熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ゴルバチョフ:“民主主義”“対話”強調を説く

2021年12月24日 | 政治・経済・社会
   ゴルバチョフが、日本のメディアの書面インタービューに応えて私見を語り、FNNなどが、
   ”ゴルバチョフ氏“民主主義”“対話”強調 ソ連崩壊30年 インタビュー”と報じた。
   それ程、複雑で込み入った話でもないので、感想を述べたい。

   1991年12月のソビエト連邦共産党解散を受けた全ての連邦構成共和国の主権国家としての独立、ならびに同年12月25日のソビエト連邦大統領ミハイル・ゴルバチョフの辞任に伴い、ソビエト連邦が崩壊した。1917年11月7日のロシア革命(十月革命)からロシア内戦を経て1922年12月30日に成立したソビエト連邦は、69年後の1991年12月25日に崩壊した。(Wikipedia)
   ソ連崩壊、冷戦終結から、早30年である。

   ゴルバチョフが語った要旨は、次の通りである。

   「世界の大国は今、コントロールできないほどの軍事的・政治的な対立に直面しています」。「冷戦後最悪」といわれる、ロシアと欧米との関係に危機感を示す一方、「致命的な状況ではない」との考えを示した。

   「現在の状況について、すべての責任がロシアにあるとされ、ロシアが歩み寄ることだけを求められています。それでは対話は成立しません。唯一の解決方法は、理性的な対話なのです」

   ロシア国内では、たびたび“反体制派デモ”が起き、国民たちが「真の民主化」を求め、声をあげている。「ロシアには、1つの未来しかない。それが民主主義です。そして、ロシアが強く民主的であることは、外交政策にも必要なのです」。

   北方領土問題を抱えた日ロ関係については、「対話を中断してはいけない。道は歩く者によって成し遂げられるのです」

   ロシアが、と言うよりも、プーチン大統領が、危機意識を持っているのは、経済的にも軍事的にも弱体化してしまったロシアに、ソビエト連邦が解体されて結成されたCISという緩やかな国家同盟のメンバーであったいくらかの国々が、EUやNATOへの加盟を模索し始めており、ロシア本体に欧米勢力が急接近して、殆ど裸状態になってしまっている地政学的弱体化である。
   その典型が、ウクライナで、この国はロシアの安全保障の生命線であり、この国がEUとNATOに加盟し欧米陣営に入り、欧米の軍事基地などが設置されると、ロシアの喉元に短刀を突きつけられたようなもので、ロシアにとっては死活問題となろう。ロシアが、ウクライナがNATOに加盟すれば自国の安保が大きく損なわれると反発しており、当初の、米ロ間で交わされた旧ソ連諸国を加盟させないというNATOの約束を遵守すべく、NATOの東方拡大停止など欧州安全保障に関する新たな合意に応じるよう改めて求めているのも頷ける。
   まして、キエフはロシア建国の故地であり、ウクライナはロシアにとっては特別な関係にあり、緩衝地帯として必須であって、欧米がウクライナを囲い込もうとすればするほど、ロシアは国境地帯に軍隊を集結して、腕ずくでもウクライナに乗り込まざるを得なくなる。
   1962年10月~11月に、ソ連のキューバにおける核ミサイル基地建設が発覚して、アメリカがカリブ海でキューバの海上封鎖を実施し、米ソ間の緊張が一気に高まり、核戦争寸前まで行ったキューバ危機を考えて見れば、ウクライナ問題が、ロシアにとって最悪の危機要因であることは分かる。

   欧米のウクライナへのアプローチが度を超して、軍事基地包囲網をロシア直近に構築するなどレッドラインを超すと、新冷戦が軍事衝突に発展する可能性が高くなろう。
   しかし、いくら軍事大国だと言ってロシアが足掻いても、ロシアの国力は、GDPベースで、日本のGDPの3分の1と言う弱小経済国家であるから、戦争が勃発しても、ロシアが、本格的な戦争に堪えられるはずがない。ウクライナの東部併合も、クリミア併合とは比べようもない程困難を伴う。
   それに、二度の世界大戦で、嫌という程戦争の悲惨さを経験してきたヨーロッパが戦争を望むはずがなく、アフガニスタンでさえ維持できずに撤退した厭戦ムード充満のアメリカが、戦端を開くはずがない。
   軍事衝突のギリギリまで行く可能性はあろうが、戦争になはならない。
   ゴルバチョフの「致命的な状況ではない」と言うのは、この辺りを見越しての見解だと思う。

   また、「すべての責任がロシアにあるとされ、ロシアが歩み寄ることだけを求められています。」というロシア悪者論だが、むしろ、欧米側の方がレッドラインを超えようとしてロシアに危機感を持たせている。
   ウクライナは独立国であり、EUやNATOに加盟するのは自由な筈だが、米ロの対立が新冷戦の様相を呈している現状では、ロシアとしては、絶対に許容できないデッドラインであり、是が非でも、欧米の軍事力を国境に近づけたくはない。

   殆ど言及されることがないが、ロシアのGDPは、アメリカの14分の1,中国の10分の1で、桁外れに経済力は弱体である。
   これまでにも、ロシアの経済については、ロシア紀行でも触れたし何度も論じてきたが、ソ連の崩壊以降、壊滅的な状態に陥り、その後プーチン以降も、石油や天然ガス輸出で経済を維持し、めぼしい工業化や産業の近代化を推進してこなかったので、ロシア経済は惨憺たる状態である。
   経済力が国力の根幹なら、ロシアは最早張り子の虎である。

   「ロシアには、1つの未来しかない。それが民主主義です。」という点だが、ロシアは、イヴァン雷帝、ピョートル大帝以降、絶対君主の支配する国であり、レーニンにしろスターリンにしろ、絶対的な権力を持ったリーダーによって統治されてきた国であり、ゴルバチョフの意味する民主主義がどう言う意味か不明だが、欧米先進国のような民主主義など、絶対に馴染まない体制であり、実現不可能である。
   是非はともかく、これまでロシアは、独裁的専制国家体制下で一番安定しており、プーチン体制が崩れる徴候さえない。尤も、21世紀のロシアを振り返る限り、プーチン体制が続けば続くほど、経済の近代化と成長から取り残されて、国力の低下は免れ得ないであろう。
   中国とは、対アメリカで、軍事的な協力関係にはあるが、経済的な協力に踏み込めないのは、昇り龍状態の巨大な中国経済に取り込まれて、属国状態に陥る可能性があるからであろう。

   北方領土については、どんどん、ロシア支配の既成事実が膠着化しており、安倍首相ならともかく、小粒化した政権では、「対話」さえ無理で、ロシアに、北方領土やシベリア開発に、日本経済を利用される可能性が高く、何らかの見返りが日本にあれば、良しとすることになるのではないであろうか。

   前にも書いたので蛇足だが、ソ連崩壊後、経済的にも壊滅状態に陥った新生ロシアに、欧米先進国から、政治家や財界人達が大挙して訪問してロシアの再生に奔走していたのを、ロンドンにいて具に見ている。
   もしもだが、あの時、西側に高度な哲学とビジョンを持った卓越したリーダーが居て、ロシアの民主化と資本主義化を適切に誘導していたら、世界の歴史は変っていただろうと思っている。
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