンドイッチの包み紙のように浮いています。細く引き裂いて、ミミズのかわりにして魚を釣ったという自慢話を何人にされたのでしょう。せめて恋という疑似餌で釣ったと言いなおしてもらえませんか? お返事はいりません。





*

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千人のオフィーリア(メモ11)

2016-11-05 09:28:26 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ11)

見るのが好きなハムレット。
私の子宮の中にいるあなたが私を知っている以上に、
私の子宮はあなたを知っている。
あなたは亡霊の子。精神の子。

亡霊は私の耳元で唇を動かす。
声にならないけれどあなたには聞こえた。
「見るのが好きなんだ。
ほら、カーテンが。」

覗き見していた。
覗き見を見られている。
みんな予言通り。
亡霊は予言者。
オフィーリアは知っている。

あなたは亡霊の子。精神の子。
目撃者は死ぬ。
精神は死ぬ。
死んで生きる亡霊の子。
あなたに会うためにあなたより先に死ぬ。
先に死んだ方が長生きするの、と
百四十一人目のオフィーリア。





*

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千人のオフィーリア(メモ10)

2016-11-04 08:08:32 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ10)

通り過ぎた。目印の前を。行き過ぎた。目印のないところまで。
誰もいないところまで。
遠くで蛙が腹を膨らませて鳴いている。蛙とわかる声で。
遠くから流れてきたオフィーリアはひとり言。
すると、

遠くから流れてきたオフィーリアに、
もうひとつの遠くから流れてきたオフィーリアが身を寄せて、
遠くを近くよりも近く、肌の裏側を逆撫でするように話しかけてくる。
--あの人は言ったの、オフィーリアよ、
  きみの目が一番美しいのは何も考えていないとき。
--あきれるわね、男はみんな同じことを言うわ。
--あの人は言ったの、オフィーリアよ、
  きみの目が一番美しいのはアイスキャンディーを嘗めながら遠くを見るとき。
--あきれちゃうわね、きっとこんなことも言ったでしょ。オフィーリアよ、
  きみの目が一番美しいのは、月の血が流れるのを見るとき。
--どうして知ってるの?
--あきれたわね。男は次にすることしか考えていなもの。
  できるか、できないか。それが問題だ。

それから、ゆっくり話し始める。できちゃった年増女が、
三百五十四番目のオフィーリアになって、満潮にのってやってきたのを確かめながら。
--女の目が一番輝くときは、目をつむって比較するとき。
  やわらかな指。錆びた剣。何も食べていない息。くさいおなら。
  抱かれながら、違う男を思うとき。
  その重さを、スピードを。
--女は恋人から母親になって、それからもう一度女になるの、
  という話なら、もうみんな知っている。
  それはきっと二番目のオフィーリアというガートルード。

ああ、声がうるさい。
近くと遠くがわからない。近くが近すぎと、遠く聞こえる。
いま、ここ、は、いつ、どこ?
待てよ、待てよ、おしゃべりオフィーリア。
ひとりの、最後の、沈黙のオフィーリアが離れて行く。





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千人のオフィーリア(メモ9)

2016-11-03 00:01:19 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ9)

辛抱できなくなるまで、辛抱した。
二度も。

満足させて、
嘘じゃないよ。
煽り立てて、
ほんとうだよ。
飽きさせて、
何もいわない。。

言いたいことはわかっている。
だから叫ぶ。
わからない、わからない、わからない。
大声でこころが叫んでいる。
それに負けないくらいに
喉を嗄らして。

信じられないほど
満足させ、
信じられないほど
煽り立て、
信じられないほど
飽きたなんて。

悲しいということばは
淋しいよりも
透明に聞こえる
鼓膜に流れ込む水の音。

耳の奥を流れる
血の音が
川の音を消す。

消えていく、オフィーリア。




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水の周辺11/千人のオフィーリア(メモ8)

2016-11-02 00:00:00 | オフィーリア2016
水の周辺11/千人のオフィーリア(メモ8)



触れよ。
水に。

声が
呼ぶ。



触れる。
私に。

消える。
私が。



黒い
鏡。

水が
私。



反転。
夜の桃。

暗転。
白い喉。



触れよ。
私に。

沈めろ。
私を。





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千人のオフィーリア(メモ7)

2016-11-01 01:44:14 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ7)



階段を降りていく禿げ頭を見ていた
階段を上がって来る禿げ頭を見ていた

純粋だったのはどっちのオフィーリア?
禿げ頭と罵った方?

禿げ頭から何を思い出すかによるわね。
眼鏡の縁が上から見えたわ。耳のゆがみも。

私は頽廃の頽という字を思い出しちゃうの。
それから倦怠の怠の音も。

えっ、
それって何?

階段の禿げ頭には聞こえている
ふたりのオフィーリア声が。
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千人のオフィーリア(メモ6)

2016-10-31 11:28:14 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ6)

かつてのオフィーリアが今のオフィーリアなら、
やがてオフィーリアでなくなるオフィーリアはどこを流れる?

醜聞は風のごとく吹き寄り、風のごとく吹き去る。
水は流れ寄り、水は流れ去る。
              (何のごとく?)

               これから男の私が演じるのは
九百九十九人目のオフィーリア。
男ゆえに不作法に女の傷を逆撫でし、
男ゆえに寝取られハムレットを演じつつ、泣き言わめき、わがままに、
そして繊細に、千人目のオフィーリアという反論を読者にまかせ、

では。

流されながら流れてゆけないオフィーリア、
流されながら流れを遡るオフィーリア、
貯水槽にあつまり密談するオフィーリア、
水道管で分配されることばのオフィーリア、
排水管を通り下水を揺するオフへーリア、
見えない水の、見えない流れの、見えないオフィーリア、

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千人のオフィーリア(メモ5)

2016-10-30 09:11:13 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ5)

もう考えるのはよそう、いやまだ考えられると考えてみる。
あの日、
熱っぽかった肌着が椅子に引っかけられて冷えていく
汗が固くかたまり、悲しみと呼ばれる。

きょう、
左肘の方向に月が出ている

あのころ私は何も知らなかった、幸福さえも。
あのころ私は私ではなかった、悲しみさえも。

もう考えるのはよそう、いやまだ考えられると考えてみる。
あすは私の葬式だろうか、
友達の葬式に出るのはつらくていやだわ。

隣のオフィーリアは無言。
一週間前と同じフリル、波に縫い込まれたエメラルド。
乱れる水色。



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千人のオフィーリア(メモ4)

2016-10-29 00:00:00 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ4)

イルミネーションとエッジの強いミュージック、
まばゆいもの汚れた傷を隠すしかない船の客たちが、
さかのぼってくる潮が喫水線をゆするよう叫ぶ。
--八百九十七人目のオフィーリアを見つけたぞ。
--どこだ、右舷か、左舷か。
--どれだ。スカートの裾が破れたやつか、あれならもう見たぞ。
--どれだ。乳房を水にひからせているやつか、そいつは七百三十二人目だ。

黒い水。銀の波。排水のけだるさとつながる水の、
粘るようなぬるさのなかに閉じ込められて、
流される私たち。千人のオフィーリア。
こんな夜中にカモメが飛んでくる。高みから降りてくる。何を見つけた?
こんな夜中に、橋のためもとコンクリートの階段で
千人のオフィーリアと船を見比べている男。何をみつけるために?

オフィーリアよ、私は捨てられた女の亡霊、
あるいはハムレットの父の亡霊だ。
未来へ向けてさまよい流れていく運命だ。




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千人のオフィーリア(メモ3)

2016-10-28 00:00:00 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ3)

夜の川を流れてくる千人のオフィーリア
私はいるだろうか。私はいない。私はここにいるのだから。

川の夜を流れていく千人のオフィーリア
私がいるに違いない。私はここにいるけれど、ここは私の場所じゃない。

夜は川になって欅の枝の下をとおりすぎる。
あれかしら、あれじゃない。あれかもしれない。

思いは百年流れて橋を見つける、
オフィーリアは百歳おばあちゃんになる。

ああ、やっと。やっと橋の下を見ることができる。
一度、見たかった。

夢のなかへ記憶が流れてくる。
千人のオフィーリアになって。




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千人のオフィーリア(メモ2)

2016-10-26 09:51:05 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ2)

私、言ったの。「小鳥の死骸を埋めたの、
メタセコイアの細い落ち葉をかき分けて固い土を掘ったの、
そうしたら地底で星が光りだしたわ。
ぬれた匂いが。
それとも死を嗅ぎつけてやってきた白い虫かしら」
犬が尻尾を股の間に挟んで首を伸ばして見ていた。

屈辱を投げつけてやりたい。
胸の中で燃え上がり、
長い時間をかけて静かなよろこびに変わる。
そんな矛盾に満ちた屈辱。
私の宝物。







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千人のオフィーリア(メモ1)

2016-10-24 23:03:50 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ1)

川は流れる、川という川はすべて流れる
けれど私はここにいる
空には星が満ちて沈黙になる
けれど私はここにいる
花が咲かない草が群がって影を落としている
けれど私はここにいる
あの淵にはいかない

八月の花が死んでも私は泣かなかった
私のものではないから
この切り揃えた髪も、この屈辱をひっかいた爪も、
(じゃあ、だれのもの)
知らないわ、知りたくないわ、
私のものじゃないことだけはわかるの
好きじゃないもの
(好きなものはみんな他人のもの、
他人が持っているものよ)
もうひとりのジュリエットが
脇腹のあたりをつついている







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