そもそもTPPなる言葉がなぜ突如日本中を駆け巡ったのだろうか。ほんの少し前までは、多くの国民が全く知らなかった言葉である。農業専門誌でさえ、せいぜいFTA問題についての論調であった。元になるのは、もう四半世紀も前に論議されたウルグアイラウンドである。その後のWTOは、極力少なく関税を設定して貿易をするべきで、各国の実情に配慮するものであった。
その根底には、貿易商品を価格だけで評価するのではないとの考えがあったはずである。しかし、この間にソビエトなどの社会主義国が崩壊し、環境問題が様々な形で浮上してきた。一方では、国家間の貧富の格差などから、富める者の肥満問題と貧国の飢餓問題が大きくなってきた。人口はこの間に10億人以上増えたのである。
それなのに、ウルグアイラウンドの原則を経済発展を望む国々が、あるいはその為政者たちが関税を撤廃して自由に貿易をするべきとより一層強い声を上げてきたのである。
先頃の通常国会の所信表明演説で、菅首相はいきなりTPP参加を打ち出した。それには背景がある。ご多分にもれず、アメリカの動きである。国内外に動きが取れなくなって、一向にチェンジできないオバマが突如TPP参加協議を打ち出したのである。
そもそも、TPPはニュージーランドとシンガポールのFTAに過ぎなかったのである。それにブルネイとチリの2カ国が加わったものでしかなかった。たまたま、太平洋を囲む関係であったから、環太平洋のパートナーとしての集まりと名前を付けたに過ぎない。これに今年になってオーストラリアが加わったので、話が大きくなったのである。
それでは地球温暖化や各国の食糧問題は何処に行ったのだろう。地球の裏側から、安いという理由だけで重い穀物を運んでくることに対する評価は、フードマイレージという考え方がある。牛肉1キロ生産するのに2トンの水が必要とされる、疑似水(バーチャルウォーター)輸入の評価は何処にもない。国家の基本となる食糧自給の問題は、何処かにすっ飛んでしまった。
40年前に自由化された木材は、日本の山村を衰退させ山を荒廃させた。そればかりではなく、熱帯雨林やシベリアのツンドラ地帯の荒廃とCO2排泄を促進させ、吸収を減少させる結果になっている。更に金融の自由化や看護師などの資格の自由化などもこの中に含まれるが、法整備など全く見当もされていない。こうした現実をどうして見ないで、コメが安くなるばかりを繰り返し、経済評価ばかりを報道は繰り返すのだろうか。