邦題は「1950 鋼の第7中隊」だが、原題は「長津湖」。昨年の国慶節、いわゆる中国の大型連休に公開され、中国で大ヒットした作品。
国連軍と中国軍が戦った1950年の「長津湖の戦い」を描くこの映画は、中国共産党中央宣伝部が製作費を拠出した結党100周年記念映画だ。本編が始まる前、通常は制作会社、配給会社の紹介映像が流れるが、これが両方とも中国共産党と思えばいいのだろうか。とにかくそれらを知らせるクレジットが画面に映し出されただけで、映画のクライマックスかと思うような大音量が流れる。本編が始まる前から圧と熱量が半端ない。
1950年11月、マッカーサー率いる国連軍と戦う北朝鮮への援軍の為、列車に乗って前線に向かう多数の連隊。主人公の弟も入隊に反対する兄に反抗し、両親の許しも得ずに入隊を志願。乗り込んだ列車の中で行動を諫められて一晩立って過ごすようにと懲罰を受けるも、無事に仲間と認められた嬉しさを嚙み締める彼が眺める風景は、夕焼けに赤々と染まる雄大な万里の長城だ。まだ戦闘も始まる前からとにかく熱い。
戦闘が始まってからも、画面のどこからも戦う事に対する心の揺らぎは一つも感じられず、とにかく画面のどこを見ても、セリフの一つをとっても驚くようなポジティブさしか見当たらないのだ。戦闘シーン、殺戮シーン、どれをとっても音量、爆風、そして火薬の量が半端ない。一つとして手を抜いておらず、お金と時間と労力を惜しみなく使っている事が判る。テンションが上がる音楽も緩急などということはなく、常にマックスだ。もう中国本土でハリウッド映画を見る必要はないだろうと思う。
闘う相手である連合軍の面々はまるで映画のセットかと思われるような軽い扱いだ。指揮を執るマッカーサーに対するちょっとした不満、クリスマスまでに戦闘を終わらそうという軽口、戦場とは思えない潤沢な食事。それらは、士気の高い中国人民志願軍との対比に使われるのみ。相対する至近戦でも彼らの顔は殆どアップになる事はない。
スタッフ1.2万人、エキストラ7万人450社に及ぶVFXスタジオが参加し、製作費270億円をかけ(政治的な宣伝活動の為にはこれ位出すのは当然なんだろうか・・・)ツイ・ハーク、チェン・カイコーそしてダンテ・ラムの3人が、仲間を思いやり、また家族を思って戦いに挑む中国人民志願軍の戦いをかなりな熱量で描く。私は誰がどのパートを担当しているのかはっきりは分からなかった。目的があまりにもはっきりしている故、3人で撮ってもブレがないのかもしれない。
*****
あくまでも中国国内向けの最高のエンターテイメント作品だ。しかしエンターテイメントという枠で考えられる事はなく、やや無理やりの実話推し。3時間も映像で見せられたにも関わらず、エンディングでもダメ出しのように「長津湖の戦い」の功績をテキストで説明。最後に流れる主題歌「天地我来过」の歌詞には『心を鼓舞する軍人の栄光』という言葉まで見える。
プロパガンダ映画の一つの完成形を見させてもらった・・・いろんな意味で興味深い。
《长津湖之水门桥》孙楠《天地我来过》MV