テラスモール湘南の109シネマズで上演されるようになったので、これ幸いと、METライブビューイングのドニゼッティ「愛の妙薬」を鑑賞に出かけた。
キャスト等は、次の通り。
指揮:ドミンゴ・インドヤーン
演出:バートレット・シャー
出演:ネモリーノ:マシュー・ポレンザーニ、
アディーナ:プレティ・イェンデ、
ベルコーレ軍曹:ダヴィデ・ルチアーノ
ドゥルカマーラ博士:イルデブランド・ダルカンジェロ、
もう随分前、ロンドンに居た時に、ロイヤル・オペラで、パバロッティのネモリーノを聴いたのだが、アディーナは、愛聴していたレヴァイン指揮のMET版のキャサリン・バトルではなく、忘れてしまったが、イタリアのソプラノであったような気がする。
パバロッティの「人知れぬ涙」を聴いた時の至福感は勿論、同じロイヤルで聴いたトスカの「星も光りぬ」で涙を見せていた姿など、忘れ得ない思い出である。
今回のネモリーノを演じたボレンザーニの、実に誠実で純愛に満ちた農夫の青年の姿も感動的だが、どちらかと言うと不器用で朴訥そうなパバロッティのラテン系の田舎青年の雰囲気が、また、笑わせて泣かせるのである。
さて、キャサリン・バトルは、行状を非難されてMETから追放されて歌手生命を棒に振ったのだが、ロンドンでは、ロイヤル・オペラの「ドン・パスクワーレ」やリサイタルで2度ほど聴いていて、美しい舞台姿と素晴らしい美声は抜群であった。
今回、アディーナを歌ったのは、南ア出身のプレティ・イェンデで、同じようなアフリカ系で一寸大柄のソプラノだったが、実に上手くて感動的であり、圧倒されてしまった。
HPによると、リリック・コロラトゥーラの新星。2012年スカラ座、2013年METデビュー。驚異的な歌唱技術を誇るとともに、声も容姿も人を引きつけるものを持ち、次代を担うスターのひとりとして注目されている。と言うことであり、さもありなんと思う。
アメリカ系のソプラノでは、舞台姿は兎も角、レオンタイン・プライスやジェーシー・ノーマンと言った超ド級のオペラ歌手がおり、グレース・バンブリー やシャーリー・ヴァーレットなども、オペラハウスで観て聴いているが、素晴らしい歌手がいる。
一寸長いが面白いのでストーリーをダイジェストすると、
ネモリーノは、才色兼備のアディーナを愛しているのだが、彼女は純朴で弱気なネモリーノには興味がない。アディーナは『トリスタンとイゾルデ』の本を他の村娘たちに読んで「飲めばたちどころに恋が成就する愛の妙薬」の話をする。そこへ、村に駐屯中のベルコーレ軍曹が行軍を率いて登場し、お互いに一目惚れの風体なので、ネモリーノは焦る。
旅回りの薬売りドゥルカマーラ博士が登場して、弁舌爽やかな巧みな宣伝口上で、あらゆる病気にも効くと言う万能薬を、村人に売り付ける。恋に悩むネモリーノが、ドゥルカマーラに「イゾルデの妙薬」が欲しいと言ったので、ドゥルカマーラは、こんなバカは見たことないと思って、ただのワインを「秘薬」として高値で売りつける。効果が出るまで1日待てと言われて、早速一口試飲したネモリーノは、明日は、アディーナは、我が物になると「秘薬」の勢いで気が大きくなって、彼女が近づいてきても、そっけない態度をとる。手玉に取っていた男が態度を急変させたことに困惑し、ベルコーレ軍曹の求婚に応じてしまう。妙薬の薬効で、鷹揚に構えていたネモリーノだが、ベルコーレ隊に明日進軍の命令が出たので、急遽今晩アディーナと婚礼を挙げると知って慌てる。
アディーナとベルコーレ軍曹の婚礼の場で、人々は陽気に飲み、歌うが、いざ結婚の署名になると、アディーナはなぜか躊躇して明日朝まで待てと言う。一方、妙薬の効き目を早めたいネモリーノは、ドゥルカマーラに懇願するが、追加の妙薬を買う金がない。切羽詰まって、恋敵ベルコーレ軍曹の部隊に一兵卒として入隊することにして、前払い給料20スクードを貰って秘薬を1本買って、飲み干して眠り込む。
一方、村娘たちは、弁護士からの極秘情報だと、彼の伯父が死んだので、残った巨額の遺産はネモリーノがすべて相続すると聞かされて、玉の輿を夢見て一気にネモリーノへ靡く。酔いから醒めたネモリーノは、急に人気者になって村娘たちに取り巻かれたので、妙薬の効き目が出たと大喜びする。ところが、何も知らないアディーナは、娘たちに囲まれるネモリーノを見て、心中穏やかでないのだが、ドゥルカマーラから、ネモリーノが秘薬を手に入れる為に命の補償も顧みず軍隊に入ったことを聞かされ、アディーナは思わず涙を流す。アディーナは、自分も本当は、純朴で一途に自分を愛してくれているネモリーノに恋していることに気づいて、入隊契約書をベルコーレから買い戻して彼に渡し、心配しなくてもよいと愛を告白する。こうして愛を成就した二人を村人たちは祝福し、ドゥルカマーラも、自分が愛の妙薬を製造したのだと満更でもない顔をして村を去って行く。
このオペラは、村の青年や乙女たち群衆は、合唱団としてたくさん登場するが、主役の4人が大車輪の活躍で、夫々、素晴らしい歌唱を披露して楽しませてくれる。
専門的で良く分からないのだが、ドニゼッティは、この「愛の妙薬」作曲後、甘い旋律を連綿と歌い上げる近代的唱法への萌芽を見せ、完璧なドニゼッティ節を完成し、ここで、彼の施律美は最高の美しさを発揮したと言うのである。
冒頭の「なんとかわいい人だ」と言うネモリーノのアリアからゾッコン、とにかく、最初から最後まで、美しくて甘美なドニゼッティ節が連綿と織りなして心地よく、良質なラブ・コメディが、くすぐり続けてくれるのだから、実に楽しい。
さて、指揮者のドミンゴ・インドヤーンは、ベネズエラ生まれで、あの彗星のごとく登場して世界中をうならせたドゥダメルを生んだ音楽教育システム「エル・システマ」でヴァイオリンを学んだとかで、ベルリン国立歌劇場でバレンボイムのアシスタントを務め、同歌劇場でオペラデビューしたと言う。
その後、イギリスで、ロンドンフィルやフィルハーモニアで、エサペッカ・サローネンやアンドリュー・デイビスやベルナルド・ハイティンクの薫陶を受けていると言うので、ヨーロッパでも将来を嘱望されているのであろう。
ネモリーノのマシュー・ポレンザーニは、1997年にMETデビューで、15演目以上のタイトルロールほか重要なテノールの舞台を300回以上もこなしていると言うから、METの主のような存在。心を震わせる甘い声と華のある存在感で、アメリカを中心に世界的に活躍と言うのだが、初々しい田舎男の何とも言えない雰囲気が良い。
もう一つ特筆すべきは、ベルコーレ軍曹のバリトン:ダヴィデ・ルチアーノと、ドゥルカマーラ博士のバス:イルデブランド・ダルカンジェロの二人のイタリア人歌手の素晴らしい歌唱と達者で実にコミカルな演技の冴え、
甘味で楽しいこの喜歌劇を、更に、面白く華を添えて磨き上げている。
METは、このブログでも、ニューヨーク紀行やクラシック音楽で結構観劇記を書いているが、1972年に、確か、ボエームあたりから通い始めたので、20回以上は行っていると思うのだが、正直なところ、臨場感など、すべてにおいて、METの劇場で味わう方がベターだと思うが、
METライブビューイングは、恐らく、絶えず移動しながらの最高の席からのビューイングなので、臨場感を除けば、これ以上の贅沢はないと思う。
それに、字幕がついていて、解説やインタビューがあり、ニューヨークのMETでも、これ程、オペラを楽しめる好機はないと思っている。
(追記)口絵写真は、HPから借用したが、借用ついでに、マシュー・ポレンザーニ(「人知れぬ涙」を熱唱)とプレティ・イェンデの写真は次の通り、


キャスト等は、次の通り。
指揮:ドミンゴ・インドヤーン
演出:バートレット・シャー
出演:ネモリーノ:マシュー・ポレンザーニ、
アディーナ:プレティ・イェンデ、
ベルコーレ軍曹:ダヴィデ・ルチアーノ
ドゥルカマーラ博士:イルデブランド・ダルカンジェロ、
もう随分前、ロンドンに居た時に、ロイヤル・オペラで、パバロッティのネモリーノを聴いたのだが、アディーナは、愛聴していたレヴァイン指揮のMET版のキャサリン・バトルではなく、忘れてしまったが、イタリアのソプラノであったような気がする。
パバロッティの「人知れぬ涙」を聴いた時の至福感は勿論、同じロイヤルで聴いたトスカの「星も光りぬ」で涙を見せていた姿など、忘れ得ない思い出である。
今回のネモリーノを演じたボレンザーニの、実に誠実で純愛に満ちた農夫の青年の姿も感動的だが、どちらかと言うと不器用で朴訥そうなパバロッティのラテン系の田舎青年の雰囲気が、また、笑わせて泣かせるのである。
さて、キャサリン・バトルは、行状を非難されてMETから追放されて歌手生命を棒に振ったのだが、ロンドンでは、ロイヤル・オペラの「ドン・パスクワーレ」やリサイタルで2度ほど聴いていて、美しい舞台姿と素晴らしい美声は抜群であった。
今回、アディーナを歌ったのは、南ア出身のプレティ・イェンデで、同じようなアフリカ系で一寸大柄のソプラノだったが、実に上手くて感動的であり、圧倒されてしまった。
HPによると、リリック・コロラトゥーラの新星。2012年スカラ座、2013年METデビュー。驚異的な歌唱技術を誇るとともに、声も容姿も人を引きつけるものを持ち、次代を担うスターのひとりとして注目されている。と言うことであり、さもありなんと思う。
アメリカ系のソプラノでは、舞台姿は兎も角、レオンタイン・プライスやジェーシー・ノーマンと言った超ド級のオペラ歌手がおり、グレース・バンブリー やシャーリー・ヴァーレットなども、オペラハウスで観て聴いているが、素晴らしい歌手がいる。
一寸長いが面白いのでストーリーをダイジェストすると、
ネモリーノは、才色兼備のアディーナを愛しているのだが、彼女は純朴で弱気なネモリーノには興味がない。アディーナは『トリスタンとイゾルデ』の本を他の村娘たちに読んで「飲めばたちどころに恋が成就する愛の妙薬」の話をする。そこへ、村に駐屯中のベルコーレ軍曹が行軍を率いて登場し、お互いに一目惚れの風体なので、ネモリーノは焦る。
旅回りの薬売りドゥルカマーラ博士が登場して、弁舌爽やかな巧みな宣伝口上で、あらゆる病気にも効くと言う万能薬を、村人に売り付ける。恋に悩むネモリーノが、ドゥルカマーラに「イゾルデの妙薬」が欲しいと言ったので、ドゥルカマーラは、こんなバカは見たことないと思って、ただのワインを「秘薬」として高値で売りつける。効果が出るまで1日待てと言われて、早速一口試飲したネモリーノは、明日は、アディーナは、我が物になると「秘薬」の勢いで気が大きくなって、彼女が近づいてきても、そっけない態度をとる。手玉に取っていた男が態度を急変させたことに困惑し、ベルコーレ軍曹の求婚に応じてしまう。妙薬の薬効で、鷹揚に構えていたネモリーノだが、ベルコーレ隊に明日進軍の命令が出たので、急遽今晩アディーナと婚礼を挙げると知って慌てる。
アディーナとベルコーレ軍曹の婚礼の場で、人々は陽気に飲み、歌うが、いざ結婚の署名になると、アディーナはなぜか躊躇して明日朝まで待てと言う。一方、妙薬の効き目を早めたいネモリーノは、ドゥルカマーラに懇願するが、追加の妙薬を買う金がない。切羽詰まって、恋敵ベルコーレ軍曹の部隊に一兵卒として入隊することにして、前払い給料20スクードを貰って秘薬を1本買って、飲み干して眠り込む。
一方、村娘たちは、弁護士からの極秘情報だと、彼の伯父が死んだので、残った巨額の遺産はネモリーノがすべて相続すると聞かされて、玉の輿を夢見て一気にネモリーノへ靡く。酔いから醒めたネモリーノは、急に人気者になって村娘たちに取り巻かれたので、妙薬の効き目が出たと大喜びする。ところが、何も知らないアディーナは、娘たちに囲まれるネモリーノを見て、心中穏やかでないのだが、ドゥルカマーラから、ネモリーノが秘薬を手に入れる為に命の補償も顧みず軍隊に入ったことを聞かされ、アディーナは思わず涙を流す。アディーナは、自分も本当は、純朴で一途に自分を愛してくれているネモリーノに恋していることに気づいて、入隊契約書をベルコーレから買い戻して彼に渡し、心配しなくてもよいと愛を告白する。こうして愛を成就した二人を村人たちは祝福し、ドゥルカマーラも、自分が愛の妙薬を製造したのだと満更でもない顔をして村を去って行く。
このオペラは、村の青年や乙女たち群衆は、合唱団としてたくさん登場するが、主役の4人が大車輪の活躍で、夫々、素晴らしい歌唱を披露して楽しませてくれる。
専門的で良く分からないのだが、ドニゼッティは、この「愛の妙薬」作曲後、甘い旋律を連綿と歌い上げる近代的唱法への萌芽を見せ、完璧なドニゼッティ節を完成し、ここで、彼の施律美は最高の美しさを発揮したと言うのである。
冒頭の「なんとかわいい人だ」と言うネモリーノのアリアからゾッコン、とにかく、最初から最後まで、美しくて甘美なドニゼッティ節が連綿と織りなして心地よく、良質なラブ・コメディが、くすぐり続けてくれるのだから、実に楽しい。
さて、指揮者のドミンゴ・インドヤーンは、ベネズエラ生まれで、あの彗星のごとく登場して世界中をうならせたドゥダメルを生んだ音楽教育システム「エル・システマ」でヴァイオリンを学んだとかで、ベルリン国立歌劇場でバレンボイムのアシスタントを務め、同歌劇場でオペラデビューしたと言う。
その後、イギリスで、ロンドンフィルやフィルハーモニアで、エサペッカ・サローネンやアンドリュー・デイビスやベルナルド・ハイティンクの薫陶を受けていると言うので、ヨーロッパでも将来を嘱望されているのであろう。
ネモリーノのマシュー・ポレンザーニは、1997年にMETデビューで、15演目以上のタイトルロールほか重要なテノールの舞台を300回以上もこなしていると言うから、METの主のような存在。心を震わせる甘い声と華のある存在感で、アメリカを中心に世界的に活躍と言うのだが、初々しい田舎男の何とも言えない雰囲気が良い。
もう一つ特筆すべきは、ベルコーレ軍曹のバリトン:ダヴィデ・ルチアーノと、ドゥルカマーラ博士のバス:イルデブランド・ダルカンジェロの二人のイタリア人歌手の素晴らしい歌唱と達者で実にコミカルな演技の冴え、
甘味で楽しいこの喜歌劇を、更に、面白く華を添えて磨き上げている。
METは、このブログでも、ニューヨーク紀行やクラシック音楽で結構観劇記を書いているが、1972年に、確か、ボエームあたりから通い始めたので、20回以上は行っていると思うのだが、正直なところ、臨場感など、すべてにおいて、METの劇場で味わう方がベターだと思うが、
METライブビューイングは、恐らく、絶えず移動しながらの最高の席からのビューイングなので、臨場感を除けば、これ以上の贅沢はないと思う。
それに、字幕がついていて、解説やインタビューがあり、ニューヨークのMETでも、これ程、オペラを楽しめる好機はないと思っている。
(追記)口絵写真は、HPから借用したが、借用ついでに、マシュー・ポレンザーニ(「人知れぬ涙」を熱唱)とプレティ・イェンデの写真は次の通り、

