9月にさいたま病院で、渡航歴のない老人からNDM-1(New Delhi metallo-β-lactamase-1の略)産生菌が見つかった。究極の多剤耐性菌であるが、名前通りインドが発生源といわれ、国内初発例はインド帰りの人物であった。インドはかなり自由に抗生物質が購入できる。処方箋などなくても自由に購入できる。NDM-1産生菌はこうしたことが背景にあると言われている。インド政府は否定している。
かつての耐性菌は、抗生物質を投与されてこれに耐えて生き残った少数の菌が、子孫を増やして耐性菌となると言われていた。結核菌などのごく少数の例を除いて、耐性の情報は細胞内の情報物質のプラスミドが、あちこちの菌に教え込むことが分かってきた。耐性菌は投与され たことがなくても、細菌同士の情報交換で増殖することになるのである。
特に我々畜産関係では、家畜に投与した抗生物質情報が人へと伝わることを最も警戒しなければならない。日本の畜産製品への抗生物質規制は残留ゼロでなければならないとされている。最低限量を多くの国が決めている中で、日本の基準は極めて厳しいと言える。
抗生物質は人類に最も貢献した医薬品といわれている。このことに異論をはさむ学者はいない。ところがこの抗生物質の開発がほとんだなされていないのである。一つは開発費が膨大にかかり、採算が合わないのである。抗生物質を開発しても残るのは数千に一つといわれる。開発後もゾロゾロ薬品がすぐに開発される。
近年になってMRSAや多剤耐性の緑膿菌やアシネドバクターなどが次々と現れてきている。抗生物質と細菌の競争といわれるように、どの道いたちごっこなのである。更に最近になって耐性菌は抗生物質によってだけ生産されるのではないことも、解ってきた。海洋などの自然界に既に存在していて、機会を見つけて伝搬される例もあるようなのである。すでに日本国内の6割の製薬会社が開発を止めた。
現在先進的な総合病院などでは、何でも効く広域抗生物質を最初に選ぶのではなく、古い抗生物質を使える可能性を探ってから投与するようにしている。目前の患者を救うことばかりにとらわれることがないようにしているのである。患者にとっては、何でも良いから効いてくれる薬を望むのであろうが、臨床に現場では厳しい選択になる。
こうした抗生物質などの医薬品開発は、経済的リスクを背負いながら企業が手掛けてきたのであるが、国などの公共機関や研究所がこれを引き継ぐ必要があると思われる。