ノーベル賞学者ポール・R・クルーグマンが、「一国の経済政策は経営戦略とは違う」と、科学界での「グレートマン症候群」を引きながら、経済界の大立者が行う国への経済政策提言が、如何に的外れで実害が大きいかを述べていて面白い。
よくある話だが、科学の世界では、ある分野で有名な研究者が、よく知りもしない別の専門分野で声高に意見を述べることを「グレートマン症候群」と言うようだが、同じ病気が、大統領経済顧問に昇格したビジネス・リーダーにも見られており、まず大学に戻って経済学を勉強しなおせと言うのである。
わが宰相麻生太郎殿も、麻生セメント社長として経済界での実績があり、実業経験があるので経済には強いとの巷の評判があったが、むしろ、この経験ゆえに、百年百年と唱えながらも経済政策が、あのように迷走するのであろうか。
日本でも、色々な諮問委員会などで、経済界の重鎮が、学識経験者(?)とか何とかと称されて参加しているのだが、例えば、一番、利害相反していて酷いのは、公害や地球温暖化問題関係の委員会等であろう。
クルーグマンの論点は、国民経済は、クローズド・システム(閉鎖系)であるのに対して、企業は、オープン・システム(開放系)であり、この対比が、国の経済運営と企業経営の根本的な違いを引き起こしていると言うことである。
実業界の理解を得られないのは、輸出の雇用創出の関係、および、海外からの投資と貿易収支の関係における問題で、経済分析に必要な思考回路は、ビジネスで成功するのに必要なそれとは違っており、国家を企業に例えてビジネスの経営感覚で考えるのは、全く間違っていると説いている。
まず、国際貿易と国内の雇用の創出だが、
経済界では、自由貿易支持で、世界貿易を拡大すれば世界の雇用状態を改善出来、創出された雇用を各国が競い合って、競争力の涵養になると考えているが、
経済学者は、自由貿易が世界の雇用を創出するとか増やすとか、あるいは、輸出を活発に行う国は貿易赤字国より失業者が少ないとは思っていない。
ある国の輸出は、他の国の輸入であるので、自由貿易が世界の消費総額を増やすと言う確証があれば別だが、世界の総需要には何ら変更はないし、
更に、アメリカの雇用の上限は、輸出などの活動による需要創出能力によるのではなく、連銀がインフレをコントロールする上で必要な失業率の許容水準に従って決められており、
輸出入の増減は、全体の雇用に何ら影響を与えないと言う結論にならざるを得ないと言うのである。
次の、海外投資と貿易収支の関係であるが、
実業界では、海外からの投資が増えれば、貿易黒字が増加すると考えるが、
実際は逆で、会計学上、貿易収支は国際収支の一部であり、国際収支は対外受け取り総額と支払い総額は均衡しているので、貿易収支は赤字に陥る。
実際にも、海外投資が増えると、通貨価値を押し上げ、また、ブームを呼びおこして輸入を拡大するのみならず、インフレを引き起こして、輸出市場での価格競争力を落とすなど貿易収支は悪化するのである。
さて、そうなら、ブレインの一人でもあるクルーグマンが、この大経済不況の中で、如何にオバマ次期大統領に経済政策提言を行うのであろうか。
ここで、クルーグマンは、何故、実践を旨とする経営者が、経済学者が主張する原理原則を見抜けないのかについて、企業に典型的に生起するフィードバックと、一般の経済に生起するフィードバックとは全く違うのだとして、クローズドとオープン・システムの違いによる議論を展開するのだが、この本論に入る前に、まず、そこで展開されているフィードバックの一例を引きながら、現在の経済問題を少し考えてみたい。
主要な輸出産業が急激に伸びを見せる国についてだが、その産業が雇用を増やす場合、それは間違いなく他の産業を犠牲にしているとクルーグマンは説いている。
ある業種の輸出が拡大した場合、国際収支の会計原則に従って、別の輸出産業の縮小か輸入の増加によって均衡が保たれており、雇用状況と他業種の輸出にネガティブ・フィードバックを及ぼす可能性が高いと言うのである。
ところで、日本は、これまで、貿易立国を標榜して、円安基調を維持しながら積極的に輸出産業をバックアップしてきた。
特に、自動車産業の輸出に占める役割は突出しており、その成長振りと日本経済における貢献は計り知れない。
しかし、その日本経済の牽引車であった自動車産業、特に、トヨタの失速は、日本経済に致命的な影響を与えており、自動車関連産業の好況で恵まれていた中部経済圏のダメッジは非常に大きい。
さて、実際には、自動車輸出の拡大と突出が、日本経済にどのような影響と効果を与えてきたのか不明であるが、クルーグマンの説が正しければ、この自動車産業の輸出拡大が、日本経済に与えた雇用状況や他業種の輸出減少に与えたネガティブ・フィードバックは何であったのか、そして、それが、どんな形で、現在の経済不況を深刻化させているのか、考えてみることも有益であろうと思われる。
ところで、クルーグマンは、ある産業の突出が、ポジティブ・フィードバックを生む場合があるとして、金融センターとしてのロンドン、娯楽産業のハリウッドを上げているが、さて、ひとたび、大経済不況の荒波に飲み込まれれば、ロンドンを見れば分かるが、モノカルチュア的経済の悲しさで、目も当てられないような状況になる。
いずれにしろ、国家経済も、一つのバスケットに卵を入れないと言う分散投資手法で行く以外に道はないと言うことであろうか。
よくある話だが、科学の世界では、ある分野で有名な研究者が、よく知りもしない別の専門分野で声高に意見を述べることを「グレートマン症候群」と言うようだが、同じ病気が、大統領経済顧問に昇格したビジネス・リーダーにも見られており、まず大学に戻って経済学を勉強しなおせと言うのである。
わが宰相麻生太郎殿も、麻生セメント社長として経済界での実績があり、実業経験があるので経済には強いとの巷の評判があったが、むしろ、この経験ゆえに、百年百年と唱えながらも経済政策が、あのように迷走するのであろうか。
日本でも、色々な諮問委員会などで、経済界の重鎮が、学識経験者(?)とか何とかと称されて参加しているのだが、例えば、一番、利害相反していて酷いのは、公害や地球温暖化問題関係の委員会等であろう。
クルーグマンの論点は、国民経済は、クローズド・システム(閉鎖系)であるのに対して、企業は、オープン・システム(開放系)であり、この対比が、国の経済運営と企業経営の根本的な違いを引き起こしていると言うことである。
実業界の理解を得られないのは、輸出の雇用創出の関係、および、海外からの投資と貿易収支の関係における問題で、経済分析に必要な思考回路は、ビジネスで成功するのに必要なそれとは違っており、国家を企業に例えてビジネスの経営感覚で考えるのは、全く間違っていると説いている。
まず、国際貿易と国内の雇用の創出だが、
経済界では、自由貿易支持で、世界貿易を拡大すれば世界の雇用状態を改善出来、創出された雇用を各国が競い合って、競争力の涵養になると考えているが、
経済学者は、自由貿易が世界の雇用を創出するとか増やすとか、あるいは、輸出を活発に行う国は貿易赤字国より失業者が少ないとは思っていない。
ある国の輸出は、他の国の輸入であるので、自由貿易が世界の消費総額を増やすと言う確証があれば別だが、世界の総需要には何ら変更はないし、
更に、アメリカの雇用の上限は、輸出などの活動による需要創出能力によるのではなく、連銀がインフレをコントロールする上で必要な失業率の許容水準に従って決められており、
輸出入の増減は、全体の雇用に何ら影響を与えないと言う結論にならざるを得ないと言うのである。
次の、海外投資と貿易収支の関係であるが、
実業界では、海外からの投資が増えれば、貿易黒字が増加すると考えるが、
実際は逆で、会計学上、貿易収支は国際収支の一部であり、国際収支は対外受け取り総額と支払い総額は均衡しているので、貿易収支は赤字に陥る。
実際にも、海外投資が増えると、通貨価値を押し上げ、また、ブームを呼びおこして輸入を拡大するのみならず、インフレを引き起こして、輸出市場での価格競争力を落とすなど貿易収支は悪化するのである。
さて、そうなら、ブレインの一人でもあるクルーグマンが、この大経済不況の中で、如何にオバマ次期大統領に経済政策提言を行うのであろうか。
ここで、クルーグマンは、何故、実践を旨とする経営者が、経済学者が主張する原理原則を見抜けないのかについて、企業に典型的に生起するフィードバックと、一般の経済に生起するフィードバックとは全く違うのだとして、クローズドとオープン・システムの違いによる議論を展開するのだが、この本論に入る前に、まず、そこで展開されているフィードバックの一例を引きながら、現在の経済問題を少し考えてみたい。
主要な輸出産業が急激に伸びを見せる国についてだが、その産業が雇用を増やす場合、それは間違いなく他の産業を犠牲にしているとクルーグマンは説いている。
ある業種の輸出が拡大した場合、国際収支の会計原則に従って、別の輸出産業の縮小か輸入の増加によって均衡が保たれており、雇用状況と他業種の輸出にネガティブ・フィードバックを及ぼす可能性が高いと言うのである。
ところで、日本は、これまで、貿易立国を標榜して、円安基調を維持しながら積極的に輸出産業をバックアップしてきた。
特に、自動車産業の輸出に占める役割は突出しており、その成長振りと日本経済における貢献は計り知れない。
しかし、その日本経済の牽引車であった自動車産業、特に、トヨタの失速は、日本経済に致命的な影響を与えており、自動車関連産業の好況で恵まれていた中部経済圏のダメッジは非常に大きい。
さて、実際には、自動車輸出の拡大と突出が、日本経済にどのような影響と効果を与えてきたのか不明であるが、クルーグマンの説が正しければ、この自動車産業の輸出拡大が、日本経済に与えた雇用状況や他業種の輸出減少に与えたネガティブ・フィードバックは何であったのか、そして、それが、どんな形で、現在の経済不況を深刻化させているのか、考えてみることも有益であろうと思われる。
ところで、クルーグマンは、ある産業の突出が、ポジティブ・フィードバックを生む場合があるとして、金融センターとしてのロンドン、娯楽産業のハリウッドを上げているが、さて、ひとたび、大経済不況の荒波に飲み込まれれば、ロンドンを見れば分かるが、モノカルチュア的経済の悲しさで、目も当てられないような状況になる。
いずれにしろ、国家経済も、一つのバスケットに卵を入れないと言う分散投資手法で行く以外に道はないと言うことであろうか。