小金沢ライブラリー

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マンガ感想-『Q.E.D.証明終了 34』加藤元浩

2013年11月09日 | マンガ感想
「災厄の男の結婚」★★☆ 5
~あらすじ~
燈馬らに数々の災厄をもたらしてきた億万長者アランが結婚した。
だがそれを機に設立した慈善団体が開発銀行の起こしたトラブルに巻き込まれる。
はたして開発銀行は難民キャンプで何を起こしたのか? 無事に挙式を終えるため燈馬らは奔走する。

~感想~
いっこうに進展しない燈馬と可奈の関係が象徴的だが、時間経過に乏しい物語の中でアランの結婚という動きがあったのは面白い。
しかしトリックは単なる雑学程度で、挙式までに解決するというタイムリミットもいまいち盛り上がらず。事件自体も大きすぎて後味の悪さを残したか。
アランらしいセリフの数々や、ラスト1ページ前、この場に同席している優を省いてあのカップル(?)たちが映されるのはにやりとさせられるのだが。


「母也堂」★★★☆ 7
~あらすじ~
資産家の祖母に引き取られ田舎に引っ越した可奈の旧友を訪ねた燈馬ら。
だがその一昨日、旧友の離婚した父は鍵のかけられた車内で腹部を撃たれ死亡していた。
助手席から撃たれたように見えるが、それならば犯人はいかにして脱出したのか。燈馬は「これは殺人ではなく選択」だと語るが……。

~感想~
二つ起こる殺人のうち後者はちょっとうまく行きすぎだが(成功すれば儲けもの程度の扱いなのでストーリー的には問題ない)、前者の密室事件は乱暴に言えば、ごくごく単純な事象を不可能状況に見せかける手腕が光る。
それにしても無くてもいいような見取り図を活かした手掛かりを配する丁寧さには吹いた。こういった細かい仕事がこのシリーズを随一のミステリ漫画たらしめているのだろう。
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マンガ感想-『Q.E.D.証明終了 33』加藤元浩

2013年11月03日 | マンガ感想
「パラドックスの部屋」★★★ 6
~あらすじ~
離婚したばかりの一人暮らしの男が死体で発見された。警察が自殺か病死だと判断する中、別れた元妻は「正義漢だった彼は組織に殺された」と言い募る。
しかし男の旧友は「普通の男の自殺」と、浮気相手は「危険な男がクスリで病死」と三者三様の主張をする。はたして男の正体は?

~感想~
魅力的な謎がニコリのパズルに落ちるも、印象に残るラストで佳作に引き上げられた。
その手際は見事ながら、この作者なら解決そのものも、もっとうまく付けられたのではと期待し過ぎたか。


「推理小説家殺人事件」★★★ 6
~あらすじ~
推理小説家が自宅の風呂で溺死し、警察は事故死と判断した。
彼は死の前、同業の友人4人に居酒屋で「事故死と判断される風呂場での殺人トリック」を語っていた。
しかしその時に語られたトリックは密室ではなかったが、実際の現場は施錠されていた。

~感想~
容疑者が推理作家ばかりで、居酒屋トークが実現するという設定自体がもう面白い。
犯人限定のロジックは言葉尻をとらえた程度のもので証拠に乏しいし、溺死トリックがそこまで魅力的に見えないのはご愛嬌だが。
あと某先生が友情(?)出演しているのでてっきり容疑者Xの年くらいの作品かと思ったら、4年も後の掲載だったのには笑った。4年どころか8年経った今でもアレは言われ続けるのだなあ。
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マンガ感想-『Q.E.D.証明終了 32』加藤元浩

2013年10月15日 | マンガ感想
「マジック&マジック」★★★★ 8
~あらすじ~
マジックショーを観に来た燈馬が可奈に請われしぶしぶタネを説明していると、マジシャンの黒法子が割って入る。
黒法子は燈馬の持っていた稀覯本を賭けて「見たこともないマジックを見せる」と言う。
あらゆるマジックのタネを見抜けてしまい「だって驚いてみたいじゃないですか」とつぶやく燈馬を黒法子は驚かせることができるのか?

~感想~
燈馬はもちろん読者も予想だにしない「見たこともないマジック」が光る。
あまり語ってネタを割ってしまってはもったいない。ファンであればこのトリックにはますます容易に引っかかるだろうとだけ言っておこう。


「レッド・ファイル」★★★ 6
~あらすじ~
世界的な金融危機に揺れる中、銀行の会計士が殺された。
容疑をかけられたのは燈馬の旧友で、くだんの銀行に投資プログラムを提供していたフライヤ。
銀行と、特ダネを追うフリーライターはフライヤが会計士からある機密ファイルを奪ったと考えていて――。

~感想~
作中で語られる金融の話題が素人にはもうややこしい。わかるようでわからない話なのは本編のほうも同じで、謎の焦点がどこに当たっていて、何を論じているのかも正直よくわからないまま事件は終わってしまう。
だがラストシーンの皮肉さや、金融という世界の得体のしれなさと面白さ、可奈のタンカとそれに対する燈馬のさりげなく描かれる反応、などなど見どころは多い。
また、ネット上で有名なこの↓画像↓。実はこの話に登場する一コマである。これマメな。


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マンガ感想-『Q.E.D.証明終了 31』加藤元浩

2013年10月07日 | マンガ感想
こんな想像をするんだ
老いて動けなくなった私の手術をする医者が現れる
その医者は"私"なんだ


「眼の中の悪魔」★★★ 6
~あらすじ~
ロキの友人ルーカスがジェットエンジンの実験データを紛失し聴聞会に掛けられた。
ルーカスは「教授にデータを盗まれた」と主張するが、偽証とデータの捏造を疑われる。
一方の教授は燈馬に科学者を襲う「眼の中の悪魔」の存在を語る。

~感想~
研究室内のドロドロした話がまず楽しい。燈馬の指摘する心理・物理の証拠も(物理の方はまず気づくのは無理だが)見事だが、それよりも上記↑斜線のセリフを筆頭にある人が名言を連発。野口英世の逸話も意外だった。
卓越したトリックだけではない「Q.E.D.」の魅力にあふれた一編である。


「約束」★★★ 6
~あらすじ~
登山中の燈馬らは男の滑落死したところに出くわす。
事故死かと思われたが、山小屋の主人は男の名前が駒田利一だと聞き、先代の主人だった父がかつて「駒田利一を殺してくれ」と約束しあう人物を目撃していたという。
本当に約束は果たされたのか? 約束を受けたのは誰なのか?

~感想~
これだけ読んでいると、どうやって意外性を演出するかというパターンが、ある程度は見えてしまい、真相が透けてしまうこともある。
本編もそうだったが、だからといって楽しめないわけではなく、話の展開自体が非常に魅力的であるし、トリックもミスリードのうまさや的確さを十分に味わえることだろう。
また犯人を特定するロジックはいつも意外と強引なことが多いが、今回はたたみかけるように連発することで、説得力も持たせている。

余談だが本作はこの巻が刊行された時期にNHKで実写ドラマ化が決定した。しかしその後、続編もアニメ化の話も無いのは残念である。
燈馬役にオーラが無さすぎたのが原因だろうか。
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マンガ感想-『Q.E.D.証明終了 30』加藤元浩

2013年10月03日 | マンガ感想
「人形殺人」★★★ 6
~あらすじ~
ナイフを刺された人形が2体見つかり、ポケットにはある贈収賄と薬害事件に関わった人物の名刺が入っていた。
その後、やはり贈収賄と薬害に関わる人物が腕を切られる。人形に始まり徐々にエスカレートしていく事件の行き着く先は?
そんな中燈馬は一連の事件が起こった場所が一本の線でつながることに着目する。

~感想~
言われてみればごくごく単純な真相を覆い隠す巧みな手管。これだけ単純な真相から、人形が殺されたのを皮切りに徐々にエスカレートしていく犯罪を逆算する。こういった見せ方ができる限り、この作者はいくらでも良作ミステリをものせるだろう。
それに加えてこの事件での燈馬の言動がいちいち名探偵名探偵していて素敵過ぎる。


「犬の茶碗」★★★☆ 7
~あらすじ~
燈馬の通う将棋道場の常連の老人たちが催眠商法で羽毛布団を買わされた。
同情した可奈は「手段を選ばず合法的に取り返す」ことを燈馬に依頼。燈馬は「古典的な方法」で詐欺師に挑む。

~感想~
「Q.E.D.」では珍しいコンゲーム風の物語が楽しい。
燈馬の仕掛けた罠の鋭さ、結末の意外性も十分。まさに「古典的」でありながらこの展開は容易に見抜けるものではない。
それにしても可奈はもう探偵事務所はもちろんのこと、人間離れした運動能力もありスパイか工作員としても生活できそうな気が。ワトスン役にもヒロインにも収まりきらないハイスペックさはミステリ界でも屈指では。
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マンガ感想-『Q.E.D.証明終了 29』加藤元浩

2013年09月30日 | マンガ感想
「エレファント」★★★ 6
~あらすじ~
空き地で学生に難解な数学の話を語る通称「海賊ジジイ」。
彼にそそのかされ宝探しに赴いた可奈たちは、金庫を盗まされることに。気後れして逃げ出した翌日、100キロ超の金庫は海賊のもとにあった。
しかし金庫を盗まれたビルの防犯カメラには手ぶらで出て行く海賊の姿しかなかった。

~感想~
2006年に証明され100万ドルの賞金がついていたことでも話題になったポアンカレ予想が題材。
数学ネタは「Q.E.D.」の真骨頂だがあまりに難解すぎてまず理解が及ばない。トリックへのつなげ方も強引で(あれでいいなら双孔堂の殺人もポアンカレ予想物ミステリだ)トリック自体もなんてことない仕掛けである。
だがタイトルにもなった「エレファント」を筆頭に海賊が名言を連発し、印象的なラストとあいまって佳作と言って良い出来に押し上げた。


「動機とアリバイ」★★★ 6
~あらすじ~
盗作の噂の絶えない美術家がインシュリンの過剰投与で死んだ。
邸内には三人の弟子がいたが、そのいずれもアリバイがある。美術家の死は他殺か、それとも自殺か事故か。

~感想~
数学ネタはもちろんのこと、こういう細かいアリバイ崩しもこの作者は実にうまい。トリックは多少強引なものだが、燈馬の犯人の追い詰め方が切れて、非常に絵になる。
でも燈馬の話の割り込み方はキザ過ぎて吹かざるをえない。あれイケメンのやることだろ。
コメント

マンガ感想-『Q.E.D.証明終了 28』加藤元浩

2013年09月21日 | マンガ感想
「ファラオの首飾り」★★★ 6
~あらすじ~
新たな王家の墓を発見したと主張する旧友に呼ばれ、エジプトに飛んだ燈馬と可奈。
その墓を調査する人々はファラオの呪いをなぞるように次々と災禍に見舞われていた。
燈馬は従弟の榊森羅の力も借り、真相へと迫る。

~感想~
作者のもう一つのミステリシリーズである「C.M.B.」とのコラボ作品。だがこちらの森羅は顔見せ程度で、クロスオーバーというほど大袈裟なものではない。
事件の謎解きよりも、燈馬が犯人を黙らせたトドメの一言や、「科学は人の心に届かない」と否定する犯人に対しては何も反論せず、論理的にロマンあふれる物語をひもといてみせる燈馬の姿が心に残る。
それにしてもこの一話での可奈の役目は「Q.E.D.」でも「C.M.B.」でも完全に用心棒扱いだな。

「人間花火」★★★★ 8
~あらすじ~
花火職人だった父が描いたという、死体が腐敗していく様を描いたスケッチ。その父は人に花火をくくりつけ爆殺していた。
同じく花火職人となった息子もまた、スケッチに魅入られたように様子がおかしくなっているという。
ところが友人を案じてスケッチの調査を進める民俗学者もまた、不審な様子を見せるようになった。

~感想~
まるで江戸川乱歩の作品のようなタイトルに見合った、怪奇味あふれる一編。
雰囲気だけではなく、さりげない伏線とちりばめられたヒント、意外な急展開にどんでん返し、事件が終わるまで動こうとしない探偵と、ミステリの魅力がてんこもり。探偵=燈馬にはもうちょっと動いて欲しかったが。
それより気になったのが、作品のテーマとなるある二つの言葉に、乱歩よりも宮部みゆきの気配が漂っていること。漂うどころかこれはそのまんま「名もなき毒」と「模倣犯」である。パクリとか糾弾したいわけではなく、単純に作者がどこまでその二作を意図しているのか興味深い。全く知らなかったらすごいな。
コメント

マンガ感想-『C.M.B.森羅博物館の事件目録 5』加藤元浩

2013年09月19日 | マンガ感想
「グーテンベルク聖書」★★★ 6
~あらすじ~
幻のグーテンベルク聖書の鑑定を断った森羅に怒り、立樹は依頼人のマウを助けようとする。
マウの周りには聖書の行方を追う闇のブローカーやインターポールが現れ――。

~感想~
話の流れから真相はバレバレだが、ちりばめられた伏線のうまさと森羅の仕掛ける策略が見どころ。
今後のストーリー上でも重要な一編である。

「森の精霊」★★★ 6
~あらすじ~
ボルネオの森に住むサダマン。貴重な薬草の知識を持つ彼に接触した、製薬会社の社員が首を斬られ殺された。
しかも被害者は死後に橋を渡る姿を目撃されていた。サダマンと旧知の森羅は調査を依頼されボルネオに飛ぶ。

~感想~
サダマンの雰囲気、言動とあいまってシリアスな空気をブチ壊すバカトリックが素敵。
この作者もこういうバカなトリックを使うんだなとうれしくなるではないか。
コメント

マンガ感想-『C.M.B.森羅博物館の事件目録 4』加藤元浩

2013年09月16日 | マンガ感想
「ユダヤの財宝」★★★★ 8
~あらすじ~
遺跡調査員が「ユダヤの財宝を見つけた」と言い遺しローマで殺された。
第三者の調査員として選ばれた森羅は立樹とともにローマへ飛ぶ。
だが事件にはユダヤ人の歴史に絡んだ様々な思惑が渦巻き、さらには十字軍の騎士の亡霊が森羅に襲いかかる。

~感想~
一介の高校生に過ぎない燈馬が主人公の「Q.E.D.」では容易にできない海外編も、「C.M.B.」ではフットワークが軽くいとも簡単に国境を超えてしまう。
指輪の持ち主でその気になればケタ外れの資金を動かせる森羅はともかく、保護者的な立場で立樹も平然とそれに同行するのが強引だが。出席日数とか親とか平気なのか。
それはともかく、今作は「C.M.B.」ならではの設定を活かしたスケールのでかい大風呂敷を広げる一編で、歴史の闇に埋もれたありえたかもしれないエピソードを掘り起こす秀作である。
犯人の隠し方、特定のロジックもなかなか巧みで、ミステリとしての魅力も十分。「C.M.B.」シリーズでも屈指の出来だろう。
コメント

マンガ感想-『C.M.B.森羅博物館の事件目録 3』加藤元浩

2013年09月13日 | マンガ感想
「失われたレリーフ」★ 2
~あらすじ~
森羅の持つ3つの指輪を奪うため、勝負を挑むベントレー。
一部が欠けた古代アステカのレリーフ。その失われた部分に描かれていたものは何か? 勝負を飲んだ森羅はベントレーの罠に掛かったのか?

~感想~
出題された時点で答えがモロバレ状態。そりゃ指輪もらえないわベントレー……。
前・後編にわたって引っ張るネタではないが、指輪の意義と森羅がそれを得た背景を描くことでなんとか形を作れたか。
しかしあまりにも真相が弱すぎるためミステリ的に大減点としこの点数で。


「都市伝説」★★ 4
~あらすじ~
森羅たちの通う高校に流れる、死体にまつわる3つの都市伝説。
噂を流しているらしき楽器店の店主を尾行すると、奇妙な行動をとっていて……。

~感想~
怪奇味あふれる物語が脱力の真相にたどり着く。その動機は非常に回りくどくちょっと現実味に欠けすぎるような。
だがそれよりも見るべきは森羅の成長譚としての側面だろう。なかなかのジャイアニズムを持つ「Q.E.D.」の可奈とは異なる立樹のキャラが確立してきて、森羅にとっての正しく健全な年長者としての存在感が光る。一巻の頃の大人びていた森羅が話が進むごとにどんどん幼くなっている気もするのだが。
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