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ミステリ感想-『ぼくのメジャースプーン』辻村深月

2006年04月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
小学四年生のぼくは不思議な力を持っている。忌まわしいあの事件が起きたのは、いまから三ヵ月前。小学校で飼っていたうさぎが惨殺されたのだ。ぼくの幼なじみ・ふみちゃんはそれ以来、ショックのあまりに全ての感情を封じ込めたまま、登校拒否を続けている。ぼくは、自分と同じ力を持つ先生のもとへ通い、うさぎ殺しの犯人に与える罰の重さを計りだす。


~感想~
ほぼ純文学。ミステリらしい大仕掛けや逆転のトリックはない。しかしそれでも若手随一の筆力を誇る氏のこと、最後まで一息に読ませてくれる。
物語の筋はいたって平易。ぼくが犯人に与える罰は、はたしてどうなるのか。それだけに焦点が絞られ、丹念にゆっくりと日常を描きつつ、対決の刻へと進んでいく。
かつての西澤保彦を思わせるSF的な力は、それ自体が物語の根幹をなすのではなく、主役と主眼はあくまでも、“ぼく”の成長と“ぼく”の選択である。その選択は読者にとって必ずしも納得のいくものではないだろうが、物語としては(そこしかない! と唸る完璧な着地ではなかったが)堅実な選択だったと思える。
ただ、最後のオチとでも言うべきトリック(というほどご大層なものではないが)は、すれっからしのミステリマニアには一目瞭然で、「仕掛けは見破った!」と息巻くよりも「気づかなきゃよかった…」と落胆してしまう。
傑作ではないが、長く心に残るだろう佳作であった。中高生が読むには特にいいのでは。

まったくの蛇足だが、作者は僕より若いのに、ネット掲示板の描写が一昔前のイメージなのはどうしたことかと、ネット中毒者としては遺憾に思う。


06.4.15
評価:★★★ 6
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