熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ヘンリー・チェスブロウ著「オープン・サービス・イノベーション」

2013年06月15日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   ICTデジタル革命とグローバリゼーションの進展によって、テクノロジーの進歩と知識と情報の流れが加速すると同時に、新製品がどんどん市場に出回り、顧客のニーズを満たすために、カスタム化した製品やサービスへのニーズが増大し、製品寿命が益々短くなって、多くの企業が窮地に立っている。
   コモディティ化と製品ライフサイクルの短縮と言う避けられない圧力が組み合わさって、コモディティ・トラップ(コモディティ化の罠)に陥る。
   イノベーションの最先端を行く企業でさえ、イノベーションの手を緩めると、トレーニングマシーンのトレッドミルから振り落とされてしまう。

   さすれば、どうすればよいのか。
   コモディティ・トラップを回避して、成長への解決策を見つけるには、サービス分野でのイノベーションがキーであり、自社の壁を越えたオープン・サービス・イノベーションを目指して実現することによって、企業に大きな競争優位を齎すことが出来る。
   イノベーションと成長へのキー・コンセプトは、次の四点。
   収益性を維持し、成長し続けるためのビジネスとしてサービスを捉える
   顧客に価値ある経験を提供し、顧客と協働してイノベーションを共創する
   顧客、サプライヤー、補完財メーカーやサービス提供企業など自社のビジネスを取り巻く第三者の専門化がオープン・イノベーションを加速し、サービスのイノベーションや成長を深化させて行き、その結果、顧客の選択肢の幅が広がる
   社内のイノベーションで利益を得ながら、ビジネスの付加価値となる社外にあるイノベーションを刺激すると言う新たなビジネス・モデルが必要となる。

   この原則を適用することによって、ビジネスを成長させ、サービス中心の時代に生き残り、最終的には、コモディティ・トラップやトレッドミル状態から抜け出すためのイノベーションのフレームワークを作ることが出来る。
   以上が、チェスブロウのこの本の要旨だが、詳細な事例を引きながらのオープン・サービス・イノベーションの分析と展開が、非常に興味深い。

   オープン・イノベーションとは、チェスブロウがコインした概念だが、企業が内外部のアイデアを活用して、ビジネスを進めるにあたって双方の経路で市場に参入することを想定したパラダイムで、垂直統合型の研究開発モデルへのアンチテーゼだと言う。
   内部のイノベーションを加速し、同時にイノベーションを外部で利用させるため市場拡大の目的で、意図的に知識を流出、流入させる活用法である。
   チェスブロウは、サービス・イノベーションを、外部調達で自社の知識を拡張して行くアウトサイドイン型、自社の知財販売やライセンス提供するインサイドアウト型、二つを連結した価値共創型の、三つに分類しているが、いずれにしろ、成長発展のためには、イノベーションが必須であり、そのためには、オープン・ビジネス・モデルが最も有効だと考えている。
   ところが、多くが、優秀な研究者を多数抱えて、自社で自前主義で商品や技術を開発し、ブラックボックスで技術優位を死守するのが最も有効な経営戦略だと考えている日本企業には、オープン・ビジネスと言う経営概念は、まだまだ、定着するには程遠いようである。

   チェスブロウは、大企業や中小企業、新興国など、多岐にわたってオープン・サービス・イノベーションを例示している。
   ゼロックスは、本来、コピー機やプリンターを販売し、トナー、印刷用紙、サービス、ローン販売の金利などでも利益を上げていたが、現在では、顧客の社内にコピー機やプリンターを置いて使用料だけを請求する「マネージド・プリント・サービス」を提供している。
   このシステムでの委託で、P&Gは、コピー用紙の40%削減、経費の20~25%削減を見込んでいるのだが、ゼロックスの方も、どこよりもコピー機やプリンターに関する専門的な知識を活用し、より効率的にリソースを管理できるのみならず、全社的なニーズが総合的に把握でき、日々の業務から他社機器の性能など詳細情報や自社機器への乗り換えタイミングなどもキャッチでき、イノベーション推進にも大いに役立つと言う。

   GEアビエーションは、エンジン販売ではなく、エンジンのメインテナンス、スペア部品、ファイナンシングに眼を向けて、「パワー・バイ・ジ・アワー」モデルで、サービスから利益を得るようになった。

   製品やものを売るのではなく、サービスを売ると言うサービス重視のモデルで、ビジネスの提供価値が変わる。
   その一つとして、固定資産の一括購入費用を、長期にわたるが低額のランニングコストへ変換することによってビジネス・モデルを変えることが出来る。
   車を購入するか、タクシー、レンタル、あるいは、最近のカー・シェアリングにするか、お馴染みのケースだが、顧客は、低額のランニングコストや、需給によるフレキシビリティの価値や資産効率の良さの提供には敏感なので、製造販売会社は、このビジネス・モデルの活用を考えてみるべきであろう。

   
   オープン・サービス・イノベーションによって、規模の経済性と範囲の経済性を武器として手に入れたら、自社の能力を最大限に活用するために、有効なビジネス・プラットフォームを構築して、更に、自社のコア・コンピタンスから大きな価値や成長を得ることが出来るとして、アップルとアマゾンの確固たるビジネス・モデルを挙げている。
   オープン・ビジネス戦略による、正に、オープン・サービス・イノベーションの成果であろう。

   イノベーションそのものが、グローバル化している。
   企業は、グローバルなイノベーション・サービスのチェーンにおいて、総てを完結するのではなくて、その一部となることで成功する。
   新興国で開発されて国際化したリバース・イノベーションや、途上国と先進国の両方の長所を取り入れたハイブリッド企業の存在。
   アイデア、技術、人材、サービス等々を求めてグローバル市場へ、オープン・ビジネス・イノベーション戦略を掲げて邁進する、これこそが、残された唯一のコモディティ・トラップからの解放の道だと、チャスブロウは説くのである。
   

   余談ながら、チャスブロウが、イノベーション環境がフラット化していると指摘している点を考えてみたい。
   かってと比べて研究開発の規模の経済性が小さくなって、分散化した環境では、あらゆる組織の企業が外部の技術やアイデアを広く活用できるようになったと言う指摘で、イノベーション活動において、中小企業が不可欠な存在となってきたと言うことである。

   これこそ、正に、ICTデジタル革命による知識情報の爆発・拡散の成せる業であり、中小企業や個人だけではなく、遅れていた新興国や途上国が、かってなかった程、容易に早く、先進国や先進国企業へキャッチアップ出来ると言うことであって、考え方によっては、地球上全体がフラットになって、下克上状態になっても不思議ではなくなったと言うことであろう。
   何の柵もない、何の過去の遺産も呪縛もない、遅れたもの程、すべての人類の知恵と英知を活用して、キャッチアップ出来る時代になったと言うことであり、日本が取り残されて、どんどん、遅れて行くのも当たり前だと言うことである。
 
   
コメント
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