「ボイオチアの形象」は、エリティス特有の、ことば数の多い詩。そのなかにあって、
しかし、ここ、夜は眠りに忠実に侍べり、
とことばが少ない。だが、その少ないことばのなかにあって、「侍べり」がおもしろい。普通は「はべり」ということばをつかわない。「忠実に」ということばといっしょにつかわれているので、ここでは「そばにいる」くらいのイメージだと思うが、この瞬間、「夜」が人格をもってあらわれてくる。それにあわせて「眠り」も人格をもってあらわれてくる。「眠り」に人格がつけくわえられるというよりも、「眠り」が人格をもってあらわれるとしかいいようのない、不思議な奥行きが生まれる。
そして気づくのだが、エリティスの詩に登場する「もの」はすべて「もの」ではなく、人格をもった「いきもの」なのである。それは互いに交渉している。そして、その交渉というのはエリティスが仕組んだものというより、「もの」がそれぞれに自立して動き回った結果として生まれてくるものだ。詩は、「ことばのポリス」であり、「ことば」は人格なのだ。
そうした特徴を、中井は「侍る」という動詞一つで支えて見せる。
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「ポイオチアの形象」。
苦い形象が風を高貴にする!
突然あらわれる抽象的な一行。詩のなかのことばは、ことばとことばがぶつかりあい、それぞれがもっている具体的なイメージを捨て去り、とんでもない抽象をことばの内部から発散するとき、見たことのない光が生まれる。大きなことばがぶつかれば、大きな閃光が炸裂する。小さいものがぶつかるとき、それは光であると同時に、そのまわりに闇を抱え込んだ何かに見える。闇をつくりだしながら、同時にその内部に一点の光をはらんでいる感じ。
それこそ「苦い」という感覚に似ている。
ここに書かれている「高貴」は、「苦い」によってより強くなる「高貴」は、私には何か「わび・さび」のようなものに感じられる。否定によって、内部が強度になる。
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