熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

日経ビジネス:山崎製パン止まらぬ成長

2010年03月24日 | 経営・ビジネス
   日経ビジネスの最新号が、デフレにも巨大小売にも屈しない「山崎製パン 異端の経営」と言う特集記事を組んで、今や、製パン業界で隠然たる勢力を持ち、コンビニやスーパーのプライベート・ブランド戦略にも屈せず、独自の流通システムを堅持しながら、好業績を続けている企業の強さの秘密に焦点を当てている。
   飯島延浩社長の聖書とドラッカー経営学に裏打ちされた経営哲学にも、その経営力の秘密を求めているのだが、正直なところ、この日経ビジネスの記事だけでは、山崎製パンの経営のどこが良いのかが、よく見えて来ないのだが、私なりに、感想を述べて見たい。

   まず、山崎製パンの製品は、殆どすべてといっても過言ではないと思うが、コモディティである。
   従って、何故、この会社が、差別化の難しい、低価格製品を大量生産及び販売しながら、市場の40%を押さえるトップ企業になったかと言うことで、そこに、この会社の強みがあるような気がしている。
   このことは、ビール会社やカップラーメン、飲料等々食料品関連会社についても言えることだが、団子状態であったり、規模の差などがものを言うの他ジャンルと違って、山崎製パンが、この業界においてダントツの強みを確立しているところに意味がある。

   その前に、この日経ビジネスが強調する飯島社長の経営哲学だが、天地創造の神との出会いと言ったキリスト教の教義に、ドラッカーの「ミッション」経営を組み合わせて独自の企業の目指すべき経営理念を打ち立てている。一種カルビニズム的な匂いが濃厚にするのだが、「神の御心にかなう」道を歩むとする根本精神が経営を導いているとするのなら、それなりに、高邁な経営哲学が生まれ、経営目的・使命、更に、経営戦略・戦術が打ち出されて、企業経営のバックボーンを支えているのであろう。
   近年、ヨーロッパを筆頭に、企業の目的・使命が、企業の社会的責任の追求をはるかに超えたもっともっと高い次元へと移りつつある現状を考えれば、その価値は高いと思うが、要するに、経営理念が実際の経営において生きているかどうかであろう。

   もう一つ、ドラッカー経営学だが、余りにも裾野が広くて偉大であり、極論すれば、その一部のどこを切り取っても、近代経営の指針となるので、そのどの部分のドラッカー経営学を経営指針にして利用するのかは、企業の置かれた状況によって違う。
   ドラッカーの信奉者であるユニクロの柳井正代表でさえ、影響を受けているのは、ドラッカー経営学の極一部にしか過ぎない。偶々、山崎製パンの場合は、ミッション経営が、キリスト教の神の御心と合い通じるものがあったのであろう。
   最近、NHKでも、ドラッカー経営学の簡略版や名言集の一部を引いて、その言葉なり考え方に導かれて経営に成功した会社などを取り上げて、今に生きるドラッカー経営学と言った形で放映などされていたが、幸か不幸か、原典などお構いなしに、ドラッカー経営学は、聖書や仏典のように、一部のみを抜粋した名言集並に活用され始めたのである。

   さて、日経ビジネスで取り上げられている山崎製パンの強みだが、共同配送と言う業界の慣例に逆らって独自の配送システムを持ってコンビニなど毎日10万店へ直接配送していること、セブンイレブンとの取引を蹴ってでもプライベート・ブランド命令に屈しなかったこと、あんパン一つの経営利益まで算出する損益管理、工場同志が新商品の開発とヒット商品で競うこと、と言った点が列記されている。
   しかし、よく考えて見れば、当たり前のことで、特に、山崎製パンが業界をリードする秘密だと言うほど、卓越した経営手法であるとは思えない。

   ダイエーのディスカウント戦術に腹を立てた松下電器が、ダイエーと決別したケースもあるし、また、配送ロジスティックについては、共同配送が良いのか独自配送が良いのかは、必ずしも、言えない場合が多い。
   尤も、最近では、家電を筆頭に、メーカーよりも小売業の方が力が強くなってきて、価格決定権が移りつつあり、更に、プライベート・ブランドの隆盛などで、メーカーの独自性と経営の侵食が起こりつつあるなど、製造業が圧迫されるケースが多くなっており、これに抗して、巨大な流通業に対抗してでも、自主経営を維持し続けてきた山崎製パンの経営姿勢には、見上げたものではある。
   コスト管理の徹底や、製品開発やヒット商品での競争などは、まともなメーカーなら、当然実施すべき経営のイロハであり、特に新鮮味はないと思うのだが、地方性の強い乱立模様の業界で、市場占拠率40%を誇る地位にまで上り詰めたるためには、これらの要因の相互作用や良循環の結果だといえるのであろうか。

   ところで、日経ビジネスの指摘で、すんなりと了解できないのは、「デフレに屈せず」と言う論点で、肝心のパンの原料である小麦が、政府による官製調達であり、日清製粉との交渉はあろうが、山崎製パンが、小麦粉の調達で、一切、リスクを負わずにあてがいぶちであることである。
   規模のメリットと言っても、欧米の食品会社と比べれば弱小であるし、自社で小麦粉など原材料を自社調達すれば、コスト管理がどうなるかは、全く未知数であり、経営のリスク要因が加わることとなる。
 
   いずれにしろ、日経ビジネスの、「異端の経営・山崎製パン 止まらぬ成長デフレに屈せず」と記事の意図が良く分からなかった、と言うのが、私の感想である。

   ところで、私自身だが、毎朝、パン食だが、全く、山崎製パンのお世話にはなっていない。
   朝食は、決まって、UCCのブルーマウンテン・ブレンドをドリップして、カフェオレ風に仕立てて、レーズン・ブレッドにブルーべりージャムをたっぷり塗って頂いている。
   山崎の超芳醇レーズンパンは、良いと言うことだが、やはり、スーパーに並んでいるコモディティに過ぎず、味も感触も並だし、倍くらいの値段はするが、地元の個人経営のパン屋で買ったのを食べている。
   菓子類についても、やはり、地元の気に入った店を数軒決めていて、そこで買って頂いており、山崎製パンとは縁がない。
   このパンや菓子と言うのは、私の場合には、嗜好品であり、どうしても全国版のコモディティ商品には手が出ないのである。
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