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ミステリ感想-『時の誘拐』芦辺拓

2021年04月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
大阪府知事に立候補した根塚成一郎の娘が誘拐された。
犯人から身代金の護送を命じられた阿月慎司は不吉な予感を覚え、森江春策に万一の時の弁護を依頼。
事件は意外な展開を見せ、調査を始めた森江は、戦後間もない頃に起こった連続絞殺事件や、大阪の歴史そのものが誘拐と密接に関わっている事実に気づく。

1996年このミス17位、本ミス7位

~感想~
作者自ら出世作の一つどころか、これを書かなければ筆を折る事態になっていたやもとすら振り返る渾身の一作。
ありがちな誘拐事件から、戦後の混乱や、わずかな期間だけ実在した大阪市警視庁、昭和初期ならではのアリバイトリックと密室トリック、太平洋戦争に隠された闇にまで大風呂敷を広げていき、そりら全てを短い解決パートで破綻なくまとめて見せる豪腕ぶりはすさまじい。
一方で一つ一つのトリックを取り出してみればどれも非常に小粒で、推理のきっかけとなる手掛かりもほとんどが読者には気づきようもない代物ばかりのため、ミステリ的には辛めの評価になってしまうのだが、壮大なスケール感と全てが一本の線に繋がっていくストーリーテリングは素晴らしい。
本ミスで7位に入った本格ミステリと思って読むより、浪漫あふれる歴史ミステリとして読んだ方が吉かもしれない。


21.4.12
評価:★★★ 6

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