熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

日本の美術館名品展~東京都美術館

2009年06月25日 | 展覧会・展示会
   上野の東京都美術館で、美連協25周年記念展と銘打って、「日本の美術館名品展」が開かれている。
   美の競演 公立100館のコレクション と言うことで、大変な肝いりだが、目玉商品と言うか、特別に有名な作品がある訳でもないので、土日祭日などは分らないが、人の入りはまずまずで、時間帯に関係なく、そんなに見られないほど混んではいない。
   私自身は、美術全集などに出てくるような欧米の代表的な美術館・博物館や、かなり大きな地方都市の美術館などには行っており、結構素晴らしい美術鑑賞の機会を持っているので、日本人画家などの作品は当然力作揃いで立派だと思うが、やはり、西洋画などでの日本の美術館の収集作品には、貧弱と言うと語弊があるかも知れないが無理があると言うのが正直なところの感想である。
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   この口絵写真は、美術展のビラの写真をデジカメで撮ってコピーしたものだが、めがねをかけたおかっぱ頭のひょうきんな表情で知られているレオナルド・フジタの「私の夢」と言う作品である。
   画面中央には、大きく、どちらかと言えば、色気にやや欠けるが、すっきりした乳白色の美しい姿態のヌードを据えて、その回りを衣服を着た動物たちが取り囲んで、何かを語り合っている不思議な絵である。

   私は、高山寺にある鳥羽僧正の鳥獣戯画を思い出して、フジタが何を語ろうとしたのか、その物語を聞いてみようと思って、色々想像を巡らしながら、暫く、絵の前に佇んでいた。
   フジタは、猫が好きだったと言うのだが、回りに描かれている動物は、猫以外に、犬、狼、狐、ウサギ、猿、ネズミなどの哺乳類に加えて、ふくろうやはとなどの鳥類まで、克明に描かれている。姿は、擬人化しているが、表情は、写真と紛うほどの正確さで、たとえば、狼とウサギ、猫と猿たちの対話姿を見ているだけでも、何をしゃべっているのか彷彿として大いに楽しいのである。
   
   隣に、はるかに大きなフジタの「アントワープ港の眺め」と言うだまし絵のような不思議な風景画が展示されている。
   くすんだモノトーン基調の平板な絵で、聖堂などのある中世のアントワープの町並みが描かれていて、手前の岸壁の先の水から又岸壁が始まり、水と岸が入り混じった境界の定かではない絵で、それが、一寸目には、全く不思議に見えないのである。

   真冬時のリア王の世界のようにどんよりとした暗い日のアントワープの印象は、このフジタの絵のように陰鬱だが、ダイヤモンドで有名な風格のあるベルギーの商都・大港町で、気候の良い時には、結構、楽しめる観光都市でもある。
   最初に訪れた時には、あのフランダースの犬の貧しいネロが、憧れ続けてやっと辿り着いて、その前で犬を抱きしめて安らかに息を引き取るルーベンスのキリストを描いた素晴らしい三連祭壇画のある、聖母大聖堂へ、真っ先に行ったのだが、ステンドグラスの光を受けた明るい堂内の美しさは格別であった。
   オランダに暫く住んでいたので、ベルギーはお馴染みだが、フジタの絵を見ながら、暗い冬のヨーロッパを思い出して懐かしかしくなった。

   次に印象的だったのは、シャガールの「オルジェバルの夜」。
   コバルトブルーとダークブルーの青色基調に黄色と赤の鮮やかな色を配して実に美しいカラー空間を現出して、幻想的な絵を描くシャガールの典型的な絵だが、
   画面下には、横たわった白衣のウエディング・ドレスの花嫁を上から優しく抱きかかえる正装の花婿が描かれ、その背後の教会のシルエットの上空には天使が漂って祝福している。
   中空に花やバイオリンなどが浮かんでいるのも、いつものシャガールのモチーフだが、何故、このように青や赤などの原色を基調にして、陰鬱な大地に育ったロシア系ユダヤ人のシャガールが、こんなに美しい絵を描けるのか、そう思いながら、随分、多くのシャガールを見続けてきたような気がする。

   隣に、シャガールの「山羊を抱く男」が掲げられている。
   あの、「屋根の上のバイオリン弾き」のテヴィエそっくりの男が山羊を抱いている肖像画であるが、似ているのも当然で、あの1960年代にニューヨークを席巻したミュージカルは、ユダヤ人虐殺に抗して屋根の上でバイオリンを弾いていたという男を描いたシャガールの絵にヒントを得て出来上がったのだから、元祖はシャガール、当然である。
   私のシャガールは、何と言っても、古いパリのオペラ座の壮大な丸天井に描かれているシャガール、そして、ニューヨークのメトロポリタン・オペラ・ハウスの正面ロビーの左右両翼の壁面に描かれている壮大な壁画のシャガールである。
   
   びっくりしたのは、イヴ・クラインの「人体測定ANT66」。
   大きな白いキャンバスの上に、躍動感溢れるポーズを取った生きた4体のヌード(女性)を配して、上から、クラインブルーの顔料を吹き付けて、体の形を画面に拓本のように写すと言う手法の絵で、決して美しい絵ではないが、強烈な印象を拭えないほど迫力がある。
   筆を使ったとも思えないので、体をすり付けたり陰毛を使ったりしてのボディ・タッチ手法の描画が、更に迫力を増していると言えようか。

   一つ一つ、じっくり鑑賞すれば、面白いのであろうが、暗いところで、まして、人ごみに中なので、早々に退出した。
   いずれにしろ、コメントは省略したが、日本画には、素晴らしい作品があり、存分に楽しませて貰った事を付記しておきたい。
   
   
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