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ミステリ感想-『ぼくは化け物きみは怪物』白井智之

2024年09月05日 | ミステリ感想
~あらすじと感想~
「最初の事件」
小学校のあるクラスを狙った連続殺人事件と、独裁者の秘密兵器と、動物の脱走。そのクラスには名探偵がいて…

全く繋がりが無さそうに見える逸話から、三題噺のように組み立てられた異形のミステリ。
これで長編を書く作家もいるだろうが惜しげもなく短編で、荒削りに素材のまま出されてしまうのだからすごい。
しかしその贅沢さにケチを付けてしまうが、短すぎて物足りなく感じてしまったのも事実である。


「大きな手の悪魔」
高次元人は地球を16のエリアに分割し、そこから無作為に選んだ人物の知能を測定し、基準以下ならぱ皆殺しにすると宣告。人類を救うために送り込まれた人物とは?

本書で最もイカれた一編。エリア内の人間を皆殺しにする銃の悪魔のようなオーバーテクノロジーを持つ高次元人にぶつけるのがよりによって角田美代子ってどういうことだよww
銃の悪魔 VS 角田美代子というこの世で白井智之しかしない発想を前にさりげない伏線が相変わらず上手いなんて感想なぞもはや無意味である。


「奈々子の中で死んだ男」
罠に陥れられたヤクザは最後の思い出に遊郭へ行くが、銭が足りず死んだ女をあてがわれ…。

発想のイカれ具合こそ過去最高レベルだが(あくまで白井智之にしては)ミステリとしてやや物足りない2編の後にお出しされるのがこの年間ベスト級の短編だからすごい。
遊郭を舞台にいつにも増してイカれたキャラを配しながら、この舞台でしか成し得ないトリック・伏線・推理・動機その他諸々が敷き詰められ、しかも最後には…と文句の付けようがない大傑作。


「モーティリアンの手首」
一攫千金のため異星生物モーティリアンの化石を掘り起こした3人組。死体の左腕は切断されしかも不自然に離れた場所に埋まっていた

アレを題材にして何をどうしたらこういう物語を思いつけるのか。SF界隈でも話題を呼んでいるという作者のSF的手腕が存分に発揮され、しかもガチの推理が繰り広げられるミステリでもある。この結末は一読忘れようがない。本書のベストに挙げる向きもあるだろう。


「天使と怪物」
世界の真実を謳う見世物小屋で起きた殺人事件とその犯人は、天使の子が残した手紙によって予言されていた。

そして掉尾を飾るのは作者お得意の待ってましたのアレである。アレをこんな手法でやってのけるの!?
白井長編のあれやこれやを思い出さずにはいられない技巧のミックスで、予言の謎をこんなふうに解いて見せるのだから恐ろしい。

2編目で数十億人のスコアを叩き出す銃の悪魔がいなくても死者数こそ過去最多クラスだが、グロは作者にしては控えめで、逆にSF要素は多め。
白井智之の短編に期待する我々を今年も裏切らない、イカれた発想揃いの素晴らしい短編集だった。


24.9.5
評価:★★★★ 8
コメント (2)