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ミステリ(?)感想―『熊の場所』舞城王太郎

2005年11月06日 | ミステリ感想
~感想~
「熊の場所」
三島由紀夫賞候補作。
すげー面白かった。表題「熊の場所」という言葉は、読者の心に長く残ることだろう。
ただひとつ残念なのは「白い玉」。なんだあれ。なんであんなものを物語に入れてしまったのか、作者の胸中が全く理解できない。
すべてを論理の中に取り込もうとするミステリへの反逆? 幻想への迎合? 単なる思いつき?
舞城ならば、あれ以外の現実的な方法で、物語を無理なく進められる。
あえてあんなものを出し、わざわざ現実性を薄くしたのは不可解。
まあそれはともかく面白かった。

「バット男」
筋だけ見ればどうということのない、ありきたりの話だがこれまた面白かった。
しかし神の話はいただけない。舞城ならではの匂いが感じられず、ちょいと宗教をかじった人間には当たり前の論理に終わってしまっている。
そもそもあの話自体、物語に唐突に組み込まれ、必然性が感じられないままオチにつながってしまい、しぜんオチまでもがそれまでの流れと切り離され、整合性を失ってしまった感が強い。
終盤のミステリ味も必要だったのだろうか。
疑問は多いが、とりあえず面白かった。
「バットおとこ」と読むべきか「バット●ン」と読むべきか、それだけが問題だ。

「ピコーン!」
日本推理作家協会賞候補作。
駄作。終わってますな日本推理作家協会賞。
3編の中で明らかに最も格下、最も考えなしに描かれたこれを、よりによって候補に選ぶとは……。
浮きに浮きまくったミステリ細工。その工夫のカケラもない「見立て」なんて言葉をやすやすと使われたくない酷いトリック。
村上春樹や松本人志の引用でまるまる2ページを埋められては、手すさびで描いたんじゃない? と思わざるをえない。


~総括~
いちいち文句はつけてみたが、終わってみれば「ひさびさに舞城を読んだなあ」と思える、いかにも氏らしい短編3つ。
これまでの講談社出版の、とっつきにくい奈津川サーガ・九十九十九・世界は密室よりもはるかに薄く読みやすく、舞城ビギナーに薦めやすい一作。
舞城王太郎はこんな作家です。


評価:★★★ 6
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