熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立劇場・十二月歌舞伎・・・「天衣紛上野初花」・アウトローの世界

2005年12月22日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   国立劇場では、毎月、歌舞伎の通し狂言を公演していて、歌舞伎座のようにアラカルト版とは違うので、筋が通っていて話が分かりやすくて楽しめる。
   今月は、河竹黙阿弥の「天衣紛上野初花」である。
   河内山宗俊と片岡直次郎(直侍)と言う江戸時代の名うてのアウトローを主人公にしているのだから面白い。

   質屋の大店・上州屋の後取り娘腰元波路(宗之助)が、奉公先のお殿様松江出雲守(彦三郎)に妾になれと強制されて困り、値打ちのない木刀を質入れて大金を強請りに来たお数寄屋坊主の河内山宗俊(幸四郎)に、その救出を頼む所から話が始まる。
   上野寛永寺の御使僧に化けた宗俊が、松江邸に乗り込んで、松江侯をはじめ重臣達を脅し上げて娘を取り戻し、賄賂まで貰って帰ろうとするが、顔を見知った重役大膳(幸右衛門)に宗俊だと見破られる。
   しかし、御家の面目を保つ為に、家老高木小左衛門(段四郎)のとりなしで事なきを得て、騙されたと知って地団駄踏む松江侯を尻目に、「馬鹿め」と痛快に罵って館を立つ。

   後半は、直侍(染五郎)と花魁三千歳(時蔵)の恋と別れ。
   情人直次郎の為に大金を借りて困っている三千歳に、横恋慕の金子市之丞(左團次)が金を貸して身請けを迫るが、宗俊が、上州屋で貰った手付金を直侍に貸して助ける。
   しかし、悪事を重ねてお尋ね者の直侍は、三千歳に会いに行けない。蕎麦屋で三千歳の病気を聞き、按摩丈賀(芦燕)に手紙を託し会いに行く。
   別れを惜しんでいると市之丞が身請けしたと証文を持ってくるが捨て台詞を残して証文を叩きつけて出てゆく。腹違いの三千歳の兄だと分かる。
   捕り手が雪崩れ込むが、宗俊の助けで直侍は、落ち延びて行く。

   私は、幸四郎・宗俊が、松江邸に乗り込んで、出雲守や重臣を脅し上げているのを聞いていて、少し前の株主総会の模様を思い出していた。
   法令の整備や取締りの強化などによって、総会屋も少なくなってその活動も下火になってきたが、一頃は、株主総会対策と言えば即ち総会屋対策でもあった。
   会社自身が公明正大で、全く問題がなければ良いのだが、どこか脛に傷を持つ身であれば、総会屋が怖いので、会社は必死になって防戦する。
   無償の利益供与を行って商法違反となるのが分かっていてもであった。

   今回のお殿様が、腰元に手を懸ける等は罪にもならないが天下の名藩松江18万石に傷が付く、何でも思い通りに出来ると思っている出雲守の一寸した出来心がとんだ事件になってしまった。
   じわりじわりと慇懃無礼に胆振ながら締め上げる幸四郎の宗俊、それに、威厳と強がりを見せながらもぐらりと揺れるお殿様を演じる彦三郎は、実に、どうに入った素晴しい舞台を勤めている。
   もみ消して当座の難を逃れようとする家老・段四郎が忠臣のように見えて、偽を暴露する重役・幸右衛門が悪者のように見えるところが歌舞伎の面白さだが、真面目一直な近習宮崎数馬の高麗蔵など、家来を演じる役者たちも上手い。

   後半の染五郎の直侍を見ていて、いなせで格好よく、それに、一寸斜交いに人生を見たニヒルな風貌など、片岡仁左衛門を見ているような錯覚を覚えた。
   同じ親子でも、幸四郎は近松の和事の世界は不向きだが、染五郎は素晴しい近松のガシンタレの大阪男を演じることが出来る。
   坂田藤十郎が、関西歌舞伎の復興に意気込んでいるが、染五郎の近松への傾斜を期待したい。

   ところで、大詰めの「入谷蕎麦屋の場」は、独立で上演されることが多くて、何回か見ているが、 あのしみじみとした詩情豊かな雪の夜の情景が堪らない。
   按摩を演じる芦燕が、美味そうに蕎麦をすすりながら世間話をする風情など実に上手くて、蕎麦屋の孝太郎と女房の扇緑とともに江戸の庶民の心情を見せて貰った様で感激であった。
   時蔵と左團次の素晴しさは当然。
   とにかく、4時間と10分の舞台に堪能して、三宅坂を後にした。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 駅中ビジネス活性化・・・ビ... | トップ | ドラッカー先生さようなら・... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

観劇・文楽・歌舞伎」カテゴリの最新記事