小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『ユリゴコロ』沼田まほかる

2019年09月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
亮は恋人の失踪をきっかけにしたように、父の死病、母の事故死と相次いで不幸に見舞われた。
父の部屋で見つけた、母の名が記されたまるで遺髪のような髪と、殺人を告白するノート。
ノートを記したのは、幼い頃に入れ替わった本当の母なのか?

2011年このミス5位、文春6位、大藪春彦賞、日本推理作家協会賞候補、本屋大賞候補


~感想~
なかなかのサイコパスであるノートの記述者の生々しい告白と、ユリゴコロという奇妙な造語の醸し出す、据わりの悪い独特の雰囲気がまず良い。
調査により次第に判明していく事実と、ドッグラン付き喫茶店の日常風景(そういえば似鳥鶏の動物園シリーズの変人飼育員がゲスト参戦しているような…)が合間に挟まれ、さらに恋人失踪の謎も語られる。
だが失踪の方はガッカリというか安易というか、てっきりサイコパス日記とも関わってくるかと思いきや全然そんなことはなく、失踪の理由もまるで捻りがなくて、物語の味付け程度の意味しか持たず、正直こんなことなら失踪エピソード自体が必要なかったとすら思えるのは、なんでも真相に絡んでこなければ文句を付けずにいられないミステリ脳が過ぎるだろうか。

終わってみれば伏線も乏しく、あらかじめ張っておけばいいのにと思う点も多々あるものの、一方で話の流れからして当然の帰結というか、真相はこうなのだろうと思う通りに話が運ぶため、伏線の有無に関係なく、展開に納得は行ってしまう。
これだけ伏線が無く、意外性も無い作品に、このミス5位といったミステリ的な高評価を与えるのはどうかという意見もあるだろうが、先に言ったように展開に納得が行ってしまうのだから、文句を言うのは筋違いだろう。

長々と書いてしまったが、ミステリ的には残念ながら落第点だが、物語としては大変面白く最後まで読めた。陰鬱にも感動にもホラー気味にも、なんにでも転ばせられたラストシーンが、ああいう形になったのも良かったと思う。
話題になっただけはある、広く勧められる佳作である。


19.9.22
評価:★★★ 6

コメント    この記事についてブログを書く
« SCP-1931~1940 | トップ | 12/19のNXT #483  #DIY復活? »

コメントを投稿