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『人新世の「資本論」』を読んで、興味を持ち、毛嫌いしてそっぽを向いていたマルクスの「資本論」を、斎藤准教授の新解説で勉強してみようと手にした。
新・マルクス=エンゲルス全集(MEGA)の編集経験を踏まえて、“資本主義後”のユートピアの構想者としてマルクスを描き出す。最新の解説書にして究極の『資本論』入門書!と言う本である。
ケインズは、資本主義が発展してゆけば、やがて労働時間は短くなる。21世紀最大の課題は、労働時間や労働環境ではなく、増えすぎた余暇をどうやりすごすかだ、と予言した。
たしかに、資本主義の発展に伴い技術革新が進み、世界の総GDPは急カーブで上昇し、世界は様変わりして、今や、ロボット開発やAI研究が進みChatGPT (チャットGPT) の時代になったが、
しかし、現実は労働時間が減るどころか、過労死さえ常態化しており、世界の労働環境は悪化を辿っている。
資本は価値の増殖運動であり、イノベーションを展開して生産性をアップして剰余価値を追求するのが資本主義である。また、このイノベーションは、労働者に対する「支配」の強化によって効率的に働かせるための「働かせ方改革」として作用しているので、ケインズの予想が当たる筈がない。と言う。
生産性が上がれば上がるほど、労働者はラクになるどころか、資本に「包摂」されて自律性を失い資本の奴隷となる、とマルクスは指摘しているという。
ここで、斎藤准教授は、「新陳代謝」論を展開。
本来、人間の労働は、「構想」と「実行」、すなわち、作品を構想する精神的労働と作品を制作する肉体的労働が統一されたものであったが、資本家は、資本主義の下で生産が高まると、両者を分離して構想力を削ぎ労働者は「実行」のみを担うこととし、同時にギルドを解体するなどして、労働者の主体性を奪って単純労働しか出来ないようにした。
20世紀初頭の「科学的管理法」のテイラー主義などその最たるもので、分業化された流れ作業を細分化して、各工程の動作や手順、所要時間を分析して標準作業時間を確定して、作業の無駄を徹底的に省いたというから、労働者は単なるスペアパーツに成り下がったと言えよう。
よく考えてみれば、現代の労働者や高級知的職種・専門職と言えども、利益増殖至上主義の資本主義の現代版テイラーシステムの歯車に組み込まれて、それが生き甲斐だと思って必死になって働いている働きバチに過ぎないのではなかろうか。
さて、今回は労働の問題について論じただけだが、利潤追求、富の増殖を求めて驀進する資本主義が素晴らしいものだと、殆ど疑いもなく信じていたが、これほど、労働者を非人間化して人格を奪い、かつ、内外共に経済格差を深刻化させ、地球温暖化や経済の外部性を軽視して宇宙船地球号を窮地に追い込んでいる。
この本を読んでいて、マルクス経済学はともかく、私が学び続けてきた経済学や経営学、特に、経済成長発展論や経営戦略論、イノベーション論など資本主義促進ドライバーは、人間をどんどん窮地に追い込むための学問ではなかったのであろうか、
とフッと不安が過ったのは事実である。