今日の日本の経済社会の現実を、これ程、ビビッドに活写して、これからの課題を、鮮明に解き明かした本は、少ないと思う。
「なぜローカル経済から日本は甦るのか」と言うタイトルには、増田 寛也氏が、「地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減」で提示したように、「このままでは896の自治体が消滅しかねない」と言ったドラスティックな地方崩壊とも言うべき雪崩現象が、制止し得ない歴史的趨勢であるとするならば、条件付きで、疑問符をつけざるを得ないとは思うのだが、注目すべき卓見と示唆に富んだ警世の書であると思う。
まず、この本の前提は、日本経済のパラダイムシフトの中で、日本経済には、グローバル経済圏「Gの世界」と、ローカル経済圏「Lの世界」が共存するのだが、この両者は、全く違った経済法則に基づいて動いており、前者は、製造業やIT産業が中心の「規模の経済性」が働く世界で、この分野で活躍している日本企業は、かなり善戦しているが、日本に残すのは、本社・本部機能や研究開発など高度な機能に限定されており、国内雇用効果も少なく、トリクルダウン現象も、あまり期待できなくなって来ている。
一方、日本経済の7割は、本質的に「コト」の価値を顧客に提供する分散的な経済構造を持つ非製造業中心の後者のローカル経済圏であり、グローバル経済とは殆ど関わりなく、生産性が非常に低く、ここに、日本経済の本質的な問題がある。
この「GとL」を理解しなければ、日本経済の現実も深刻な格差の実相も見えて来ないと言うことである。
製造業については、国際競争力如何が総てを制するのだが、
中小メーカーについては、小さくても世界チャンピオンを目指すか、さもなくばチャンピオン級の大手メーカーの必要不可欠な協力パートナーになる以外には、生きて行く道はないと言う。
さて、Lの世界であるが、
今や、中小企業の9割以上が非製造業であり、大半の企業と大半の人がグローバル経済とは無縁で、全国のローカル経済圏で、それも、地域密着型の中小非製造業で生きている。
このローカル経済圏では、どんどん、人口が減って収縮して行き、マーケットが小さくなっているのだが、同時に、深刻なのは、人口減と共に、労働力の供給が止まって、どんどん、減少している。特に、対面型のサービス産業は、完全にその地域場所に規定されるので、供給は硬直化し、著者のバス会社でも、深刻な運転手不足だと言う。
労働生産性格差では、大企業と中小企業の差が大きいのは、製造業より非製造業の方で、その上に、製造業より非製造業の方の生産性が低いので、小規模の非製造業の生産性は、著しく低い。
日本の非製造業の生産性が、先進国でも低い方だが、その原因は、生産性の低い中小企業の淘汰が驚くほど進んでおらず、地域内の過当競争が解消しないまま、ブラック企業化しながらも生き続けている。
密度の経済性が働くローカル経済圏は、元々淘汰が起こりにくい上に、中小企業政策で延命を助け、更に、個人御連帯保証や信用保証など金融システムの問題が、企業の退出コストを上げていて、新陳代謝が進まないと言うのである。
ところが、同時に、地方では、老齢化や若者の転出などで急速に労働者不足が深刻化しており、緩慢な需要減退にも拘らずそれさえ満たし得ず、更に需給関係が逼迫して経済環境を悪化させて行く一方である。
解決策は、生産性の低い企業には、穏やかに退出して貰い、事業と雇用を生産性の高い企業に滑らかに集約して効率化を図り、格差の伸びしろを埋めて生産性を上げることである。
しからば、どのようにして、Lの世界の非製造業の生産性を上げるのか、
有能な経営者を育成して、ベストプラクティスを経営に反映させて、生産性を上げる。
労働市場においては、最低賃金を上げて退出企業を増やして、生産性も賃金も高い企業への労働移動を促進する。
ゾンビ企業を退出させるためには、地域金融機関が適切な「デットガバナンス」を効かせること、労働生産性を高める潜在力を持った企業であり経営者の資質が十分なのかどうかを確認して融資。
金融庁の検査基準の見直し、
倒産法を、アメリカ型にして、穏やかな退出と集約化を促進、等々例示し、
退出によって自己破産する必要のない個人放保証など、フォローなども細部に亘って分析を進めている。
グローバル経済圏での日本企業の勝ち抜き策とか、ローカル経済のあるべき姿として提言されている諸政策などについての著者の見解については、細部は別にして殆ど異存はないし、卓見だと思っている。
私が、一点非常に興味を持った点は、
団塊の世代の退職なども含めて、未曽有の人手不足を引き起こすので、正社員ブームを巻き起こそうとしている。
今回のアベノミクスは、ハンドリングさえ間違えなければ格差問題は深刻化しないだろう。
猛烈な人手不足が進んで行くので、賃金も上がり易いからだ。
と言う著者の見解である。
昔、高度成長の時期に、人手不足で、散髪や美容などのサービス産業の賃金や料金が異常に高騰したことがあったが、あのような現象が、また、再発すると言うことであろうか。
あの時は、生産性のアップを全く伴わない非生産的な産業においてまで、賃金が上昇したのだが、もし、そのような状態が起こるのなら、前述の非生産的な企業を淘汰して効率の良い産業に経営資源を集中して経済成長を図ると言う図式が、頓挫してしまうのではないであろうか。
著者は、ユニクロの非正規雇用を一挙に正社員化したのは、止むを得ない従業員の囲い込みであって、今日のように人材を囲い込んで維持しなければ生きて行けなくなった状態では、労働者を正社員として厚遇するしかない。
したがって、非正規雇用の問題も、製造業の偽装下請の問題も、根本的な解決策が提示される前に、重要なイシューではなくなって行く。
この構造的なパラダイムシフトは強烈に日本を襲い、この今こそ、経済と雇用と賃金再生の大チャンスだと言うのである。
私自身は、このパラダイムシフトに対応できるのは、競争力のある大企業なり優良企業だけであって、益々、二重構造の溝を深くして行くと思っており、
もし、そうではなく、ゾンビ企業や非生産的な企業が、その恩恵に預かるようなことになれば、逆戻りするのではないかと思う。
いずれにしろ、日本経済社会の少子高齢化による人口減少が、需要の減退による経済成長の鈍化を惹起するのみならず、真っ先に、最も、非生産的なローカル経済の労働市場を直撃して、供給力の異常なる減少と人手不足を引き起こして、日本経済を窮地に追い込みつつあると言う著者の指摘は、実に新鮮強烈であり、足元から十分見つめてみることが如何に重要かを示唆していて興味深い。
「なぜローカル経済から日本は甦るのか」と言うタイトルには、増田 寛也氏が、「地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減」で提示したように、「このままでは896の自治体が消滅しかねない」と言ったドラスティックな地方崩壊とも言うべき雪崩現象が、制止し得ない歴史的趨勢であるとするならば、条件付きで、疑問符をつけざるを得ないとは思うのだが、注目すべき卓見と示唆に富んだ警世の書であると思う。
まず、この本の前提は、日本経済のパラダイムシフトの中で、日本経済には、グローバル経済圏「Gの世界」と、ローカル経済圏「Lの世界」が共存するのだが、この両者は、全く違った経済法則に基づいて動いており、前者は、製造業やIT産業が中心の「規模の経済性」が働く世界で、この分野で活躍している日本企業は、かなり善戦しているが、日本に残すのは、本社・本部機能や研究開発など高度な機能に限定されており、国内雇用効果も少なく、トリクルダウン現象も、あまり期待できなくなって来ている。
一方、日本経済の7割は、本質的に「コト」の価値を顧客に提供する分散的な経済構造を持つ非製造業中心の後者のローカル経済圏であり、グローバル経済とは殆ど関わりなく、生産性が非常に低く、ここに、日本経済の本質的な問題がある。
この「GとL」を理解しなければ、日本経済の現実も深刻な格差の実相も見えて来ないと言うことである。
製造業については、国際競争力如何が総てを制するのだが、
中小メーカーについては、小さくても世界チャンピオンを目指すか、さもなくばチャンピオン級の大手メーカーの必要不可欠な協力パートナーになる以外には、生きて行く道はないと言う。
さて、Lの世界であるが、
今や、中小企業の9割以上が非製造業であり、大半の企業と大半の人がグローバル経済とは無縁で、全国のローカル経済圏で、それも、地域密着型の中小非製造業で生きている。
このローカル経済圏では、どんどん、人口が減って収縮して行き、マーケットが小さくなっているのだが、同時に、深刻なのは、人口減と共に、労働力の供給が止まって、どんどん、減少している。特に、対面型のサービス産業は、完全にその地域場所に規定されるので、供給は硬直化し、著者のバス会社でも、深刻な運転手不足だと言う。
労働生産性格差では、大企業と中小企業の差が大きいのは、製造業より非製造業の方で、その上に、製造業より非製造業の方の生産性が低いので、小規模の非製造業の生産性は、著しく低い。
日本の非製造業の生産性が、先進国でも低い方だが、その原因は、生産性の低い中小企業の淘汰が驚くほど進んでおらず、地域内の過当競争が解消しないまま、ブラック企業化しながらも生き続けている。
密度の経済性が働くローカル経済圏は、元々淘汰が起こりにくい上に、中小企業政策で延命を助け、更に、個人御連帯保証や信用保証など金融システムの問題が、企業の退出コストを上げていて、新陳代謝が進まないと言うのである。
ところが、同時に、地方では、老齢化や若者の転出などで急速に労働者不足が深刻化しており、緩慢な需要減退にも拘らずそれさえ満たし得ず、更に需給関係が逼迫して経済環境を悪化させて行く一方である。
解決策は、生産性の低い企業には、穏やかに退出して貰い、事業と雇用を生産性の高い企業に滑らかに集約して効率化を図り、格差の伸びしろを埋めて生産性を上げることである。
しからば、どのようにして、Lの世界の非製造業の生産性を上げるのか、
有能な経営者を育成して、ベストプラクティスを経営に反映させて、生産性を上げる。
労働市場においては、最低賃金を上げて退出企業を増やして、生産性も賃金も高い企業への労働移動を促進する。
ゾンビ企業を退出させるためには、地域金融機関が適切な「デットガバナンス」を効かせること、労働生産性を高める潜在力を持った企業であり経営者の資質が十分なのかどうかを確認して融資。
金融庁の検査基準の見直し、
倒産法を、アメリカ型にして、穏やかな退出と集約化を促進、等々例示し、
退出によって自己破産する必要のない個人放保証など、フォローなども細部に亘って分析を進めている。
グローバル経済圏での日本企業の勝ち抜き策とか、ローカル経済のあるべき姿として提言されている諸政策などについての著者の見解については、細部は別にして殆ど異存はないし、卓見だと思っている。
私が、一点非常に興味を持った点は、
団塊の世代の退職なども含めて、未曽有の人手不足を引き起こすので、正社員ブームを巻き起こそうとしている。
今回のアベノミクスは、ハンドリングさえ間違えなければ格差問題は深刻化しないだろう。
猛烈な人手不足が進んで行くので、賃金も上がり易いからだ。
と言う著者の見解である。
昔、高度成長の時期に、人手不足で、散髪や美容などのサービス産業の賃金や料金が異常に高騰したことがあったが、あのような現象が、また、再発すると言うことであろうか。
あの時は、生産性のアップを全く伴わない非生産的な産業においてまで、賃金が上昇したのだが、もし、そのような状態が起こるのなら、前述の非生産的な企業を淘汰して効率の良い産業に経営資源を集中して経済成長を図ると言う図式が、頓挫してしまうのではないであろうか。
著者は、ユニクロの非正規雇用を一挙に正社員化したのは、止むを得ない従業員の囲い込みであって、今日のように人材を囲い込んで維持しなければ生きて行けなくなった状態では、労働者を正社員として厚遇するしかない。
したがって、非正規雇用の問題も、製造業の偽装下請の問題も、根本的な解決策が提示される前に、重要なイシューではなくなって行く。
この構造的なパラダイムシフトは強烈に日本を襲い、この今こそ、経済と雇用と賃金再生の大チャンスだと言うのである。
私自身は、このパラダイムシフトに対応できるのは、競争力のある大企業なり優良企業だけであって、益々、二重構造の溝を深くして行くと思っており、
もし、そうではなく、ゾンビ企業や非生産的な企業が、その恩恵に預かるようなことになれば、逆戻りするのではないかと思う。
いずれにしろ、日本経済社会の少子高齢化による人口減少が、需要の減退による経済成長の鈍化を惹起するのみならず、真っ先に、最も、非生産的なローカル経済の労働市場を直撃して、供給力の異常なる減少と人手不足を引き起こして、日本経済を窮地に追い込みつつあると言う著者の指摘は、実に新鮮強烈であり、足元から十分見つめてみることが如何に重要かを示唆していて興味深い。