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ミステリ感想-『ワトソン力』大山誠一郎

2020年11月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
警視庁捜査一課の和戸宋志は、周囲の人々の推理力を底上げする特殊能力を持ち、彼はそれを「ワトソン力」と名付けていた。
和戸が公私に渡り巻き込まれる数々の事件を、「ワトソン力」で周囲の人々が解決していく。


~感想~
大山誠一郎といえばもともと小説として成立する最低限の描写に留め、余分な情報が出てきたら100%伏線という、いわゆるパズラーに特化した作風だが、そこにもう一捻り加えて、必要最低限の描写で多重解決や推理合戦を書けるようにしたのが、本作である。
ワトスン力は球状の半径20メートルと効果範囲まで定められた、まさに特殊能力というかSCPのような設定ながら、過去作の「密室蒐集家」では時代を超えて探偵役が空中から湧き出るように登場したり、ドラマ化もされた「アリバイ崩し承ります」は5千円ぽっきりで推理を請け負う謎の美女が存在したりと、よくよく考えたら無茶さでは大差ない。
むしろワトスン力は密室やアリバイ崩しに限らずあらゆる事件への適応力があるため、フーダニットやホワイダニット、作中作すらも本作では扱われ、しかも今回の探偵役は誰か?という仕掛けまで凝らされと、幅広い謎を描けるため汎用性が高い。

探偵役がなぜ推理力に優れているのかという背景を描く必要すら無いため、現場に容疑者が揃い、簡単な外見とプロフィールが記されたらさっさと事件が起こり、間髪入れず推理が始まるという無駄を完全に省いた構成で、わずか264ページで7+1話もの多彩な事件が描かれるのも良いところ。作者はまるで水を得た魚のようにいきいきと切れの良いパズラーを繰り出し続ける。

連作短編集としてのトリックもいちおうあるが、おまけ程度のもので、ページもさして割かれないが、こちらは本編とは毛色が違いこれはこれで面白い。
総じて作者が自身の長所を存分に発揮できる素晴らしい仕組みを思いついた良作である。


20.10.28
評価:★★★☆ 7

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