小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『禁忌の子』山口未桜

2025年02月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
救急医の武田航が当直の夜、救急搬送された遺体は自分に生き写しだった。
しかし武田に兄弟はなく、他人の空似にしては余りにも似すぎている。
旧友で同僚の感情の起伏に乏しい城崎響介に意見を求め、両親の遺品を探ると些細な点に気づき…。

2024年鮎川哲也賞、文春4位

~感想~
著者は現役医師で、作中で武田も死体を発見するや「全く、探偵は諦めが早すぎるのだ」と現場保存もそこそこにガチの救急救命処置を4ページにわたって施す。
自分そっくりの謎の死体という100点のつかみから現実離れした奇想には飛ばず、あくまで現実的にありえるラインで、何をどうすればこの謎が存在し得るのかを突き詰めていき、探偵役は感情の起伏が極めて少なく、他者の感情を模倣しているキャラで、展開や推理・捜査ともども丁寧ながら至って地味。
密室トリックも同様に意外ではあるが地味で、このまま終わってしまうのではないかと危ぶまれたところで、盲点から犯人が浮かび上がり、ある一点に収斂して行くのが実にお見事。
達者ではないが丁寧な文章と、医師らしいガチの検討からきちんと予想外の真相を導き出し、収めるべきところへ収めた良く出来た佳作である。


25.2.8
評価:★★★★ 8
コメント