詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

読売新聞のウソのつき方

2022-08-04 17:11:16 | 考える日記

 2022年08月04日の読売新聞(西部版・14版)の一面。「米台の団結を強調/下院議長、蔡総統と会談」という見出しで、こう書いている。(番号は私がつけた。)
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①【台北=鈴木隆弘、北京=大木聖馬】ナンシー・ペロシ米下院議長は3日、訪問先の台北で蔡英文総統と会談した。米国の台湾に対する揺るぎない支持を表明し、中国の脅威に直面する台湾との連携を強化する意向を示した。中国はペロシ氏の訪台に反発し、射撃訓練や軍事演習で圧力を強める構えで、緊張が高まっている。
②蔡氏は会談で「台湾海峡の安全は世界の焦点だ。台湾が侵略を受ければ、インド太平洋地域の衝撃となる。台湾は軍事的脅威に屈しない。台湾は民主主義を守り、世界の民主主義国家と協力する」と訴えた。
③ペロシ氏は「台湾が多くの挑戦を受けている中で、米台が団結することが非常に重要だ。それを外部に示すため、訪台した」と台湾重視を強調した。
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 ①は「前文」。記事全体のことを「要約」している。
 問題は②③の順序。これを読む限り、蔡が台湾の危機を訴え、ペロシが、台湾を守るということを中国に示すために台湾を訪問し、蔡との会談で、それを表明したと読める。どうしても、そういう時系列を想定してしまう。
 ところが、実際の「時系列」は違う。
 読売新聞は、「時系列」を「ペロシ下院議長の台湾での動静」という表にしている。
 (https://www.yomiuri.co.jp/pluralphoto/20220804-OYT1I50016/)
 それによると、2日深夜にペロシは台湾に到着し、そこで声明を発表している。「台湾の民主主義を支持するという米国の揺るぎない関与に敬意を評するものだ」。
 これは、非常にわかりにくい表現である。ことばを補うと、「台湾の民主主義を支持するという米国『政府』の揺るぎない関与に『下院議長として』敬意を表するものだ」ということである。アメリカの下院議長(立法機関のトップ)が、アメリカ政府(行政機関、バイデン大統領)の姿勢に敬意を表するために、台湾を訪問した」と言っている。台湾の姿勢を支持するために台湾を訪問したのではなく、アメリカ政府の姿勢を支持しているということを表明するために(アメリカでは政府と議会の意見が一致している表明するために)台湾を訪問した、と言っているのだ。つまり、台湾のことなんか、ぜんぜん気にしていないのだ。
 番号をつけるとすれば、これは「0」(出発点)なのである。
 これを受けて、蔡は①のように言っている。だから、ここにもことばを補えば、「『アメリカ政府が言っているように』台湾海峡の安全は世界の焦点だ。台湾が侵略を受ければ、インド太平洋地域の衝撃となる。台湾は軍事的脅威に屈しない。台湾は『アメリカと協力して』民主主義を守り、世界の民主主義国家『のリーダーであるアメリカ』と協力する」と言っているのである。
 つまり、これは、そう言わされているのである。もちろん、蔡は中国の侵攻を望んではいないが、侵攻を防ぐ手だてととしてアメリカとの軍事協力が最適であると考えているかどうかは、この発言からだけでは、わからない。
 蔡にそういわせておいて、ペロシは「アメリカと台湾の団結を示すために、台湾を訪問した」と念を押している。つまり、アメリカと協力しないなら、どうなっても知らないぞ、と脅しているのである。
 だからこそ、会談のあと、ペロシは釈明している。大慌てで、つけくわえている。
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④会談後の記者会見でペロシ氏は、1979年の断交後の米台関係を定めた「台湾関係法」に触れ、「『一つの中国』政策を尊重しながら、米台が共通の利益を進めるため制定された」と述べた。ペロシ氏の訪台に反発を強める中国に対し、配慮する思惑があったとみられている。
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 「『一つの中国』政策」に反対するわけではない、と。
 ばかみたいだねえ。「一つの中国」を認めているなら、中国が台湾を専用機(たぶん米空軍機)で訪問する必要はない。アメリカ(空軍)はいつでも台湾に上陸できる、ということを「見せつける」必要はない。中国の「許可(認可)」を事前にとって、中国本土を訪問し、ついでに台湾を訪問するということもできるはずなのに、そういうことはしていない。どうやって中国空軍の管制領域をくぐり抜けたのか知らないが、あくまでも、中国の「意思」とは無関係に、アメリカは台湾に米軍機を着陸させることができるかということを、「具体的」に「見せつけたの」のである。
 こんなことをされたら(つまり、アメリカ軍はいつでも台湾に、アメリカが望むときに上陸できる、ということを示されたら)、蔡は「アメリカに協力する」としか言いようがない。「アメリカのやり方には反対である」といえるはずがない。(蔡が実際に、どう考えているかはわからないが。)中国だって、こんなことをされたら気分がいいはずがない。「台湾は中国の一部(一つの中国)」なのに、アメリカの軍用機が「領空」を侵犯し、台湾に着陸したのである。アメリカの民間機でもないし、マレーシア(出発地)の民間機でもない。時間も、なんと、深夜である。

 問題は、ここからである。
 「台湾有事」がしきりにいわれているが、それはいったい誰が「望んでいる」ことなのか。台湾は、もちろん、そんなことを望んでいない。台湾が戦場になることを望むはずがない。
 中国はどうか。中国だって、望んではいない。世界から批判されるだろうし、だいたい、台湾に侵攻しなくても、中国の経済発展がつづけば、台湾は中国への「統合」を希望するだろう。そんなことは中国人なら、だれでもわかる。中国本土が「貧乏」だった時代に、金持ち連中が「台湾」へ逃亡したのである。いま台湾の金持ち連中は「中国」にも家を構えている。中国人は非常に明確な思想を持っている。アメリカ人以上に、「金持ちがいちばん幸せ」という考え方である。「中国」で金がかせげるなら、「台湾」を捨てて「中国」へ行く。「民主主義」なんて「金次第」と考えている。(と、書くと、台湾のひとに叱られるかもしれないが。中国人にも叱られるかもしれないが。)これは、金をかせげるなら、なんでも中国でつくり、それを世界に売るという「資本主義」を実践していることからもわかる。アメリカが何を言おうが、世界中が中国製品を買っている。それで中国が儲かっている。何か文句ある?というのが中国の生き方だ。この経済活動を中国人そのものが支えている。世界で中国製品を売って、中国人が金持ちになる、を着々と実践している。台湾に住む人(金持ち)も、その流れに乗りたいと思っているだろう。
 そうなったとき、困るのは、アメリカである。アメリカの製品が売れない。それが、アメリカにとっては困る。では、どうするか。中国の製品が、世界で売れなくなるようにするためにはどうすればいいか。
 ウクライナと同じことをすればいいのである。ウクライナをそそのかして、ロシアにウクライナ侵攻をさせる。ロシアを戦争を引き起こした国として批判すれば、世界の多くはロシアから製品を買わなくなる。経済ボイコットである。これは、成功するのか。ヨーロッパでは、半分成功したが、半分失敗している。ロシアのガスは確かにヨーロッパでは売れなくなった。しかし、その反動で、ヨーロッパはガス不足に陥り、ウクライナの小麦も輸入できなくなり、物価はどんどん上がっている。ヨーロッパの方が、音を上げ始めている。それだけが原因ではないが、イギリスでは首相が辞任した。イタリアでも、同じことが起きた。ヨーロッパ全体が、揺れている。アメリカも、アメリカの石油、武器が売れるのはいいが、物価高に苦しんでいる。
 ヨーロッパだけではうまくいかなかったから、それをアジアで展開することで、中国(経済)を封じ込めたい。それがアメリカの狙いだろう。アメリカの「経済的優位」をどうやって維持するか、を考えたとき、アメリカから遠い場所で戦争を起こし、その地域の「経済」をめちゃくちゃにするというのがいちばん簡単な方法なのだ。

 最初にもどろう。
 台湾が、ペロシに台湾に来て、と言ったわけではない。だいたい、それを訴えるなら、まず蔡がアメリカへ行って、「台湾はいま危機にされられている、助けて」というのがいちばんの方法だろう。ペロシが台湾に押しかけて、彼女の考えを押しつけたのである。ペロシの考えに同調するように、蔡に求めたのである。
 だれが最初に行動を起こしたか、だれが最初に発言したか。そこをごまかして、蔡が協力を求め、ペロシがそれに応じたという形で、ニュースをでっち上げてはいけない。
 ロシアがウクライナを侵攻したのは、確かにロシアが悪い。しかし、その前に何があったか。その隠れている「時系列」から、いま起きていることをみつめないといけない。
 安倍の暗殺もおなじ。安倍を殺したことは悪い。容疑者は悪い。しかし、容疑者が安倍を殺そうと思ったのはなぜなのか。そこから見つめなおさないと、何も解決はしないだろう。
 どんな行動にも「時系列」がある。そして、その「時系列」は、ときどき「操作」されて表現される。過去を隠しただけでは「ウソ」とは言わないかもしれない。しかし、それが知らずにしたことなら「ウソ」ではないだろうが、知っていて「過去」を隠して「時系列」をでっちあげるのは「ウソ」の始まりである。
 とんでもない「大ウソ」がはじまっている。そして、それに日本が巻き込まれる。わかっていて、読売新聞は、それに加担している。「別表」にしたペロシの「声明」を記事本文に書き込むだけで印象がまったく違うのに、あえて「時系列」がわからないように操作している。きっと、私のように、書かれている「素材」を組み立て直し「時系列」を確かめる読者はいないとタカをくくっているのだろう。

 

コメント
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