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ミステリ感想-『赤い糸の呻き』西澤保彦

2023年12月23日 | ミステリ感想
~あらすじ~
白昼に現れ蔵を空にしていった姿なき強盗団。毎晩現れる幽霊?の正体。憧れの先輩に待ちぼうけにされた少年の悲運。数年を隔てていくつもの共通点を持つ殺人事件。エレベーター内で起こった刺殺事件。
それらは全て、論理的だが普通の発想で起こった事件ではなかった。

2011年本ミス10位

~感想~
近年は色々とどうかしてしまいすっかり人を選ぶ作家となってしまった西澤保彦だが、全盛期の切れ味が久々に味わえた。
ノンシリーズの短編集で、まず作者の代名詞にして賛否両論のジェンダー要素はほとんど無いので安心して欲しい。
どうかしてるのは論理と発想の飛躍だけで、デビュー作を「こんな理由でバラバラ殺人する奴がいるか」と非難されたあの頃の西澤保彦がその路線を突き詰めたような豪快さで、ぶっ飛んだ真相を読者に無理やり呑み込ませてしまう。
おそらく作者も考え抜いて1~3編目まで並べており、シンプルイズベストな1編目から徐々にエンジンを掛けていき、やや捻った3編目までで読者を慣らせておいて、4編目から一気にぶっちぎる。
ラストの表題作「赤い糸の呻き」もすさまじいが、その前の4編目「対の住処」が強烈で、そんなわけない真相が淡々と積み重ねられる論理と事実で着々と補強され、納得せざるを得ない所まで追い込むのがすごい。
12年も前の作品を今さら読んでおいてなんだが、西澤保彦やっぱり腕は良いんだよなと改めて見直した。

また文庫版解説の戸松淳矩の「初期のSFミステリからの延長線上、あるいは背中合わせの裏返し」という指摘も素晴らしかったことも付記しておきたい。


23.12.23
評価:★★★★ 8
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