熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ベートーヴェン歓喜の歌で新春を迎える

2007年01月01日 | クラシック音楽・オペラ
   2007年元旦零時には、上野の東京文化会館の客席にいて、丁度、ベートーヴェンの「交響曲第九番合唱つき」の第一楽章を聞き終わったところであった。
   外山雄三指揮イワキオーケストラのベートーヴェン全交響曲連続演奏会の最後の演目で、演奏会がお開きになったのは深夜の一時少し前であったが、暖かくて感動的な熱気は長く続いていた。

   この連続演奏会「ベートーヴェンは凄い!」は今度で4回目であるが、私は、岩城宏之が一人で全曲を振った2回目から聞いており、昨年岩城氏が亡くなったので終了だと思っていたのだが、今回は、9人の日本で活躍する指揮者が一曲づつ分担して素晴らしいベートーヴェンを披露する夢の共演となった。
   私は、フィラデルフィア、ニューヨーク、ロンドン、アムステルダム、サンパウロ等々でも異邦人たちの中で何度もベートーヴェンの交響曲を聞き続けてきたが、そこには、何時もベートーヴェンに感動する熱狂的な観客がいた。

   私も人並みにボンのベートーヴェンハウスを訪れてベートーヴェンに敬意を払ってきたが、学生時代に「ハイリゲンシュタットの遺書」を読んで涙が出るほど感激した。音楽に人生を奉げようとしているベートーヴェンの耳が聞えなくなるのである。
   「真剣に自殺を考えた。そう、私の命に終止符を打つところだった。けれども、芸術、ただ芸術だけが私を生の世界にひき止めてくれた。
   (中略)私には覚悟が出来ている。早くも、28歳にして悟りを開いた哲学者になれと言われても容易ではない。・・・神よ、あなたは私の心のうちを見ておられる。あなたは、私の心に、人間愛と善行をなさんとする意思があるのをご存知だ。」
   ベートーヴェンは、音楽を通じて思想を、そして、哲学を伝えようとした偉大な音楽家である。
   本来、交響曲に歌や歌詞を付ける事は絶対にしてはならない禁じ手であったにも拘わらず、シラーの喜びの歌に夢を託して「交響曲第九番合唱つき」を作曲してしまった。

   三枝茂彰氏によると、作曲当時は、禁じ手を使った交響曲であり危険思想を歌っているので演奏されなかったと言う。
   ベートーヴェンの思考は時代をはるかに先取りしていたのであるが、それは、唯一のオペラ「フィデリオ」の精神にも相通じる。
   しかし、その合唱交響曲が、東西ドイツのオリンピックでの国歌に使用され、今や統一ヨーロッパEUの国歌にもなったと言う。

   ところで、この第九は欧米では殆ど演奏される機会がなく、大指揮者でも演奏経験が少ないと言う。
   そう言われれば、私が可なり長い欧米生活の経験でも、ハイティンク指揮コンセルトヘボウ、ティルソン・トーマス指揮ロンドン響、アシュケナージ指揮ベルリンラジオ響くらいしか記憶がない。
   関係があるのかないのか、その後のマーラーの歌つき交響曲の演奏会も比較的少なくて、私など、ミサ曲や宗教曲で歌手が出るオーケストラ・コンサートには意識して出かけた記憶がある。

   さて、今回の第九だが、ソプラノ釜洞祐子、アルト坂本朱、テノール佐野成宏、バリトン福島明也、合唱晋友会合唱団。バリトンの第一声から凄い迫力で歓喜の歌を高らかに歌い上げる終曲まで息をも継がせぬ感動的な演奏であった。
   指揮の外山雄三氏は、何十年も前に京都市響のコンサートを聴いて以来だったが、悠揚迫らぬタクト捌きでオーケストラとソリストと合唱団から実に雄大でスケールの大きな豊かなサウンドを引き出して縦横無尽に歌わせていて感激であった。

   今回の連続演奏会だが、ダブルブッキングで、第4番からしか聴けなかったが、小林研一郎指揮の第7番が圧倒的な人気で長い間熱狂的な観客の拍手が鳴り止まなかった。
   正に、コバケンのパーソナリティそのものの誠実で真摯な指揮で、実に繊細でありながら豪快なゴチックの大教会のような荘厳さを見るような素晴らしい演奏であった。
   昔昔の話だが、ドナウ川に程近いハンガリー人エンジニアの家で深夜遅くまでコバケンから音楽の話を聞き込んでいたのを懐かしく思い出した。
   リストの国ハンガリーでもコバケンは国宝級に偉大なのである。

   とにかく、新春早々から素晴らしいベートーヴェンを聴いて、偉大な精神に触れて感動したのであるから今年も良いことがありそうな予感がする。
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