声の大きい人の使い道はかぎられている。戦時なら最前線の歩兵の小隊長に向いている。弾丸がうなりをあげて飛び交う中、砲弾の炸裂する煙霧のなかで部下に「突撃」の号令をかけて真っ先に飛び出すのが適役である。よく通る声が必要となる。そうして、大抵は開戦一日目に戦死して二階級特進するのである。
平時なら運動部の応援団が適役だろう。これがスーパーの店員とか飲食店従業員となると、宝の持ち腐れであるだけでなくて、客に不快な気持ちを与える。声の大きさがTPOでコントロールできればいいが、出来ないと客を怒鳴りつけているような印象を与える。甲子園で応援しているつもりで大声を張り上げれば客は怒り出す。
今日もレジの女の子が一言聞くたびに大音響を出す。非常に不愉快だった。レジ袋はいりますか、と聞いたので要ると答えたら、いきなり胸の前に腕を交差して要らない?と聞く。何を言っているんだ、要るっていったじゃないか、と怒鳴り返したが、後で考えると彼女は聴覚障碍者だったのかもしれない。聴覚障碍者は自分がよく聞こえないから声が大きくなる。耳の遠くなった老人が大声を出すように。
こちらはマスクをしていたから聴覚障碍者には聞こえなかったのだろう。あるいはこちらも障碍者と思ったのかもしれない。いわゆるオシと思われた可能性もある。それで手話のつもりで気を利かしたつもりで腕を胸の前で交差したのかな。
聴覚障碍者ならしょうがないが、それなら胸に赤十字のマークをぶら下げてほしいな。