以前に、アメリカの最高かつ最大の書店バーンズ&ノーブルが、ネット・ブック・ショップとして開業したアマゾンの追撃に対抗できなかったことにふれ、既存の成功会社として権威を誇っていた企業と言えども、如何に簡単に駆逐されてしまうか、そして、破壊者による破壊的イノベーションの威力がどれほど凄まじいかについて書いた。
その後のバーンズ&ノーブルの、謂わば、帆船効果とも言うべき既存事業の再ポジショニングや電子書籍事業への転身などについて、HBRに「相反する2つの変革を同時に進める法」と言う興味深い論文で、紹介されているので、考えてみたいと思う。
クリステンセンが、「イノベーターのジレンマ」で、イノベーターとして成功して一挙に時代の寵児となって繁栄を謳歌していた企業が、その成功故に、破壊的イノベーションを起こして追撃してきた企業に駆逐されてしまうと言う熾烈な現実を指摘して以降、この既存の企業が、その地位を如何にして維持するかが、経営学上のホット・トピックスとなって、クリステンセンはじめ、多くの経営学者などが持論を展開してきたのだが、依然、決定論は出るすべもないようである。
このHBRの論文も、その一環の研究で、エイドリアン・J・スライウォツキーが、ダブル・ベッティングとして提唱していた議論の焼き直しと言った感じで、既存のコア事業の再ポジショニングと破壊的な新規事業の開発と言う2つの事業を同時並行で進めるべきと言う理論である。
成功するためには、コア事業での優位性や財務基盤を維持するなど、ケイパビリティ(組織的能力)の交換によって、経営資源の共有を図って、相乗効果を引き出し、2つの事業を阻害なく成功させることだとして、ゼロックスやバーンズ&ノーブル、デザレットを例に引いて論じている。
しかし、後述するが、必ずしも、バーンズ&ノーブルが起死回生したとは思えないし、このような二股戦略を完遂するなどと言うのは、余程、有能な経営者がいて、強力かつ卓越したリーダーシップを発揮できる能力を有するなど恵まれた経営環境になければ、至難の業である。
むしろ、かってのソニーやスティーブ・ジョブズ時代のアップルのように、次々と、破壊的イノベーションを連発して、企業を成長軌道に乗せて行く方が、優しいかも知れない。
それ程、破壊的イノベーションによって、市場を制覇した成功企業ほど、持続的な発展成長維持は、難しいのである。
今回は、破壊的イノベーターの成長維持戦略については言及せず、バーンズ&ノーブルの新戦略の展開についてのみ、議論して見たい。
まず、既存事業の再ポジショニングについてだが、B・ダルトンとして展開していた798店舗すべてと旗艦店を含めて業績不振のメガストアを閉鎖した。
同時に、教科書部門を積極的に拡大し、大学内書店の委託運営を手掛けるアメリカ有数の企業を買収し、また、利益率の高いギフト用の商品や書籍、児童書、教科書に特化した。
このコア事業の荒療治とも言うべき再ポジショニングによって、700店近くのチェーン店が黒字を出しているので、今後数年は持ちこたえられそうだと言う。
大学の教科書なら、完全に売れるし、大学の書店なら、アマゾンで買うよりは、実際に書店で本を確認して買う学者や学生の方が多いであろう。
また、ギフトの買い物や子供と一緒にゆっくりしたりしながら充実した時間を過ごせる買い物の場を、チェーン店に設営するなど、実際に商品を並べるスペース、ブランド構築、出版社ネットワーク、顧客情報等、持てる経営リソースを活用して、アマゾンとの差別化を図った。
もう一方の破壊的事業と言うべき電子書籍事業についてだが、eコマース事業の重役であったウイリアム・リンチを引き抜いて、電子書籍の専用端末ヌック(NOOK GlowLight)を立ち上げた。
カラー画面のヌックで、アマゾンの機先を制して、僅か2年で電子書籍市場の27%を獲得して、出版業界を驚かせたと言う。
しかし、同社の売上高の大部分は、依然として小売部門が上げていて、ヌック事業は、多大な開発コストが回収できずに赤字である。
さて、現実だが、
この記事がHBRに掲載されたのは12年12月で、その後、13年11月27日のロイター電子版に、「米バーンズ&ノーブルは減収、電子書籍部門の不振続く」と言う記事が掲載されて、”電子書籍端末「ヌック」および電子書籍をはじめ、全部門で売上高が減少し、オンライン小売のアマゾン・ドット・コムに苦戦を強いられている状況が浮き彫りとなった。”と報じている。
総売上高は17億3000万ドルと、前年同期の18億8000万ドルから減少したのだが、純利益はコスト削減が奏功し1320万ドルと、前年同期の50万1000ドルから増加した。
しかし、電子書籍端末「ヌック」および電子書籍の売上高は32.2%減の1億0870万ドルとなり、大幅に下方後退したと言う。
Barnes & Nobleのホームページを開くと、New! NOOK GlowLight の写真と$119を$107に値引きする表示がされているが、やはり、トップに出るのは、Biggest Booksで、紙媒体の本の販売広告。
興味深いのは、New for Kids and Teensと言う大項目があって、子供本に力を入れているのが分かる。
さて、この論文の最後に、
バーンズ&ノーブルの将来は、ダイナミックな電子書籍市場にある。
バーンズ&ノーブルは、書籍販売に会社ではなくテクノロジーの会社だと言う。
私が、フィラデルフィアで勉強していた頃は、バーンズ&ノーブルと言えば、大変な書店で、知の香りのする素晴らしい場を提供していて、ニューヨークに出かけた時には、METとともに憧れの場所であった。
しかし、大分前に、ボストンに行った時に、市内の大きなバーンズ&ノーブルの店舗に出かけたのだが、何の魅力もない店になっていたので、大変失望したのを覚えている。
日本の大型書店も、イノベーションを追求して魅力的な店舗づくりと、革新的で魅力ある文化的な香りのするビジネスモデルを構築できなければ、アマゾンに、どんどん、追い込まれて行くに違いない。
最近、神田神保町の三省堂書店が、1Fを中心に大幅な模様替えをしたのだが、コスト削減を目的としたしか思えないような改造で、書店としての魅力は、何も加わっていない。
東京駅近辺の大型書店も、書棚などのディスプレィが変わるくらいで、この数年、いや、10年以上も何の進歩も変化もないように思う。
最近では、何か、私の知らない本でも出版されていないか、見るくらいしか、大型書店に行く目的がなくなってしまった。
その後のバーンズ&ノーブルの、謂わば、帆船効果とも言うべき既存事業の再ポジショニングや電子書籍事業への転身などについて、HBRに「相反する2つの変革を同時に進める法」と言う興味深い論文で、紹介されているので、考えてみたいと思う。
クリステンセンが、「イノベーターのジレンマ」で、イノベーターとして成功して一挙に時代の寵児となって繁栄を謳歌していた企業が、その成功故に、破壊的イノベーションを起こして追撃してきた企業に駆逐されてしまうと言う熾烈な現実を指摘して以降、この既存の企業が、その地位を如何にして維持するかが、経営学上のホット・トピックスとなって、クリステンセンはじめ、多くの経営学者などが持論を展開してきたのだが、依然、決定論は出るすべもないようである。
このHBRの論文も、その一環の研究で、エイドリアン・J・スライウォツキーが、ダブル・ベッティングとして提唱していた議論の焼き直しと言った感じで、既存のコア事業の再ポジショニングと破壊的な新規事業の開発と言う2つの事業を同時並行で進めるべきと言う理論である。
成功するためには、コア事業での優位性や財務基盤を維持するなど、ケイパビリティ(組織的能力)の交換によって、経営資源の共有を図って、相乗効果を引き出し、2つの事業を阻害なく成功させることだとして、ゼロックスやバーンズ&ノーブル、デザレットを例に引いて論じている。
しかし、後述するが、必ずしも、バーンズ&ノーブルが起死回生したとは思えないし、このような二股戦略を完遂するなどと言うのは、余程、有能な経営者がいて、強力かつ卓越したリーダーシップを発揮できる能力を有するなど恵まれた経営環境になければ、至難の業である。
むしろ、かってのソニーやスティーブ・ジョブズ時代のアップルのように、次々と、破壊的イノベーションを連発して、企業を成長軌道に乗せて行く方が、優しいかも知れない。
それ程、破壊的イノベーションによって、市場を制覇した成功企業ほど、持続的な発展成長維持は、難しいのである。
今回は、破壊的イノベーターの成長維持戦略については言及せず、バーンズ&ノーブルの新戦略の展開についてのみ、議論して見たい。
まず、既存事業の再ポジショニングについてだが、B・ダルトンとして展開していた798店舗すべてと旗艦店を含めて業績不振のメガストアを閉鎖した。
同時に、教科書部門を積極的に拡大し、大学内書店の委託運営を手掛けるアメリカ有数の企業を買収し、また、利益率の高いギフト用の商品や書籍、児童書、教科書に特化した。
このコア事業の荒療治とも言うべき再ポジショニングによって、700店近くのチェーン店が黒字を出しているので、今後数年は持ちこたえられそうだと言う。
大学の教科書なら、完全に売れるし、大学の書店なら、アマゾンで買うよりは、実際に書店で本を確認して買う学者や学生の方が多いであろう。
また、ギフトの買い物や子供と一緒にゆっくりしたりしながら充実した時間を過ごせる買い物の場を、チェーン店に設営するなど、実際に商品を並べるスペース、ブランド構築、出版社ネットワーク、顧客情報等、持てる経営リソースを活用して、アマゾンとの差別化を図った。
もう一方の破壊的事業と言うべき電子書籍事業についてだが、eコマース事業の重役であったウイリアム・リンチを引き抜いて、電子書籍の専用端末ヌック(NOOK GlowLight)を立ち上げた。
カラー画面のヌックで、アマゾンの機先を制して、僅か2年で電子書籍市場の27%を獲得して、出版業界を驚かせたと言う。
しかし、同社の売上高の大部分は、依然として小売部門が上げていて、ヌック事業は、多大な開発コストが回収できずに赤字である。
さて、現実だが、
この記事がHBRに掲載されたのは12年12月で、その後、13年11月27日のロイター電子版に、「米バーンズ&ノーブルは減収、電子書籍部門の不振続く」と言う記事が掲載されて、”電子書籍端末「ヌック」および電子書籍をはじめ、全部門で売上高が減少し、オンライン小売のアマゾン・ドット・コムに苦戦を強いられている状況が浮き彫りとなった。”と報じている。
総売上高は17億3000万ドルと、前年同期の18億8000万ドルから減少したのだが、純利益はコスト削減が奏功し1320万ドルと、前年同期の50万1000ドルから増加した。
しかし、電子書籍端末「ヌック」および電子書籍の売上高は32.2%減の1億0870万ドルとなり、大幅に下方後退したと言う。
Barnes & Nobleのホームページを開くと、New! NOOK GlowLight の写真と$119を$107に値引きする表示がされているが、やはり、トップに出るのは、Biggest Booksで、紙媒体の本の販売広告。
興味深いのは、New for Kids and Teensと言う大項目があって、子供本に力を入れているのが分かる。
さて、この論文の最後に、
バーンズ&ノーブルの将来は、ダイナミックな電子書籍市場にある。
バーンズ&ノーブルは、書籍販売に会社ではなくテクノロジーの会社だと言う。
私が、フィラデルフィアで勉強していた頃は、バーンズ&ノーブルと言えば、大変な書店で、知の香りのする素晴らしい場を提供していて、ニューヨークに出かけた時には、METとともに憧れの場所であった。
しかし、大分前に、ボストンに行った時に、市内の大きなバーンズ&ノーブルの店舗に出かけたのだが、何の魅力もない店になっていたので、大変失望したのを覚えている。
日本の大型書店も、イノベーションを追求して魅力的な店舗づくりと、革新的で魅力ある文化的な香りのするビジネスモデルを構築できなければ、アマゾンに、どんどん、追い込まれて行くに違いない。
最近、神田神保町の三省堂書店が、1Fを中心に大幅な模様替えをしたのだが、コスト削減を目的としたしか思えないような改造で、書店としての魅力は、何も加わっていない。
東京駅近辺の大型書店も、書棚などのディスプレィが変わるくらいで、この数年、いや、10年以上も何の進歩も変化もないように思う。
最近では、何か、私の知らない本でも出版されていないか、見るくらいしか、大型書店に行く目的がなくなってしまった。