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ゲーム感想-『十三機兵防衛圏』

2020年10月03日 | ゲーム
~あらすじ~
突如として現れた怪獣が世界を滅ぼそうとする。
十三人の少年少女は世界の謎を追い、そして機兵に乗り、終焉へと立ち向かう。
ジュヴナイル群像劇本格SFアドベンチャー。


~感想~
20年前「ガンパレード・マーチ」というゲームがあった。
個性豊かな高校生たちが普段は学校生活を送りながらも、突然現れる異界からの侵略者と戦うためロボットに乗るストーリーで、荒削りながらも絶大な魅力あふれる作品だった。据え置き機では人生でベスト3に入るほどの時間を費やしたものだ。
続編が揃って大コケし、コンテンツとしてはほぼ死亡してしまったが、ハマった人間は一生忘れることができないだろう。
そして2019年、令和のガンパレと一部で呼ばれるゲームが「十三機兵防衛圏」である。

初めてトレーラー等を見た時は笑った。高校生・ロボット・世界崩壊・怪獣・猫・幼女と隠す気が全く無いほどアトラス版ガンパレで、特にバトルパートはガンパレを意識していないと絶対に説明が付かないくらいそっくりだった。
いくらヴァニラウェアでも正直これはコケるだろうと予想していたが、意に反して発売後は絶賛の嵐だった。ディスク版は(出荷本数も少なかったようだが)入手困難になり、1年経とうかという現在も中古価格はほとんど下がっていない。
ガンパレファンとして見過ごす手はなく、遅ればせながらクリアしたが、結論から言えば歴史に残りうる傑作だった。
以下ネタバレ無し。


1.概要
本編は3パートに分けられ、ADV風に物語を体験する「追想編」と、最終決戦を行うバトルパートの「崩壊編」、「追想編」で得たキーワードが解説され、物語が時系列順に並べられる「究明編」がある。
3パートはプレイヤーの任意に進められ、いずれもシステムが秀逸。
「追想編」は1プレイ10分ほどの短編で、13人のキャラの物語を体験していく。フローチャートとヒント付きで詰まる場面はほぼ無く、それぞれ先が気になる絶妙のタイミングで切られ、短時間で終わる手軽さと相まって次々と読み進めたくなる。
「崩壊編」は全てのストーリーが語られ終えた後の、最終決戦という設定が実に見事で、紆余曲折を経て13人が勢揃いする、それまでに何があったのかと「追想編」への期待と興味が膨らむ。
「究明編」は「追想編」の進行に応じて情報が追加されていき、また「崩壊編」で獲得したポイントで、好きな項目を開放できる。ポイントがむちゃくちゃ余るのでもっとあってもいいとは思ったが小さな不満である。


2.ストーリー
本作の何が優れているかといえばこのストーリーである。
「追想編」で語られる13人の物語は、場所や立場はもちろんのこと時系列までもがバラバラで、複雑に入り組んでいる。しかもどの順番で読むかはプレイヤーに委ねられており、そこへ有名SF要素全部乗せみたいな、山ほどの設定が絡む。ほとんど全ての台詞が伏線だらけで、いちおう「究明編」で体験した物語はキャラごとに時系列順で整理されるものの、全体を貫く一本のストーリー自体は、プレイヤーが頭の中で組み立てねばならない。
しかし恐るべきことに、SFをさほど知らない自分にも、最後にはすっきりと全容が把握できてしまった。
一言では到底表せないほど複雑な設定・物語を、ある程度は好き勝手な順番で読ませておいて、進行に応じて徐々に点と線がつながっていき、終わってみれば全てを理解させる。いったいどれだけの労力を払えばこんなことが実現できるのか。
しかもこれは小説や映画では実現できない、ゲームならではの手法である。大げさではなく表現手法に新たな地平を切り拓いた作品と言えよう。

また小難しい話はおいといて、単純に「少年少女がロボットに乗り侵略者と戦う」というSFロボットバトル物としても熱いストーリーで、厨ニ心を刺激してやまない。


3.グラフィック
ヴァニラウェアおなじみの美麗な背景とよく動くキャラは期待通りの仕上がり。美味そうな食べ物ももちろんある。
ほとんどを社長兼ディレクターの神谷盛治が一人で描いたそうで、その執念と職人芸には感嘆するしかない。
戦闘パートこそただのマーカーで表示される味気無さだが、そこまで描かせたら製作期間が数年単位で伸びる挙げ句にたぶん神谷が死ぬので望むまい。


4.戦闘
マーカーで表示されるキャラ、射程を表す扇形、見下ろし視点と、もう一見してガンパレの影響を否定できない画面構成で、初めて見た時には吹いた。
簡易RTSのいわゆるタワーディフェンス方式で、たった2分間だけ敵の猛攻をしのげばいいシンプルさだが、ちょうどいい奥深さと爽快感があり、「追想編」と同じく10分程度で終わり、負けてもほぼペナルティは無いため手軽に楽しめる。
各バトルにはミッションが設定され、出撃メンバーを絞られたり、数回の出撃ごとに強制的に休ませる仕様で、攻略のためには全員を満遍なく育てる必要があるが、このくらいの縛りはむしろやり甲斐につながっている。
敵も味方もマーカー表示で攻撃も単純なエフェクトのみなのはシンプルすぎるが、それを逆手に取り、物語設定通りの圧倒的な戦力差を表現することに成功しており、終盤戦ではそれでもなお処理落ちするほどの、画面を埋め尽くす敵の物量作戦に驚かされるだろう。


5.キャラクター
個性的な13人だが、ガンパレのようなアクの強すぎる現実離れしたキャラはおらず、全員地に足が着いている。
13人それぞれが別々の目的のために動き、「●●を買う」ために脱出ゲームめいた謎の展開を見せる者もいるが、最終的には誰一人欠けてもここまで来ることはできなかったという結末に至る。
声優陣の演技も抜群で、一人何役かもあるのだが全く気づかないほどの巧みさ。セリフ一つ一つが短いセンテンスでまとめられ読みやすいのもいいところ。
福山潤と小清水亜美が完全にルルーシュと小清水だったが、まあこちらもそれを期待しているし。あと恥ずかしながら初めて聴いた種﨑敦美がむちゃくちゃ上手くて驚かされた。


6.UI
総じて親切設計である。
ロードはほぼ皆無で、台詞はワンタッチでいつでもバックログが見られ、ボイスも再生可能。
「追想編」ではフローチャートはいつでも見られ、分岐のヒントも出るので攻略サイトのお世話になることはまず無いだろう。次に向かうべき方向には操作キャラがだいたい振り返ってくれるので動線も迷わない。台詞はスキップ可能で、しかもR1を押せば全体の流れを早送りまでしてくれる。
またヴァニラウェアはケーブルにつながなくても、ポーズ画面からいつでも説明書が読めるのも良い。これは全メーカーに見習って欲しい。
エンディングが操作不能でボイススキップもできず延々と流れ、PS4のホーム画面を出している間すら進行し続けるが、最悪スリープさせればいいし、一回きりだから問題あるまい。


とにかくSF、ロボットバトル、群像劇、ガンパレ、いずれかが好きならば迷うこと無く手に取って欲しい、プレイ中は心の中心に、プレイ後もずっと心のどこかに残り続けるだろう傑作だった。
ガンパレもこの方式でリメイクとかして欲しい。

2020.10.2
評価:★★★★★ 10
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