熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ブラジルでの事業展開への一考察

2011年05月17日 | 生活随想・趣味
   最近、日本企業のブラジルへの企業進出が多くなってきたのか、時々、日経記事に載っているのだが、初めて進出すると言う会社が多い。
   BRIC’sの一国だが、150万人の日系人が居る国であるにも拘わらず、日本経済にとっては、他のBRIC’sの国と比べて、地理的な意味だけではなく、遠い国である。
   1970年代のブラジル・ブームの時には、日系企業が大挙して進出し、サンパウロの日本人学校などは生徒数が1000人を越す大所帯で、ブラジル日系社会と呼応して、ガルボン・ブエノの日本人街は、大変な賑わいであった。
   ところが、第二次石油危機で、ブラジル経済が傾き始めると、殆どの日本企業は事務所を畳んで退却し、その後、一時は盛り返したようだが、結局、バブル崩壊後、日本経済が長い不況局面に入ってからは、日伯の経済関係は、殆ど萎んでしまった。
   それだけならまだしも、日系ブラジル企業の中核であった南米銀行や、日系移民の象徴でもあったコチア農業協同組合などが消えてしまい、ガルボン・ブエノが、東洋人街に変ってしまったと言うから、日系社会全体が地盤沈下したのであろうか。
   その間に、中国のラテン・アメリカへのアクセスが急で、特に、ブラジルへの経済協力が急速に進み、今日のブラジル経済の台頭と好景気は、貿易を始めとした中国との経済的な結びつきあったればこそだと言われている。

   さて、ブラジルだが、私の記憶では、日本の有名な大企業、特に製造業で、成功している企業は殆どないのではないかと思う。
   私がブラジルにいた頃は、イシブラスや新日鉄のウジミナスや日系の銀行、商社などはそれなりに事業をおこなっていたが、ヤオハンが派手な店舗展開で話題をまいていたがすぐに収束したし、アミーゴ社会に地盤を築いた青木建設がホテルとマンションで羽振りが良かったが、ブラジルの成功がアダとなってホテルに入れ込んで社運を傾けてしまった。
   そして、世界的なブラジル・ブームで、ブラジル経済は活況を呈したが、日系企業のプロジェクトは殆ど実現しなかったし、成功を収めた日本企業は殆どなかったのではないかと思う。
   それに、今現在、日本の進出企業で、長く事業を継続していても、恐らく、トヨタを筆頭に、成長が殆どなくていまだにかなり小規模で成功とは程遠い筈であり、私は、今でも続いている成功企業は、地道に現地化戦略を打ちつづけたヤクルトくらいしか知らない。
   
   財部誠一ブラジル・レポートで、ブラジルでの日本企業の失敗は、他国のグローバル企業と比べて、投下資本など進出規模が小出しで小さ過ぎるからだと報じていたが、これは、何もブラジルに限ったことではない、いわば日本企業の常であり、東南アジアなどほかの国では成功しているので、決定的な理由ではなかろう。
   むしろ、ブラジルとの経済協力の必要性が少なく、経済進出へのプライオリティが低かったのみならず、ブラジル事態が、非常に日本とは違った異質な政治経済社会構造を持っていて、日本人が容易にアクセス出来なかったからではなかったかと思っている。
   特に、ブラジルは、アミーゴ社会で、人的な信頼関係を重視する社会であるから、経済的な利害や論理のみで、事業の進退を簡単に決めるような近視眼的な日本企業には、冷たい筈で、今現在ブラジルで地盤を築いて成功している欧米のグローバル企業は、ブラジルでの長い歴史を誇っている企業が多い。
   歴史が比較的短い韓国企業などは、徹底したローカル化戦略を取って、アミーゴ社会に溶け込もうと努めていると言う。

   ブラジルでの事業を成功に導く秘訣は、ブラジルで、信頼に足る強力なアミーゴ企業なりパートナーを見つけて事業を推進することである。
   ブラジルは、ラテン文化文明の国であり、アメリカのような法律・契約等法制度を根幹とする法化社会ではないから、企業を取り巻く経営環境は、アミーゴ社会特有の価値観なり政治経済社会体制に支配されているので、企業経営なり経営戦略は、グローバルと言うより、よりグローカルを旨としなければならない筈だからである。
   単一民族の単一文化文明国家である日本人が、最もグローバル・ビジネスで注意すべきことは、日本が特殊な特別な国であると言うこともそうだが、それよりも、日本人自身が、その特殊な日本人自身の価値観と目でしか、モノが見えない、その純粋培養とも言うべき日本人の目からしか、モノを見ないと言うことである。
   再説するが、リチャード・S・テドローの説く「眼前の事実・真実を見誤って否認する愚」を犯して、折角のブラジルでのビジネス展開を誤って臍を噛まないことである。

(追記)口絵写真は、イングリッシュ・ローズ:メアリー・ローズ。
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