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ミステリ感想-『網内人』陳浩基

2020年10月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
痴漢冤罪の濡れ衣を着せたとして網内人(ネット民)に炎上させられた妹が自殺した。
姉のアイは炎上のきっかけを作った犯人を探すため、探偵に依頼するが行き詰まり、ある男を紹介される。
その男、アニエはサイバー犯罪のエキスパートで、ありとあらゆる手管で犯人を追い詰める。


~感想~
歴史的傑作「13・67」の作者の(日本語訳された)長編第三作。
「13・67」では過去~現在の香港の歴史を背景に、本格ミステリと社会派ミステリの完璧な融合を見せたが、本作では現代の香港を舞台に、またしても本格と社会派を融合させてくれた。
現代の香港といってもその実情や、描かれる社会的問題は驚くほどそのまま日本にも当てはまり、特にネットの功罪相半ばする面はネット社会の繁栄する日本と丸っきり同じで終始、その意義が問われ続ける。

本格ミステリとしてはサイバー犯罪を知り尽くしたアニエが、ハッキングからドローンまで駆使して犯人を突き止め、追い詰めていく手練手管は、現代技術の粋を尽くした論理・推理方法と言え、それを知識ゼロのアイの基礎的な質問により、読者にもわかりやすく噛み砕いて説明してくれるのはお見事。

犯人は意外に早く特定されそこからは、ここでもやはり最新技術を駆使した復讐譚が描かれる。
ところがそれだけに留まらず、復讐の決着後、これまで見えていた景色を一変させるある仕掛けが明かされる。おおよそ見当は付いていたとしても、その周到な計画と、全てが収まるべきところに収まっていく伏線回収の巧みさは驚異的。

また作者があとがきで触れた通り、アイとアニエの人物像はミステリとして最低限の描写に留まらず深く掘り下げられていき、同時に現代香港で生きる人々の様子を活写する。シリーズ化の構想があるそうで、本作の舞台は2015年、出版は2017年だが翻訳は今夏で、現在の香港はあんなことになっており、今の香港でのアイとアニエの活躍が描かれると思うと楽しみで仕方ない。

本作は本格ミステリと社会派ミステリを融合させ、現代香港の日常と問題を切り取り、魅力的な登場人物達たちが描かれた、のみならず、島田荘司が提唱しておきながらついぞ日本では誰も到達し得なかった「21世紀本格」のこれ以上ない正解が、香港在住の陳浩基により示された傑作である。


20.10.25
評価:★★★★☆ 9
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