~収録作品とあらすじ~
昨年亡くなった作者の最後の短編集と銘打たれる。
しかし初出を見ると最新の作品でも2009年なので、もう一冊出せるくらいの短編は残っていそうな。以下感想。
指飾り
別れた妻によく似た後ろ姿の女は、私の前で指輪を道端に放り捨てた。
彼女は本当に妻で、私に気づいているのか。
無人駅
寂しい宿場町に現れた女は不思議に目立つ行動を繰り返す。
女が待っているのは、今日で時効を迎える指名手配の男なのか。
蘭が枯れるまで
造花教室の帰り道、小学生の頃の同級生を名乗る女は、私に夫の交換殺人を持ちかける。
ただの愚痴だったはずの話は次第に具体性を持ち始め――。
冬薔薇
レストランで待つ男に刺し殺される夢を何度も繰り返し見る。
いまレストランに向かっている私は夢? それとも現実?
風の誤算
浮気、武勇伝、恩返し――地味で静かな水島課長にささやかれる無責任な数々の噂。
やがて噂が一つの事件へとつながっていき……。
白雨
記憶から抹消した両親の無理心中が、娘へのいじめにつながっていく。
脅迫しているのは誰か。そして脅迫されているのは娘か私か。
さい涯てまで
北へ北へと向かっていく不倫旅行。駅員の私の前に現れた女は、その旅行先への切符を求め、支払いせずに去っていこうとする。
小さな異邦人
母1人子供8人の9人家族に掛かってきた脅迫電話は言う。「子供を一人誘拐した。3千万円払え」
だが子供たちは8人全員が揃っていて――。
~感想~
指飾り
小さな謎が小洒落て粋なはからいに変わる。その過程で普通に浮気してしまっているのが連城作品らしくて笑えるが、心に残る味わい。
無人駅
怪しい女の奇行が意外な事実にたどり着くが、そんなことよりも一つ一つの小さな描写が物語として必要なところにぴたりぴたりとはまっていくのが素晴らしい。この一編に限った話ではないが、余裕で中~長編に昇華できるだけの濃密さがある。
蘭が枯れるまで
ありがちな交換殺人を結末でこんなところに落とし込むとはさすが連城三紀彦。
ラスト数ページはあまりの超展開に「ちょっと待てちょっと待て」と目を剥き大混乱に陥った。
歴代短編でベストに挙げる人もいるだろう。
冬薔薇
作者の数々の長編を思い起こさせる幻想的な一編。
しかしとうてい現実の出来事に置き換えるのは無理そうな話を……。と読者の期待を裏切らない。
風の誤算
いくらなんでもこんなに様々な噂の的になる人間はいないが、怪談のような展開が落ち着いた後に、もう一つの別種の怪談的な事実が浮かび上がるのが面白い。
白雨
そう来たか! 娘へのいじめと過去の無理心中が一つに重なっていき、顛倒した論理から導き出される真実はとんでもない予想外のものに。作者の発想と稚気はいささかも衰え知らず。
さい涯てまで
要するにバカップルの不倫旅行とその破局という単純な筋に、謎めいた女と過去を絡めて一級の恋愛譚、しかもミステリとして仕立て上げてしまう。結末も決まり、これぞ連城短編と言いたくなる。
小さな異邦人
これが本当に遺作だとして、最後の最後に作家人生でもベスト級の短編を書いてしまうなんて、奇跡としか言いようがない。
すでに長編で「造花の蜜」「人間動物園」、短編で「過去からの声」と全ミステリの中から誘拐物のランキングを作っても上位に入るだろう作品をいくつも出している作者が、またしても誘拐物の新境地を切り拓いた。
魅力的な導入部から意外すぎる真相、張りめぐらされた伏線と見事な結末。まだこんな手があったとは!
~総括~
遺作だとか7年ぶりの短編集だとかそんな背景はおいといて、手放しで絶賛せざるを得ない傑作短編集。
8編揃ってハズレ無し、しかも作者の無数の短編の中でもベストに挙げられる作品がいくつも光る。
どこまでも恋愛小説でありながらどこまでもミステリであり、作家として晩年であろうと連城三紀彦はいつまでも連城三紀彦であった。
14.3.28
評価:★★★★☆ 9
昨年亡くなった作者の最後の短編集と銘打たれる。
しかし初出を見ると最新の作品でも2009年なので、もう一冊出せるくらいの短編は残っていそうな。以下感想。
指飾り
別れた妻によく似た後ろ姿の女は、私の前で指輪を道端に放り捨てた。
彼女は本当に妻で、私に気づいているのか。
無人駅
寂しい宿場町に現れた女は不思議に目立つ行動を繰り返す。
女が待っているのは、今日で時効を迎える指名手配の男なのか。
蘭が枯れるまで
造花教室の帰り道、小学生の頃の同級生を名乗る女は、私に夫の交換殺人を持ちかける。
ただの愚痴だったはずの話は次第に具体性を持ち始め――。
冬薔薇
レストランで待つ男に刺し殺される夢を何度も繰り返し見る。
いまレストランに向かっている私は夢? それとも現実?
風の誤算
浮気、武勇伝、恩返し――地味で静かな水島課長にささやかれる無責任な数々の噂。
やがて噂が一つの事件へとつながっていき……。
白雨
記憶から抹消した両親の無理心中が、娘へのいじめにつながっていく。
脅迫しているのは誰か。そして脅迫されているのは娘か私か。
さい涯てまで
北へ北へと向かっていく不倫旅行。駅員の私の前に現れた女は、その旅行先への切符を求め、支払いせずに去っていこうとする。
小さな異邦人
母1人子供8人の9人家族に掛かってきた脅迫電話は言う。「子供を一人誘拐した。3千万円払え」
だが子供たちは8人全員が揃っていて――。
~感想~
指飾り
小さな謎が小洒落て粋なはからいに変わる。その過程で普通に浮気してしまっているのが連城作品らしくて笑えるが、心に残る味わい。
無人駅
怪しい女の奇行が意外な事実にたどり着くが、そんなことよりも一つ一つの小さな描写が物語として必要なところにぴたりぴたりとはまっていくのが素晴らしい。この一編に限った話ではないが、余裕で中~長編に昇華できるだけの濃密さがある。
蘭が枯れるまで
ありがちな交換殺人を結末でこんなところに落とし込むとはさすが連城三紀彦。
ラスト数ページはあまりの超展開に「ちょっと待てちょっと待て」と目を剥き大混乱に陥った。
歴代短編でベストに挙げる人もいるだろう。
冬薔薇
作者の数々の長編を思い起こさせる幻想的な一編。
しかしとうてい現実の出来事に置き換えるのは無理そうな話を……。と読者の期待を裏切らない。
風の誤算
いくらなんでもこんなに様々な噂の的になる人間はいないが、怪談のような展開が落ち着いた後に、もう一つの別種の怪談的な事実が浮かび上がるのが面白い。
白雨
そう来たか! 娘へのいじめと過去の無理心中が一つに重なっていき、顛倒した論理から導き出される真実はとんでもない予想外のものに。作者の発想と稚気はいささかも衰え知らず。
さい涯てまで
要するにバカップルの不倫旅行とその破局という単純な筋に、謎めいた女と過去を絡めて一級の恋愛譚、しかもミステリとして仕立て上げてしまう。結末も決まり、これぞ連城短編と言いたくなる。
小さな異邦人
これが本当に遺作だとして、最後の最後に作家人生でもベスト級の短編を書いてしまうなんて、奇跡としか言いようがない。
すでに長編で「造花の蜜」「人間動物園」、短編で「過去からの声」と全ミステリの中から誘拐物のランキングを作っても上位に入るだろう作品をいくつも出している作者が、またしても誘拐物の新境地を切り拓いた。
魅力的な導入部から意外すぎる真相、張りめぐらされた伏線と見事な結末。まだこんな手があったとは!
~総括~
遺作だとか7年ぶりの短編集だとかそんな背景はおいといて、手放しで絶賛せざるを得ない傑作短編集。
8編揃ってハズレ無し、しかも作者の無数の短編の中でもベストに挙げられる作品がいくつも光る。
どこまでも恋愛小説でありながらどこまでもミステリであり、作家として晩年であろうと連城三紀彦はいつまでも連城三紀彦であった。
14.3.28
評価:★★★★☆ 9