熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ソニーの出井経営論を問う・・・その2

2006年12月27日 | 経営・ビジネス
   ソニーのイノベーション戦略と関連して、出井伸之氏が「迷いと決断」で述べ推進したと言う「コンバージョン(融合)戦略であるが、私自身は、この戦略自体が、過当競争から脱出出来ないソニーの業績低迷の元凶だと思っている。

   出井氏は、コンバージョン戦略について、次のように説明している。
   「エレクトロニクスと言う核の周辺に、情報機器や映画・音楽の技が四方八方に伸びていたそれまでのソニーの体系を、ハードウエアとコンテンツを両端に持つシンプルな形にしようとした戦略です。ハードウエアとコンテンツ、このパイプの両端さえしっかり押さえておけば、真ん中の部分であるメディアの配信方法がどんなに変化しても対応していけると考えているからです。
   ハードとコンテンツはシナジー(相乗効果)を生むものではなく、それぞれ別個に独立したものです。その両者を結ぶ真ん中の部分がメディアで、IT社会においてはこの部分がもっとも激しく変化・進化していきます。
   (中略)
   ハード(テレビ、DVD、パソコン、携帯電話)とコンテンツ(映画・音楽などの作品)をしっかり押さえておけばいいのです。No.1のハードを造る、それにネット上に生まれるいいコンテンツをそろえる、と言う事をきっちりやっていけば、真ん中の部分がどんなに変化しようとも、対応が可能です。」

   出井氏がソニーのコア・ビジネスから排除した部分は、出井氏自身も述べているように最も激しく変化・進化していく分野であり、それ故にこそ、この分野、即ちソフトとハードを組み合わせて如何に価値あるイノベーションを生み出して行けるか、ここにこそイノベーションの種が犇いていて最もビジネス・チャンスがある。
   この中間の分野の知的経営活動が、必ず、ビジネス・モデルの中核を形成し支配権を握る。豊かなハードとコンテンツを活用して如何に夢のある製品を創造して行くか、必要なら、ハードやコンテンツを下請け調達すれば良いのである。
   この分野での成功がこれまでのソニーの栄光を生みだし、この分野での蹉跌がソニーの凋落を招いた原因であることが分かっていないのであろうか。

   簡単な話なので、iPodで例証しよう。
   ソニーが完全に敗北を喫しているアップルのiPodだが、出井理論から言えば正に逆説で、ハードもコンテンツもアップルよりもソニーの方が遥かに上であるから本来ならソニーが負ける筈がないと言えよう。
   しかし、ユーザーが何を求めているかを絶えず問いかけて、クリエイティブなハイテクによる楽しさを追求して新製品をデザインしてきたアップルが、フラッシュメモリー型を変換したハードディスクドライブ型携帯音楽プレーヤーと管理ソフトiTunesとを結びつけて斬新なデザインiPodを創造して世界を席巻してしまった。

   セルジオ・ジンマンに言わせれば、既存の技術を組み合わせただけで決して革新的な製品ではなく、アップルのコア・エッセンスの理論上の延長線上の製品であるからリノベーションの範疇である。
   それに、アップルは、このiPodと消費者が楽曲を合法的にダウンロード出来るオンライン・コミュニティをつくる為に、自社にはなかったコア・コンピタンシー(音楽ファイルを保存する方法等)を買収して整備した。アップルは、消費者が音楽ファイルをダウンロードして楽しんでいるのを利用して、その保存や取出しを安く簡潔便利にする手段を提供しただけに過ぎないと言えば言いすぎであろうか。
   これこそが、現在のイノベーションの本質であることを、出井戦略論は看過している。

   ウォークマンの世界的ヒットが「なるほど、技術にはストックとフローがあって、ヒット商品はその組み合わせで生まれるのだな」と考えた出井氏が、コンバージョン戦略で完全に軽視し無視したハードとコンテンツの真ん中のメディアの配信方法のところで、ネット上での音楽配信の仕組みを生かしたアップルに負けたのは皮肉も皮肉。それでも、近著で、コンバージョン戦略を説く意図が分からない。

   ところで、ソニーの最大の屈辱は恐らくビデオのベーターからの撤退であろう。
   出井氏自身が、「ソニーのエンジニアの家に泥棒が入りベータとVHSがあったのにVHSだけが盗まれた」とベータが泥棒にも見放されたと言う逸話を語っているが、このフォーマット戦争に負けたのは、VHSのフォーマットを無償で他社に公開した松下幸之助のマーケティング・販売戦略に負けた為で、いくら、出井氏の言う立派なハードを追求しても外野での戦争に負ければ何にもならないと言うことである。
   デファクト・スタンダードを確保することが如何に大切かと言うことだが、DVDフォーマット戦争でも苦杯を舐め、今度のブルーレイ・HD-DVD戦争でも決着の着かない戦争に突入しているが、ソニーも製品の質だけでは勝利できないと言うことである。
   今度のMITレポートでは、Made in Sonyで固めた最高級製品を追求すると言う過去の成功神話を放棄して、VAIOの一部を台湾業者にODM委託するとか、技術のブラックボックス化で知的所有権を確保するばかりではなく開かれた製品を追求するとかオープン戦略を取れと提言している。

   私自身は、出井氏の言うハードのテレビ、DVD,パソコン、携帯電話などは既にコモデティになってしまっていて、いくら技術開発をして持続的イノベーションを追及しても大きな効果は期待できないと思う。
   この分野での各社の品質等の製品の差は殆どなく、デジタル技術の進歩は日進月歩で、正に熾烈な価格競争で目も当てられない程急速な価格の下落ぶり。
   ソニーが目指すべきは、「新市場破壊型のイノベーション」であって、これは、必ずしも新しい発明・発見技術による革新的な製品ばかりを意味するのではなく、既存技術の新規活用であったり展開であるウォークマンやiPodようなイノベーションであって良い。
   むしろ、ソニーは、トランジスターを活用して携帯ラジオやTVを創造したように、新規の科学技術を活用して製品化して行くのがビルトインされているDNAである。
   そして、出井氏が無視し軽視したハードとソフトの間に生まれる本当のニーズを追求した製品の開発にこそソニーの真骨頂があると思っている。
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