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ミステリ感想-『法月綸太郎の消息』法月綸太郎

2019年10月20日 | ミステリ感想
~あらすじ~
シャーロック・ホームズの一人称で書かれた2つの作品と、G・K・チェスタトンのある作品との符号に綸太郎は気づく…白面のたてがみ
墜落した男と毒を飲んだ男。反目し合っていた二人は、互いの部屋で、互いの遺書を持っていた…あべこべの遺書
男は殺人を自供したが、被害者のはずの女は生きていた。しかしその後、男の供述に近い状況で女は殺され…殺さぬ先の自首
アガサ・クリスティーの作品を舞台化するに当たり監修を頼まれた綸太郎。原作を読み返した彼はポアロに双子の兄弟がいるのではという疑惑を抱く…カーテンコール


~感想~
法月綸太郎シリーズの短編2つと、古典作品の意外な真実を探る中・短編2つ。
よほど熱心な法月ファンか、クリスティーファンでなければ到底楽しめるような内容ではなかった。

まず法月シリーズ2編は単純に出来が悪い。「あべこべの遺書」はアンソロジー「七人の名探偵」での初読時にも酷い出来だと思い、だいぶ改稿したそうでマシにはなっているが、やはり物足りないし、書き直したら(ネタバレにつき反転→)潔癖症の人間が他人の飲みさしのお茶を飲むわけがない。なぜ水道水を飲まなかったのか? という余計な疑問点まで追加されてしまったのはいただけない。
「殺さぬ先の自首」も設定が最高潮で、真相はそれに及ぶべくもない。ちょっと被害者が無防備すぎはしまいか。ただこれまで完全に停止していた法月シリーズに進展が見られそうで、そこだけは良かった。

残る2編は作家法月ではなく評論家法月の作品で、まず正直これを法月シリーズでやって欲しくはなかった。
「白面のたてがみ」はホームズとチェスタトンの符号が見られるはずの作品が、素人目にはまるで似ていないと思えてしまうのがネックだし、最後の最後に明かされる裏事情が伏線ゼロなのもいただけない。
中編の分量の「カーテンコール」は、ただでさえ作中で言及されるクリスティー作品をいくつか読んでいないと全く話についていけないのに、そこにギリシャ神話まで絡めてしまい、固有名詞のオンパレードでうんざりし読むのを完全に放棄してしまった。ちょっとした仕掛けもあるが仕掛けられた瞬間に丸わかりの蛇足で、北村薫「ニッポン硬貨の謎」と全く同じ、知らない作品の知らない真相をネタバレ三昧しながら解き明かし作者がべた褒めされる、という地獄のような光景を再び味わわされた。

どうせ「ノックス・マシン」や「涙香迷宮」のように、このミスその他で高評価されるんだろうが、またミステリ初心者がランキング上位だからと手に取って、ドン引きしてミステリ自体への興味を失うきっかけになるのではなかろうか。


19.10.18
評価:☆ 1

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