熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

イノベーションと経営(5)・・・交差的なメディチ・インパクト その2

2006年01月23日 | イノベーションと経営
   メディチ・インパクトの著者F.ヨハンソンは、イノベーションを「方向的イノベーション」と「交差的イノベーション」に区別して、長期的な成功の為には両方とも必要だが、後者の方が遥かに強力で広範囲に広がるとしている。

   「方向性イノベーション」とは、ある製品を明確な次元に沿って、おおむね予想可能な段階を踏んで改良することで、例えば、企業が既存のプロセスを合理化して効率化を図ったり、ある都市で成功した政策プログラムを別の都市に合わせて調整したり、と言ったこと。
その結果は予測可能であり比較的短期間で達成できる。

   「交差的イノベーション」は、世界を新しい方向に向かって変えることで、方向的イノベーションほど多くの専門知識を必要としないので、思いもかけない人物によって成し遂げられることもあると言って、次の特徴を列記している。
   驚きや意外性に満ちている
   これまでにない新しい方向に飛躍する
   まったく新しい分野を拓く
   個人、チーム、企業等に自分の自由に出来る空間が広がる
   追随者を生む、イノベーターはリーダーになれる
   その後長期に渡って方向的イノベーションを生む源泉を提供する
   かってなかった形で影響を及ぼす

   早い話が、昔のソニーは、「交差的イノベーター」であったが、現在のソニーは「方向的イノベーター」に甘んじているので、業績が悪化していると言えば分かると思うが、言い過ぎであろうか。

   この交差的イノベーションは、メディチ時代のフィレンツェの様に異なる専門分野や文化が交差する場で、通常ではないようなアイディアが行き交い新しいアイディアが爆発的に湧き出している交差点で生まれるのである。
   近年は、人々の国境を越えての頻繁な移動、科学間の相互乗り入れや学際の進展、コンピューターの飛躍的発展等で、交差点はかってない勢いで増えていると言う。

   ヨハンソンは、革新的アイディアの足を引っ張る連想のバリアを壊す為の文化多様性を強調する。
伝統的な文化との繋がりを断ち切られた人や、複数の文化に徹底して曝された人は幅広い仮説について考慮できる強みを持ち、革新的イノベーションを行う確率が高い。
人種の坩堝であるアメリカにイノベーションが起こる確率が高いのもこの例で、複数の言語に堪能な人はそうでない人より創造性が豊かだ言う。

   面白いのは、教育が創造性の邪魔をする可能性があると言っていることである。
交差点でイノベーションをする人は、独学で専門知識を身につけた人、即ち、既成の教育にはない学び方で知識を得た人が多い。自分で自分を徹底的に鍛えてきた人だと言う。
   あの適者生存の法則を編み出したダーウインは、最初は医者や牧師を目指したのだが失敗して、地質学の研究にビーグル号に乗って世界を回った。
その途中にガラパゴス島に着いたのが幸いして、人類史上最も偉大な生物学者になったのであるが、「価値のあるものはすべて独学で学んだ」と言っている。

   そう言えば、20世紀最大の経営学者ピーター・ドラッカー先生は、ハンブルグ大学に入学してフランクフルト大学に編入して、そこで、国際法の博士号を取って、授業まで持って教えていたが、確か、一度も授業は受けずに図書館で勉強して、日中は、銀行員や記者として働いていた筈である。
   授業に出たのはケインズの講義くらいで、正に、ドラッカー先生こそ独学の人で、異文化と異文明の交差点ウイーンで生まれ育ち、イギリス、アメリカと移住して世界を股にかけて、自分自身で異文化の交差点を創造し続けてきた最高のイノベーターではなかったであろうか。

  (追記)余談ながら、何十年も前になるが、私がアメリカの大学院に行って最初にビックリしたのは、大学には、ハッキリした学部がなくて学際であったことである。
授業も、ビジネス・スクールでありながら、コアの専門学科は充実していたが、それ以外に全大学の授業が開放されていて単位が取得できて、ビジネスの授業にも多くの他のスクールの生徒が来ていた事であった。
   学部で評価するのは日本だけで、アメリカでは、学問の相互乗り入れは当たり前だったのである。
   
   口絵は、ブラジルの牧場。こんな世界もあるのです。
      
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