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日本人論の理論の理論(1)

2021-05-22 | yy78日本人論の理論の理論


(78 日本人論の理論の理論  begin)




78  日本人論の理論の理論

日本人論という理論カテゴリーがあります。日本人について論じる考察のことです。昨今、インターネットやマスコミや出版物にあふれるばかりあります。しかし、これらの中身はともかく、一番の特徴は、こういうものが日本国内でよく読まれる、売れる、ということでしょう。
日本人ほど自らの国民性を論じることを好む国民は他にないようです。最近の傾向ではなくて前世紀あるいはそれ以前からこうであったらしい(一九九四年 南博「日本人論―明治から今日まで」)。
これら出版物あるいはコンテンツの特徴は、慨していえば、日本人は特殊である、という主張が圧倒的に多い。当然、西洋人とは違う。さらに他のアジア人とも違う。どう違うか、それはなぜか、なぜ問題なのか、という観点で論じられるようです。
これら日本人論の個々の中身は広くバリエーションに富んでいてその分類もまた興味深い議論を呼ぶところですが、拙稿ではさらにその背後にある共通の理論のまた理論、つまりなぜこれらの話が語られるのか、私たちにとってなぜそれが面白いのか、という観点から考えてみましょう。

明治以来、西洋から移入された制度やそれに伴う思想と文化が江戸時代からの伝統文化と衝突する場面で、彼我の感覚的差異、権威が移行する場面での齟齬、それに伴う不愉快な違和感などが生じたでしょう。
それに触発されて彼我の身体と個人能力の差異に関する劣等感とそれへの反発をはじめ自国の制度、システムへの批判、改善要求、逆に現状の擁護などの議論が沸き起こってきます。これは世界中、異文化の交流が起こる場面では当然起こる現象ですが、諸外国に比べ特に日本で著しい、と観察できます。
これらは異文化の流入に対する集団心理的反応、さらにそれに喚起される国民のアイデンティティの危機意識、あるいはその不安定化への不安からくる、とみることもできます(二〇〇三年 船曳建夫「日本人論再考」)。
土着文化と外来文化との衝突は世界史上どこの国でも起こっていることです。よく知られている民族大移動、侵略征服、植民移民、布教活動などに伴って文化間の軋轢が起こります。ある民族文化が急激に変容していく場合、その文化の本質は何か、アイデンティティは何か、という考察は当然なされるでしょう。その文化圏内外の知識人の研究対象となります(紀元前四三〇年 ヘロドトス「歴史」など)。





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