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ミステリ感想-『教場』長岡弘樹

2014年04月23日 | ミステリ感想
~あらすじ~
担任教官の急病により警察学校第九十八期生の一クラスを任された風間公親係長。
命の恩人に憧れ刑事を目指す男、恋人の仇を追う女、白バイ警官を志す男――警官の卵たちに風間は言う。
「初めに断っておくが、わたしはきみたちを警察官にするつもりはない」

このミス2位、文春1位


~感想~
昨年の各種ランキングを賑わせた逸品。
例によって書店員サマのありがたいお言葉が帯に躍っており、それに並べて「すべてが伏線。一行も読み逃すな」などと書かれているが、三津田信三の刀城言耶シリーズのような意味合いではなく、伏線は物語や話の展開に対して張られたもので、作品全体を貫く大掛かりなトリックは存在しない。
本作を連作短編集に分類するのもはばかられ、話が進むごとに時系列も進行し、各編の登場人物が別の章にも顔を出し、前の章で置き去りにされた伏線やぶつ切りになった結末が、後の章で回収されていくものの、それは単純に話を章ごと、語り手ごとに区切っただけで、長編小説と読んだほうが据わりは良い。
そもそもこれを本格ミステリどころかミステリと呼んでいいのかも悩みどころで、トリックがあり明確な解決があり探偵役もいるのだが、いずれも各章の核となるものではなく、あくまで警察学校の日常を描くことに重きが置かれている。

では本格ミステリ馬鹿から見ても本作は面白いのかどうかといえば、もう迷うことなく傑作だと言い切れる。
物語として、一冊の本としての完成度は非常に高く(物語的な意味で)ほぼ全ページにばらまかれた伏線は実に巧み。文体はきわめて平易に流れ、警察学校という一般人になじみの薄い世界は全てが新鮮で驚きに満ちている。
登場人物は警官しかいないのに、軽くない罪状が付きそうな犯罪が一年足らずの間にごろごろ現れ「刑事と犯罪者は紙一重」という標語がちらついてしまうものの、それは難癖に過ぎないだろう。
刑事小説でも警察小説でもない、初の警察学校小説。それだけに留まらない万人におすすめできる出色の一冊である。


14.4.21
評価:★★★★ 8
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