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ミステリ感想-『ミステリークロック』貴志祐介

2020年10月09日 | ミステリ感想
~収録作品とあらすじ~
暴力団員の野々垣は若頭を自殺に見せかけて射殺。それを目撃した舎弟も同じように殺そうと考える…ゆるやかな自殺
鏡の国のアリスをモチーフにした展覧会の準備中、美術館の館長が殺される。現場は複数のカメラで完全に監視され、屋根から侵入した榎本が容疑を掛けられる…鏡の国の殺人
推理作家が晩餐会のさなかに服毒死。関係者のアリバイは複数の時計で確認され、不幸な事故かと思われたが榎本は異議を唱え…ミステリークロック
船上で刺されサメに食い殺された男。現場は最新鋭のソナーで監視され、意外な犯人が指摘されるが…コロッサスの鉤爪

2017年このミス4位、文春10位、本ミス4位、本格ミステリ大賞候補

~感想~
防犯ショップ店長兼泥棒?の榎本径と、残念美人弁護士の青砥純子が様々な密室に挑むシリーズの短編集。
3大ランキングでベストテン入りと高評価されたが、ほぼ全編に「シラネーヨ」といにしえのAAを貼りたくなる特殊知識が駆使され、脳内イメージでは到底描けないような重箱の隅をつつい…超絶技巧を尽くした密室ばかりなので、非常に好みの分かれる内容である。

順に感想を書くと、冒頭の「ゆるやかな自殺」は倒叙形式で青砥弁護士も登場せずと、一編だけ毛色が違い、そこまでの特殊知識も求められない。ひらめき勝負なので簡単に真相にたどり着いた読者も多いようだ。

「鏡の国の殺人」はもう柄刀一の短編でも読んでいるように、文字だけでは全然理解できない、それこそ「ドラマでやれ」と言いたくなる複雑怪奇な仕掛けと特殊知識のオンパレードである。個人的には途中で理解を放棄した。

表題作「ミステリークロック」は長編ばりの文量で、作中でも言及される鮎川哲也の大傑作「五つの時計」に挑戦した現代版の風格で、モロバレの犯人がわざわざ太文字で強調する現在時刻をいかに欺きアリバイを作ったかという内容。精緻な構成で読めばちゃんと理解はできるが、やはり特殊知識とイメージで理解できない細かすぎるトリックの山で、それが面白いかと聞かれれば「時刻表をどうこうしたらなんかアリバイができました」系2時間ドラマと大差ない印象。頼むからドラマでやって欲しい。

「コロッサスの鉤爪」も特殊知識が飛び出すが、これはその用途が単純で、異世界ミステリのような特殊設定としての使用法なので、非常にわかりやすく絵も浮かびやすかった。個人的には最も好み。

トリック以外に言及すると、こんなにコメディタッチの作風だったかと戸惑うほど筆が軽快で、ギャグマンガの住人のような奇抜なキャラが何人も登場し、榎本はもう泥棒の本性をほとんど隠さず、青砥純子の残念さはさらに磨きがかかり、残念過ぎる推理を次から次へと放っては榎本にばっさり切り捨てられと、ユーモアミステリとして一流の風格すら漂う。
なにがなんだかわからないような複雑な知識とトリックばかり使っておきながら、大いに支持を受けたのはこの読み物としての面白さにも理由があるのかもと思ったり。
いっそ今度はトリックもギャグに振り切って、バカミスでも書いてくれないだろうか。


20.10.3
評価:★★☆ 5
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