平坦な根室台地は、市街地が12キロごとに散在し、農家は今では隣まで平均2キロ間隔である。道路の整備は大変な作業であり、、欠かせないものでもある。
ある時、自民党の代議士さんが、2キロほどの道路改修を提案してきた。20年ほど前のことである。そこには、まだまだ使える橋もあった。地域住民の署名が集められて、数年後に道路は完成した。
小さな橋を見下ろすようにできた道路は、農道であり農業予算によって改修されたことになる。
この2キロほどの間には、その時50代の伝(でん)さん夫婦の酪農家が牛を飼っているだけだった。後継者はいなかった。
牛の診療に行って、道路の話をすると伝さんは「もう、とてもありがたいことです」と、感激のあまり涙をこぼさんばかりである。伝さんが自民党に投票するのは、当然のことである。
農業予算の半額は、こうした「基盤整備」と呼ばれる、土木事業に充てられている。道路が良くなって、伝さんの農業生産効率は上がったのであろうか? 極めて疑問である。
この道路は、多分数億円かかっている。伝さんだけが恩恵を被る農業支援事業としては、極めて不合理である。
同じ地区で、農家にフィリッピンからお嫁さんが来ることになっていた。ところが、彼女は不法就労をやっていたとかで入国できなかった。結婚の日取りまで決まっていたのに、お役所は頑として動かず、4年間は日本に入国できないとのことであった。その時、件の代議士が外務省かどこかに掛け合って、彼女は結婚式に間にあった。
地域の人たちはもれなく、自民党を支持する。地域の農業協同組合も、土建業者もこぞって、自民党を支持することになる。
今では牛もいなくなって、伝さんは奥さんと老後を、牛のいなくなった牛舎の横の住宅で過ごしている。立派な道路は近隣の農家が通り抜けに使われている。
日本の多くの田舎で使われる農業予算は、こうした土木事業によって支援されている。あるいは支援しているつもりになっている。川が汚れる環境問題が発生すると、農業を見直すことはなく、新たな糞尿土木工事が導入される。
農業の本来の形とは、ほど遠い地域振興と呼ばれる土木事業が、自民党の公共事業の大盤振る舞いでまた帰ってくる。
そりゃおかしいゼ。