熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

日経:日米未来・ビジョン・フォーラム~キヤノン御手洗冨士夫会長の提言

2011年05月24日 | 政治・経済・社会
   昨日、六本木ヒルズの会場で、日経電子版創刊1周年記念シンポジウム「創造力で拓く再生への道」が開かれ聴講した。
   マイクロソフトのスティーブ・パルマ―CEOはじめ、日本のトップ経営者(御手洗会長のほか、野村證券古賀信行会長、日本コカ・コーラ魚谷雅彦会長、三菱商事小島順彦会長)やHBSの竹内弘高教授が参加して非常に密度の高い講演が行われて、最初から最後まで満員盛況であった。
   このシンポジウムの概略は、既に、日経や日経電子版の記事やビデオで報じられているので、今回は、キヤノン御手洗会長のスピーチが、恐らく、日本財界産業界の希いだと思うので、感想を記してみたい。    

   御手洗会長は、大震災による復興は当然だとして、それ以前に日本が抱えていた深刻な課題の解決を絶対に忘れてはならないと、日本が最優先して果敢に遂行すべき目標を3点に絞って熱っぽく語った。
   平成の開国、道州制の導入、国家財政の再建、である。
   私が一番印象に残っている論点は、東北・北関東の高速道路沿いに生まれ活況を呈し始めていたハイテク関連の産業集積を死守すべきであり、日本の復興も経済の将来も、これに成功するかその如何に掛かっていると言うことである。
   自動車の心臓部の部品であるマイコン・メーカーを筆頭にした大震災地域の産業が壊滅的な打撃を受けて、日本のみならず世界のサプライチェーンを寸断して混乱に陥れたことによって、産業の西日本シフトなど分散化が騒がれているが、経済合理性から言って税制で有利で労働問題の少ないアジアへのシフトを考えるのは当然であり、これを阻止するためにも、東北・北関東の復興を一刻も早く成し遂げて、これらハイテク産業を復興再生すべきであると言う。
   
   最先端を行くハイテク等戦略的に重要な産業クラスターの開発・育成は、国家の経済産業政策の要諦であり、このサプライチェーンの要を担っている東北・北関東の産業集積の死守あってこその、日本再生だと説く。
   そのためにも、道州制の早急な導入は、喫緊の必須事で、復興特区でも名前は何でも良いから、先行的に東北の現地に、道州制の本部を置いて、中央コントロール支配を一切廃して、大胆な規制改革を実施して、ゼロベースで、すべて現地の判断で、業務を遂行できるようにすべきであると言う。
   また、東日本大震災で被災した企業や被災地に新たに投資する企業に対して、時限的に法人税や固定資産税などの免税を実施するなど優遇策を講じるべきであり、同時に、TPPの早期実施による開国政策とも呼応して外資を呼び込む、これこが日本復興への道標だと言うのである。

   経済合理性の感覚の最も強い産業界からの主張としては当然であり、疑問の余地がないと思うのだが、現状維持派で既得利権に左右される度合いの強い政治と官僚機構の抵抗を突破することが如何に難しいか、煮えガエルに徹し切ってしまった日本の悲劇が、このような国家の危機存亡の時期に至っても、繰り返されないことを祈りたい。
   特に、今の日本は、肝心の政治が迷走している。強い日本を信じて再起を期待している世界中の人々に応えるためにも、鉄は熱い内に鍛えるべきで、寸刻も許されぬ難事であることを肝に銘ずるべきであろう。喉元過ぎれば熱さを忘れる。

   もう一つ、財政再建についてだが、御手洗会長は、政府債務の900兆円(GDPの180%)に言及して、これ程巨額になると、虚心坦懐に考えても、経済合理性の判断に従って人々が行動するのは当然であり、一たび有事が発生すると、何が起っても不思議ではないので、想定外と言う考え方は、一切捨てよと警告を発した。
   先日、田原総一朗責任編集の 「 絶対こうなる!日本経済 」を読んでいたら、榊原教授は、この異常な国家債務には問題がないのだと語っていたが、かっての円高政策と言い、無責任極まりないと思っているが、国債の大半を日本の機関や個人が所有しているのでノープロブレムだとのたまう学者がまだ多いのにも呆れる。
   ジャック・アタリが予言する如く、経済成長がなければ、破綻するのは時間の問題だとすると、正に、リチャード・S・テドローの説く Denial: Why Business Leaders Fail to Look Facts in the Face---否認:何故ビジネス・リーダーは、眼前の現実を見誤るのか、の世界が現実となる。

   今回の原発問題で東電の株価が急落して、多くの会社や機関が減損処理で苦境に立ち、利回りの良い最も安全な投資と確信して退職金を全額注ぎ込んで地獄を見た個人などが出るなど、影響が大きいが、国債が危機的な状態に陥ると、この比ではなくなる。
   国家債務の増大が騒がれてから、殆ど一度も状況が好転した例がなく、益々、日本経済は悪化の一途を辿っている。
   もう、これだけ、未曽有の悲劇を経験し続けて来たのだから、眼前の現実を、「想定外」だと否認することは止めようではないか。

   余談かも知れないが、更にもう一つ、「まぐれ」と「ブラック・スワン」の著者ナシーム・ニコラス・タレブは、「人間が経験や観察から学べることはとても限られていて、人間の知識は非常にもろい」と言っている。
   「私たちの世界は、極端なこと、分からないこと、そして有り得ないこと(わかっていることによれば有り得ないこと)で一杯である。それなのに、どうでも良いことばかりに拘り、わかっていることや何度も起こることばかりに目を向けている。私たちは極端な出来事から手を付けるべきで、極端なことを例外として絨毯の下あたりに隠しておくのは間違いだ。」と言うのである。
   成長発展と称して、人類が依って立つ地球船宇宙号のエコシステムを破壊し続けて窮地に追い込んでしまった正にその人類が、今こそ、その英知が試されていると言えないであろうか。
   
コメント
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