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ミステリ感想-『失はれる物語』乙一

2023年03月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
交通事故により五感を失った私に残ったのは右腕の皮膚感覚のみ。ピアニストの妻は腕を鍵盤に見立てて演奏し、日々の想いを伝えてくれる…失はれる物語
他5編に文庫オリジナルの書き下ろし「ウソカノ」と掌編を収録。


~感想~
Twitterの企画で傑作短編集ランキング上位に入り、他にもおすすめしていた方もおり、乙一の短編は「GOTH」も大好きなのでなにげなく読んでみたら、あまりの超傑作揃いで度肝を抜かれた。
世間的には「ZOO」の方が評価を集めているが、(自分にとっては)玉石混交でそれこそ0~90点まで当たり外れが大きかったものの、本作はほぼ全てが余裕で90点台を叩き出してきた。厳密にはボーナストラックの掌編だけ問題外で、他は軒並み90点オーバー。
「ZOO」では(自分にとっては)オチがどこにも見当たらない、ゆえに無価値に等しい話がまま見られたものの、本作はどれもこれもオチが完璧でこれ以上無いところに綺麗に着地してみせる。
作品紹介でネタを割られている表題作だけはあらすじを書いたものの、どの短編もものすごい魅力的かつ突飛な発想ばかりで、まずそれだけで心をつかまれてしまう。そのうえ物語の展開も抜群で、数十ページしかないのが信じられないほど豊かな作品世界を広げてくれるのだ。あらすじでネタを割ってしまうのももったいないので、ぜひ予備知識無しで読んで欲しい。
その上、その上にだ。我が愛するミステリとしても読める作品まで用意されているのだからたまらない。しかも素晴らしい伏線と意表を突く推理を兼ね備えた傑作が2つもだ。
「極上の」「珠玉の」と冠して全く問題ない、本好きならとっくに読んでいると思うが、でも本好きなら絶対読んで欲しい一冊である。


23.3.11
評価:★★★★★ 10
コメント (4)