熟年の文化徒然雑記帳

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PS:ナンシー・チェン「中国の若者の失業は見た目ほど悪いのか?Is Chinese Youth Unemployment as Bad as It Looks?」

2023年12月20日 | 政治・経済・社会時事評論
   最近、経済の悪化とビッグテックや教育軽視などの政策が相まって、中国の若者の失業率は、20%を超えて、将来を約束されていた超一流大学を出ても就職できずに、パラサイトシングル紛いの世捨て人生活に甘んじる若者が多いという。何故そうなのか、トップビジネススクール・ケロッグ校のナンシー・チェン教授のPSの論文「Is Chinese Youth Unemployment as Bad as It Looks?」が面白い。

   ここ数十年の中国の並外れた成長は、若者とその家族の教育とキャリアの選択に影響を与えて来た。 しかし現在、高度な技術を必要とする仕事が枯渇し、新卒者が仕事を見つけるのに苦労しているため、期待と新たな現実の間のミスマッチが増大している。
   中国の若者の失業率は今年毎月上昇した後、6月には過去最高の21.3%に達した。 過当競争の労働環境と厳しい雇用見通しに直面して、この国の若い労働者や中流階級の専門家の多くは、過重労働と消費主義の文化から脱却することを意味する“lying flat” movement(過重労働や過剰な達成を求める社会的圧力に対する個人的な拒否運動)を受け入れている一方で、「“full-time children.”(両親と同居し、料理、掃除、買い物などの家事をして給料をもらっている若者)」ために仕事を辞めている労働者もいる。 こうした驚くべき傾向を受けて、中国政府は毎月の若者の失業率データの公表を停止し、中国経済の「崩壊」に関する否定的な見出しが次々と流れるきっかけとなった。と言う。

   だが、中国経済は本当に悲惨な状況にあるのだろうか?と言えば「ノー」で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるロックダウンから回復して以来、この国の経済回復は比較的力強かった。 中国経済は2023年第2四半期に前年同期比6.3%成長し、OECD諸国の平均年間成長率を上回った。国際通貨基金は、中国のGDPが今年5.2%、来年4.5%拡大すると予想しているが、これは米国(それぞれ1.6%、1.1%)、英国(0.3%減、1%)の予想をはるかに上回っている。
   しかし、このような奇跡は永遠に続くわけはなく、中国の政策立案者らは10年以上前から景気減速は避けられないと予想してきた。 2013年、中国と世界中の経済学者は、成長率は2030年までに3~5%まで徐々に低下するものの、テクノロジーなど高度な技術を必要とするセクターは引き続き拡大すると予測した。 しかし、政策決定、米国との貿易戦争、中国でより深刻かつ長期にわたる経済混乱を引き起こした新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、他の経済大国よりも、GDP成長率の低下は予想よりもはるかに早く、そして大幅に鈍化した。

   経済学者や政策立案者は、中国の成長鈍化の時期と規模を予測できなかったことに加え、誰が最も苦しむことになるのかを見誤った。 高度なスキルを要する仕事、特にテクノロジー分野は減少から守られるだろうと広く考えられていた。 結局何千万ものブルーカラー労働者が、1990年代後半から2000年代初頭にかけて、中国が低生産性の指令経済から高生産性の市場主導型経済に移行する過程で、不採算工場から解雇された。
   ブルーカラーの仕事の不安定さは、中国人の親が子供たちに学業の成功と選抜された大学への入学を促す理由の1つである。 中国の一流大学の合格率は、一部の省の学生では0.01%未満、北京や上海などの主要自治体の学生では約0.5%と推定されている。 ちなみに、ハーバード大学の今年の合格率は3.41%だった。

   伝統的に、報酬は犠牲を払う価値があった。 低ランクの学校とは対照的に、一流大学の学位は優良企業への扉を開き、雇用の安定がほぼ保証されていた。 失業率が着実に増加しているにも拘わらず、エリート教育機関の卒業生は、中国の成長を促進すると思われていたテクノロジーや金融分野でのチャンスを期待できた。 しかし現在、この層も厳しい雇用市場に直面している。
   最近の経済政策決定は、役に立たずに事態を悪化させた。 資金豊富な教育技術産業に対する取り締まりを含め、ビッグテックを抑制するための長年にわたる規制措置は、潜在的な成長産業に萎縮効果をもたらした。 グローバリゼーションに対する政府のアプローチの進化と市場経済に対する態度の変化が投資家を驚かせている。 そして進行中の不動産危機が投資を抑制している。 銀行やテクノロジー企業は急速にコスト削減を進めており、これらの業界では、新卒者にとって高賃金で高度なスキルを必要とする仕事が減少し不足してきた。

   中国の大規模民営化プロセス中、高齢労働者は急速に変化する経済の中で新たな雇用を見つけるのに苦労した。 しかし、高齢労働者には貴重な経験があり、労働法で保護されているので、現在、雇用主は高齢労働者を解雇することに消極的である。 その結果、雇用の縮小は若者の間で最も深刻に感じられるようになり、 最近の新卒者は、以前よりも給料が下がることが多いポジションをめぐってさえも激しい競争に直面している。
   これは飲み込み難しい錠剤である。 何故なら、これらの仕事に応募している卒業生の多くは、幼い頃から集中的に勉強し、毎日何時間もの宿題をこなしてきた。 彼らの両親、そして時には祖父母も、幼稚園の頃から家庭教師にお金を投資し、もっと勉強するようにと数え切れないほどの時間を費やして子供たちを説いてきた。 しかし、彼らが目指していた仕事がもう存在しないとしたら、この努力は一体何の意味があったのであろうか?

   とはいえ、若者の失業率の急増が中国に経済的終末をもたらすわけではない。 数十年にわたる高度経済成長を経て、たとえ働く人が減ったとしても、今日の若者は中国史上のどの世代よりも裕福になるだろう。 若者の失業が中国にもたらす問題は、結局のところ、期待と現実の不一致がどのように現れるのかという1つの疑問に帰着する。
   若者とその家族は、自分たちが努力してきた目標は、少なくとも現時点では達成できないことを受け入れ、別のところで満足感を見出すようになるかもしれない。 もし彼らがそのような満足感を得られなければ、アラブ世界やアフリカで起きたように、若者の失業が不安を煽り、政治的不安定を引き起こす可能性がある。 中国の経済政策立案者は慎重に行動する必要があるだろう。

   以上が、チェン教授の論文の要旨だが、心配はしていないが、中途半端な叙述が興味深い。
   中国の受験戦争の激しさは、韓国に匹敵するほど凄いというのだが、欧米のように比較的親の履歴や経歴に引っ張られて、そして、親に援助されなくて自分でキャリアを引き上げなければならない世界と違って、日本も含めて、極東の国の子供の教育は、親の方が必死で取り組んでいる。
   しかし、忘れられないのは、日本の前世紀末のバブル崩壊後の経済不況で、新卒者の若者を雇用できずに人生を棒に振らせた就職氷河期の悲劇で、絶対に繰り返してはならない教訓である。
   ところが、今、この轍を、日本の教訓を無視して、中国は踏もうとしている。
   私は、失われた10年が20年になり30年になって、日本が、経済的に、G7の下位に落ちぶれて、先進国の地位から凋落しようとしている信じられないような悲劇に遭遇しつつあるのは、あの就職氷河期で、あたら虎の子の有為の人材の活躍の芽を摘んでしまったことによると思っている。
   GAFAなどビッグテックを生みだした世代であったし、イノベーションのドライバーの時代であったのである。
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