詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

人権はどこへ行ったか(生産性の問題、2)

2018-09-26 09:35:30 | 自民党憲法改正草案を読む
人権はどこへ行ったか(生産性の問題、2)
             自民党憲法改正草案を読む/番外231(情報の読み方)

 2018年09月25日の毎日新聞夕刊(西部版・4版)の特集ワイド(2面)。びっくり仰天し、またやっぱりそうなのか、と思う記事が載っていた。

日本で生まれ育った少年 ファラハッドさん
強制送還でいいのか
労働者は必要 でも「移民」反対 外国人の人権は?

 という見出しがついている。
 少年は16歳。出稼ぎで来日したイラン人の父と日系ボリビア系の母の長男。神奈川県で生まれ、神奈川県立高校に通っている。家族の会話は日本語で、両親の母語はほとんど話せない。
 父親は短期在留ビザで入国した。期限が切れても滞在していたので逮捕された。そして家族に退去強制令が出た。現在、退去強制令の無効確認を求めて係争中だが、国側は、事実関係に争いがないから「尋問の必要はない」とはねつけている。人権については、何も考えていない。
 この問題は、これからどんどん起きてくる。
 日本は外国人を「労働力」として搾取する方針を取っている。「研修生」などの「名目」で呼び寄せ、働かせ、一定の期間を過ぎると追い返す。長期間働かせると「賃金」をあげないといけない。だから期間を限定し、期間が過ぎた人を追い返し、新しい「労働力」を補給し続ける。賃金面からみた「生産性」を重視している。
 ところが、人間というのは、単に「労働力」ではない。「力」として抽象化できない。生きている存在である。働いて、暮らしていれば、そこに必然的に人との出会いがある。恋愛もすれば、その結果、子どもも産まれる。あるいは「研修生」が「家族(夫婦)」で来日すれば、やはり子どもが生まれることも考えられる。子どもの教育に金がかかる。家族も金を出すが、国(あるいは自治体)も金を出すことになる。せっかく「安い労働力」で「生産性」をあげているのに、他の部分で取り崩してしまう。そうならないようにするために、「労働力」を「単身者」に限定している。外国人を「労働力」としてのみあつかうシステムを日本は作り上げている。
 こういうものは破綻するしかない。その例がこの少年の問題に集約されている。
 繰り返しになるが、人が暮らしていれば、そこには絶対に「恋愛」が入ってくる。「家庭」が生まれ、「家族」が誕生する。杉田は、LGBTのカップルは子供を産まない。だから「生産性」がない。そういう人たちに税金をつかうのは間違っている、と主張した。その一方で、外国人が日本に来て、その結果として子どもが生まれることに対しては「生産性」の問題を逆にとらえている。子供が産まれる。家が必要だ。教育が必要だ。そういうものに金を使うのは「生産性」重視の政策に反する。
 つまり、「生産性」についてダブルスタンダードなのだ。二重の基準で人間の行動を裁いている。そして、そのダブルスタンダードを支えているが「差別意識」である。LGBTのひとは、多数派ではない。だから差別してもいい。外国人は多数派ではない。だから差別してもかまわない。「人権感覚」がまったくないのだ。日本は「生産性(経済効率)」だけを基準にして、人間を峻別している。「生産性が低い」と判断すれば、その人を排除しようとする。
 杉田がつかった「生産性」ということばは、安倍の基本姿勢なのだ。

 もし、この「生産性」を「戦争」にあてはめるとどうなるだろうか。
 子どもは、将来「戦力」になる。(生産性、戦争遂行に貢献しうる。)だから、子どもを殺すということはしないかもしれない。「沖縄スパイ戦史」では少年たちがゲリラ兵として徴用されていた実態を描いていた。しかし、老人はどうか。戦えない人はどうなるか。全員、マラリアの危険がある地帯に追いやられる。生き延びることができた人もいるが、多くの人が、死んだ。これは殺されたのである。一般の市民は、スパイになってしまうかもしれない。情報を敵に渡すことになるかもしれないからである。また、そうやって戦力以外の人間を殺してしまえば、その人たちが生きるために育てていた牛などを奪い、兵士の食糧にもできる。「生産性」に貢献できる、ということである。

 ファラハッドさん問題は、単に、彼の一家だけの問題ではない。そういう問題の奥には、日本の人権を無視したシステムがある。それは「生産性重視」というシステム、「資本主義」の病根である。安倍が独裁者でいるかぎり、「資本家」だけがもうかり、他の国民は搾取されるという社会が増幅する。
 近くのコンビニで買い物をしてみるだけで、現在の暮らしがいかに「外国人」に頼っているかがわかる。外国人が働いてくれない限り、コンビニは次々に潰れるだろう。建設現場、介護の現場も、必死に外国人を雇い入れようとしている。外国人頼みなのに、一方で外国人を排除しようとしている。
 大阪なおみがテニスで優勝すれば「日本人」と呼ぶ。しかし、彼女が四大大会に出ることのできないアマチュアだったら、どうか。ダルビッシュはどうか。ケンブリッジは、どうか。「日本人」として取り上げられるだろうか。個人として尊重されるか。
 スポーツは「国籍」など、だれも気にしない。プレーを見るとき、「どの国の人」かを気にしない。ただ、自分にはできないことをやってのける「肉体」、それを支える「精神」を見ている。「その人」を見ている。ボルトがオリンピックで走るとき、人は、ボルトが何秒で走るか、それだけを見る。連覇するのかどうか、それだけを見ている。
 日本が「労働力」を求めるなら、国籍を無視して「労働力をもった人間」を尊重すべきである。それは、「労働力をもった人間(労働者)」が「労働者」としていちばん活躍するのにふさわしい「環境」を用意しなければならない、ということである。安心して「家庭」がもてる、安心して「子どもの教育」ができる、という環境を整えないといけない。「労働力」を「労働者」として、「労働者」を「人間」として育てていくシステムが必要である。
 「生産力」ではなく「共存力」へ向けてのシステムづくりが必要なのだ。

 ファラハッドさん問題は毎日新聞が取り上げなければ、ほとんどの国民は知ることがなかっただろう。私も知らなかった。そういう知らない問題が、身の回りにたくさん隠されているはずである。













#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 
 


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