ロシアは、かって、世界を二分して冷戦を戦った一方の盟主であり、共産主義革命の権化であった核の国。しかし、ソ連邦の崩壊と同時に、政治経済社会の混乱によって危機的状態に陥ったのだが、石油と天然ガス景気で持ち直し、今や、BRIC'sの一角を占める前途有望な新興国のリーダー。
この廣瀬先生の本は、最近のエジプトの反政府デモから、東日本大震災へのロシアの動きなど、最新の国際情勢にも言及しながら、今日のロシアの生々しい現状を活写していて非常に興味深い。
「プーチニズム」を筆頭に、出版されているロシア関係書の多くは、ロシアの権力の腐敗や秘密警察的な弾圧や思想統制など暗黒社会をレポートしたものが多いのだが、この本は、欧米やNATO、中国、イスラエル等々との外交関係や、旧ソ連圏の諸国との政治や内政・紛争など治安問題に比重を置いた現在ロシア論である。
異彩を放っているのは、やはり、グルジアやチェチェン紛争などでのロシアの執念とも言うべき徹底的な戦いなどについて、民族紛争の深部を抉り出して、問題提起を試みていることであろう。
プーチン首相についてのチェチェン問題への糾弾は凄まじい。
”プーチン首相は、・・・1999年の首相時代から、チェチェンに対する厳しい政策を取ってきたことで、絶大な人気を得たといわれている。プーチンが第二次チェチェン紛争を開始した直接の原因とされているが、ロシア各地でのアパート連続爆破事件は、プーチンの権力基盤であるFSBの「やらせ」であると言う内部告発者による証言があり、実際に証拠がある。プーチンは、自身の支持率を上げるために、チェチェンを攻撃する口実を作った上でチェチェンに対して厳しい政策を貫き、さらに、・・・「力強い指導者」として国民の強い支持を得た。つまり、プーチンらは、愛国者と外交人排斥傾向を弄んで来たのである。”
極左やネオナチなどに対して危険なほど寛容で、政治に関与しない限り安全弁として活用し、民族主義を自らの政治的権力強化の手段として利用して来たと言うのである。
モスクワやサンクトペテルブルグでは、コーカサス系やアジア系など他民族に対する憎悪による過激な暴力や襲撃事件が頻発している。
特に、チェチェンなどコーカサス系に対しては、
”ロシア人は、コーカサス系諸民族を古くから嫌っている。長く解決しないチェチェン紛争の背景も、グルジア紛争の背景も、究極的にはそこにある。ロシア人は、コーカサス系諸民族は、犯罪者や詐欺師ばかりで、非合法ビジネスで儲けたり、ロシアの治安を乱したりしていると考え、長らく蔑んできた。”
コーカサス系民族を叩けば、ロシアの民族主義を高揚させることが出来る。だからこそ、チェチェン紛争もグルジア紛争も多くのロシア人の支持を得て来たのだと言うのである。
FSB権力当局側の自作自演でも、テロが発生すると、きちんと調査せずに、当局は即座に、「北コーカサス系出身者」が容疑者であると発表するようだが、アメリカでの9.11で、同じテロに悩む国同士であるからと、ロシアがアメリカに急接近したのは、カモフラージュの為にも当然と言えば当然であろう。
メドヴェージェフ大統領は、法律家なので、「テロリストを法廷へ」をスローガンに掲げて、テロリストを逮捕して法によって裁くことにより、平和裏に北コーカサスの安定を取り戻そうとしているようだが、「力」で制圧して来たプーチンとの溝は深い。
それに、実質的な法治国家ではないロシアであるから、有効な法的解決などは難しいのではなかろうか。
「多民族・多宗教のロシア」を構成している多くの民族に対して一貫した政策を構築することが、経済に建て直しや民主化など政治問題と並び、急務であると言うのだが、大国ロシアの前途は、非常に厳しい。
ところで、チェチェンなどの民族問題を抱えているロシア以外にも、国内に分離独立問題を抱えている国が多く、旧ユーゴスラビアのコソヴォ問題などもそうだが、この民族問題をどう解決するのか、その帰趨が注目を集める。
台湾、チベット族、ウイグル族などの問題を抱える中国が一番深刻であろうが、グルジアやアゼルバイジャン、モルドヴァ、バスク問題を抱えるスペイン、キプロスなどにも火種があり、それに、今回の北アフリカや中東の紛争でイスラム系民族の台頭・連携が各地に波及して行ったように、文明の衝突が頻発する可能性も高くなってきている。
国内に異民族を抱えた国の大半は、戦争や征服など歴史的な過程で異民族を支配・同化して来た経緯があるのだが、今回、ノールウェーで発生したイスラム系移民排斥が問題提起した様に、EU諸国などでの多くの異民族移民を包含した多文化主義にも、新しい深刻な民族問題が惹起し始めている。
グローバル時代とは、民族問題も、逆に、グローバル化して行くのである。
ところで、このロシアだが、オバマが「リセット宣言」したとは言え、欧米のロシアへの対応は極めて厳しい。
ロシア外しのエネルギー開発と輸送路建設、旧ソ連諸国への「色革命」支援、NATO拡大、ミサイル防衛システムのポーランドとチェコへの設置問題、コソヴォの独立承認等々、欧米、特に、ブッシュの一国主義が締め上げ続けたのだが、ロシアも、グルジアとウクライナのNATO加盟問題では頭に来たと言う。
興味深かったのは、ロシアとイスラエルの接近であり、中国との親密化であるが、中国同様、南米にも触手を伸ばしはじめた。
学生の頃、ジョージ・ケナンの「アメリカ外交50年」を読んで、ソ連の囲い込み政策を勉強したのだが、正に、今昔の感である。
ロシアに関しては、日本人として、北方領土問題についても論じたいが、まだ、感情的な意識も残っているので、後日に回したいと思っている。
この廣瀬先生の本は、最近のエジプトの反政府デモから、東日本大震災へのロシアの動きなど、最新の国際情勢にも言及しながら、今日のロシアの生々しい現状を活写していて非常に興味深い。
「プーチニズム」を筆頭に、出版されているロシア関係書の多くは、ロシアの権力の腐敗や秘密警察的な弾圧や思想統制など暗黒社会をレポートしたものが多いのだが、この本は、欧米やNATO、中国、イスラエル等々との外交関係や、旧ソ連圏の諸国との政治や内政・紛争など治安問題に比重を置いた現在ロシア論である。
異彩を放っているのは、やはり、グルジアやチェチェン紛争などでのロシアの執念とも言うべき徹底的な戦いなどについて、民族紛争の深部を抉り出して、問題提起を試みていることであろう。
プーチン首相についてのチェチェン問題への糾弾は凄まじい。
”プーチン首相は、・・・1999年の首相時代から、チェチェンに対する厳しい政策を取ってきたことで、絶大な人気を得たといわれている。プーチンが第二次チェチェン紛争を開始した直接の原因とされているが、ロシア各地でのアパート連続爆破事件は、プーチンの権力基盤であるFSBの「やらせ」であると言う内部告発者による証言があり、実際に証拠がある。プーチンは、自身の支持率を上げるために、チェチェンを攻撃する口実を作った上でチェチェンに対して厳しい政策を貫き、さらに、・・・「力強い指導者」として国民の強い支持を得た。つまり、プーチンらは、愛国者と外交人排斥傾向を弄んで来たのである。”
極左やネオナチなどに対して危険なほど寛容で、政治に関与しない限り安全弁として活用し、民族主義を自らの政治的権力強化の手段として利用して来たと言うのである。
モスクワやサンクトペテルブルグでは、コーカサス系やアジア系など他民族に対する憎悪による過激な暴力や襲撃事件が頻発している。
特に、チェチェンなどコーカサス系に対しては、
”ロシア人は、コーカサス系諸民族を古くから嫌っている。長く解決しないチェチェン紛争の背景も、グルジア紛争の背景も、究極的にはそこにある。ロシア人は、コーカサス系諸民族は、犯罪者や詐欺師ばかりで、非合法ビジネスで儲けたり、ロシアの治安を乱したりしていると考え、長らく蔑んできた。”
コーカサス系民族を叩けば、ロシアの民族主義を高揚させることが出来る。だからこそ、チェチェン紛争もグルジア紛争も多くのロシア人の支持を得て来たのだと言うのである。
FSB権力当局側の自作自演でも、テロが発生すると、きちんと調査せずに、当局は即座に、「北コーカサス系出身者」が容疑者であると発表するようだが、アメリカでの9.11で、同じテロに悩む国同士であるからと、ロシアがアメリカに急接近したのは、カモフラージュの為にも当然と言えば当然であろう。
メドヴェージェフ大統領は、法律家なので、「テロリストを法廷へ」をスローガンに掲げて、テロリストを逮捕して法によって裁くことにより、平和裏に北コーカサスの安定を取り戻そうとしているようだが、「力」で制圧して来たプーチンとの溝は深い。
それに、実質的な法治国家ではないロシアであるから、有効な法的解決などは難しいのではなかろうか。
「多民族・多宗教のロシア」を構成している多くの民族に対して一貫した政策を構築することが、経済に建て直しや民主化など政治問題と並び、急務であると言うのだが、大国ロシアの前途は、非常に厳しい。
ところで、チェチェンなどの民族問題を抱えているロシア以外にも、国内に分離独立問題を抱えている国が多く、旧ユーゴスラビアのコソヴォ問題などもそうだが、この民族問題をどう解決するのか、その帰趨が注目を集める。
台湾、チベット族、ウイグル族などの問題を抱える中国が一番深刻であろうが、グルジアやアゼルバイジャン、モルドヴァ、バスク問題を抱えるスペイン、キプロスなどにも火種があり、それに、今回の北アフリカや中東の紛争でイスラム系民族の台頭・連携が各地に波及して行ったように、文明の衝突が頻発する可能性も高くなってきている。
国内に異民族を抱えた国の大半は、戦争や征服など歴史的な過程で異民族を支配・同化して来た経緯があるのだが、今回、ノールウェーで発生したイスラム系移民排斥が問題提起した様に、EU諸国などでの多くの異民族移民を包含した多文化主義にも、新しい深刻な民族問題が惹起し始めている。
グローバル時代とは、民族問題も、逆に、グローバル化して行くのである。
ところで、このロシアだが、オバマが「リセット宣言」したとは言え、欧米のロシアへの対応は極めて厳しい。
ロシア外しのエネルギー開発と輸送路建設、旧ソ連諸国への「色革命」支援、NATO拡大、ミサイル防衛システムのポーランドとチェコへの設置問題、コソヴォの独立承認等々、欧米、特に、ブッシュの一国主義が締め上げ続けたのだが、ロシアも、グルジアとウクライナのNATO加盟問題では頭に来たと言う。
興味深かったのは、ロシアとイスラエルの接近であり、中国との親密化であるが、中国同様、南米にも触手を伸ばしはじめた。
学生の頃、ジョージ・ケナンの「アメリカ外交50年」を読んで、ソ連の囲い込み政策を勉強したのだが、正に、今昔の感である。
ロシアに関しては、日本人として、北方領土問題についても論じたいが、まだ、感情的な意識も残っているので、後日に回したいと思っている。