熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

マッキンゼー編「日本の未来について話そう」

2012年03月28日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   この本の原題は、Reimagining Japan: The Quest for a Future That Works。
   昨年の3・11東日本大震災直後に出版されたのだが、日本内外の多方面の著名な人々が執筆していて、色々な建設的な提言などが出ていて非常に面白い。
   全部、読んだわけではないので、私の関心を持った外国人の人たちの記事について、雑感を記してみたい。

   まず、Japan as No.1のエズラ・ヴォ―ゲルだが、日本に今必要なのは、諸問題に長期的視点から有効に対処できる政治制度だと言う。
   日本の将来については、日本には政治家が長期的視点に立って考えることができる制度が必要なのに、今のところそういう制度がないので、正直言って心配だと繰り返して強調している。
   若手政治家として、河野太郎と林芳正を評価し、ビジョンを持った強力なリーダーとして中曽根康弘を語っているのだが、失われた20年の間に、指導力を発揮した首相は、小泉純一郎ただ一人で、国民が期待した民主党になってからも、アメリカで勉強しておきながら全くアメリカが分からずに普天間問題を無茶苦茶にした子ども手当塗れの坊ちゃんや、何も知らないのに知ったふりをしてリーダーシップのはき違えで3・11問題を窮地に追い込んだ市民派や、消費税さえあげればすべてが解決出来るかのように説き続けるビジョン欠如のドジョウ派が続いただけで、悲しいかな、日本の将来に関しては、益々、悲観的になるだけで先が全く見えない。
   メリル・ストリープが、サッチャーに扮して熱演してアカデミー賞を受賞したのにである。
   
   ヴォ―ゲルの指摘で面白いのは、外国からの労働者移民については、今のような、労働許可証を発行せず不法労働者になる制度は、厄介な問題が起これば、簡単に本国に送還すれば良いだけなので、現行制度は非常に巧妙で上手い手で、移民受け入れは必ずしも必要だとは思えないと言う。

   ビル・エモットは、3つのアジアの大国が地域で肩を並べる時代になったが、現在、日本が直面している地政学的局面では、脅威と言うよりはチャンスを与えてくれそうだと言う。アジアは、世界で最もダイナミックに急速に成長を続けている地域で、中印などの猛烈な勢いでの工業化や都市化は、日本経済飛躍の最大のチャンスだと言うのである。
   しかし、現在の日本には、迫りくる危険な状態や、商業的・文化的競争の圧力には背を向けたがる内向的傾向が強く、孤立主義に陥るリスクが高いのが問題だと言う。
   これは、ヴォ―ゲルも、グレン・フクシマも、他の多くの識者が指摘していることだが、海外で学んだり働こうとする日本人の若者が激減していることが問題で、今回の震災が、復興努力第一で、慎重な守りの体制が強くなって、孤立主義的傾向を一層強めるのではないかと指摘している。
   アジア市場攻略のために、日本がどのような戦略戦術で打って出るかと言う問題さえ難題なのに、グローバル時代に逆行して内向きになりつつある日本人をどう方向づけるかと言う問題の解決が必要とは悲しい話である。

   エモットは、日本の将来戦略について、3点指摘している。
   1.サービス経済の分野での問題として、欧米先進国と比べればかなり生産性が低く遅れているのだが、アジアでは最も豊かで進んでいるので、高品質なデザイン、アート、金融サービス、高齢化対応の医療、デジタル・テクノロジーなど高付加価値の分野での産業が有望である。
   しかし、影響力を獲得するためには、公取の抜本的改革を視野に入れた積極的な自由化促進が必要であり、法律、電気通信、卸・小売流通、輸送などの産業障壁を撤廃することで、このことが活力とイノベイティブなパワーを生み出し、震災後の日本の再建に役立つだろうと言う。
   2.アイデアや技術・文化・知識の分野では、日本の代表的な大学の世界へ向かっての門戸開放を積極的に行って、真のイノベーションセンターとして、変化の原動力とすること。
   海外との競争、市場の開放、サービス部門の生産性の飛躍的な向上と言う圧力のもとで、日本企業は間違いなく刺激を受けて、研究開発やテクノロジーへの投資が増加するであろうと言うのである。
   いずれにしろ、閉鎖的な学問文化芸術分野やサービス分野で、大きく世界に門戸を開放して、激烈なグローバル競争に晒さない限り、益々、日本の経済社会は、世界の競争場裏から、取り残されて行くと言うことであろう。
   3.汎アジア共同体への取り組みについては、日本の立場が、EUのフランスに似ていると言う指摘が面白い。
   日本経済の弱体化で、日本の地位の低下は仕方がないが、2030年までに、日本が強力な汎アジア共同体を結成し、加盟各国が国家主権の一部を共有し、協力体制が習慣として定着すれば、地域で最も豊かで最も自由な民主主義国家として、日本はこうした共同体内部で確固たる地位を築ける。
   中印に主権の共有化を説得できるかどうかだが、日本が先頭に立って十分な数のアジア諸国を味方に引き込めば、クラブのメンバーになることが有利であることが分かるだろうと言うのである。
   このアジア諸国の抱き込みで、日本の自由な民主主義の良さと豊かな高度な文化などソフトパワーを活用することによって、アジアの平和と安定に貢献することが、日本の国防と国益に大きく役立ち、中国へのカウンターベイリングパワーになることを、マイケル・グリーンも指摘している。

   21世紀は、アジアの世紀だと言われており、経済発展のセンターは、正しくアジアに移動しており、日本は、そのアジアの真っ只中に位置すると言う千載一遇の地政学的チャンスを握っている。
   経済規模では中国に凌駕されたが、自由で民主主義的な、そして、高度にかつ豊かに発展した文化文明を内包した最先端を行く近代国家であることは紛れもない事実で、この最も恵まれた立ち位置を如何に活用して国家発揚を目指すべきか、日本の直面する最大の課題であろう。
   しかし、ヴォ―ゲルが言うように、願うべきは、ビジョンと強力なリーダーシップを持った卓越した総理大臣の登場である。
   
   
コメント
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