熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立能楽堂・・・狂言・金藤左衛門、能・氷室

2012年07月08日 | 能・狂言
   7月最初の国立能楽堂の定例公演は、大蔵流の狂言・金藤左衛門と宝生流の能・氷室であった。
   金藤左衛門は、和泉流にはなくて、類作「痩松」が演じられると言うことであり、能の氷室もそうだが、今回の両作品とも、岩波講座・能・狂言には、記述がなく、殆どの能・狂言関係の本にも載っていないのだが、初歩の私など、当然、はじめての鑑賞だったが、結構楽しませて貰った。

   狂言は、山賊のシテ・金藤左衛門(茂山正邦)が、最近幸運に恵まれないので今日こそは良い仕事をしたいと張っていると、実家に帰るアド・女(茂山逸平)が、道に迷って通りかかったので、長刀を振るって脅し上げて、土産物の入った持ち物を奪って、その幸運を喜ぶ。ところが、喜んで品定めをしている隙を見て、激怒した女が長刀を奪い取って、今度は、逆に、山賊を脅し上げて、自分の所持品を取り返したばかりではなく、山賊に脇差を差し出させて奪い、身ぐるみ剥いで、父様への土産にと持ち去る。山賊は、施しをすれば必ず良い報いが将来来る筈と無理に喜ぼうと、泣き笑いの体で帰って行く。

   とにかく、この山賊だが、女に強盗など許される道理などないと詰め寄られると、お許しの御状(泥棒許可書)を持っていると言って懐から出して読み上げるところなど、正に狂言の世界だが、
   折角、里への土産にと用意した大切なものをムザムザト奪われて、思いがけない貴重な収穫にほくそ笑む山賊の姿を見て、頭に来た弱い筈の女が、一転して山賊の上前を撥ねて意気揚々と退場するところなど、実にウイットとアイロニーの香り豊かで面白い。
   最初は、シテが茂山七五三で、アドが正邦であったのだが、七五三が病気休演で、正邦がシテに回って、アドの女を、逸平が代わって演じたのであるから、エネルギッシュな正邦と、軽妙かつコミカル・タッチで器用に笑いを誘う逸平との相性が抜群で、何かの拍子に一気に運命が逆転する凡人の泣き笑い人生のアヤを存分に見せてくれて、非常に面白かった。

   氷室とは、ウィキペディアによると「氷や雪を貯蔵することで冷温貯蔵庫として機能する専用施設のこと。」
   日本各地に氷室を冠した地名が残っているが、この能の舞台は、丹後の国の氷室山で、
   亀山院に仕える臣下たち(ワキ/臣下 殿田健吉)が、天橋立の智恩寺からの帰途、氷室山の氷室を守る老人(前シテ/氷室神 朝倉俊樹)に出会い、老人は平和な治世の目出度さを祝う「氷の御調の祭」を見ることを薦めて姿を消す。中入り後、天女(後ツレ/ 金井賢郎)が現れて天女の舞を舞い、天地が振動して氷室明神(後シテ/ 朝倉俊樹)が出現し、氷を守護して宮廷に送る様を現して豪快に舞う。
   冷蔵庫など冷蔵冷凍施設のない時代には、夏場の氷は、極めて貴重品であり、長らく朝廷や将軍家など一部の権力者のみの特権であり、そのために、氷室が神憑り的な存在となり、毎年無事に朝廷に届けれれると言うことは、帝王の徳のお蔭であり、平穏無事な治世の素晴らしさを称えると言うことになる。
   解説によると、その希少さゆえに、夏の氷は、延命長寿の霊験があると言うことで「賜氷」の儀礼がおこなわれて、無病息災を祈って氷片を口にしたと言うから、あくまで有難いのであろう。

   この能は、アイ/社人が二人(千三郎、あきら)登場し、アイ語りの後、扇を振り上げながら雪乞いの踊りを踊り、雪が降ってきたので雪をころがし雪玉を作り、あら冷たやと手がかじかむ様子を演じるなど、面白い。
   上演時間95分とかなり長時間なのだが、前半の方が長くて、中入り後の天女の舞の優雅さや、髭癋見と言うもの凄い異相の尉面をつけた白頭の氷室明神の剛直な舞など見せ場の突出したシーンが、やや短く感じたのは、それだけ素晴らしかったと言うことであろうか。

   野村萬の「花子」の後、先月は、国立劇場で、狂言を「千切木」と「簸屑」、能を「鍾馗」と「敦盛」を鑑賞した。
   千切木の山本東次郎師が、日経に「舞うチョウ追う能楽師」と言う記事を投稿していて、一芸に秀でた大芸術家の別な奥深い一面を垣間見て興味深かった。
   敦盛は、今回は熊谷直実との出会いだが、少し前に、敦盛の子供が登場する「生田敦盛」を見ていたので、その対照が面白かったし、鍾馗は、科挙試験に落ちて絶望して自殺したが篤く葬られたのでお礼に玄宗の悪鬼退治に登場したと言う話を知らなかったので、自分や能での鍾馗像とを対照させながら見ていて楽しませて貰った。
   まだまだ、能は私には異次元の世界だが、この頃は、楽しめれば上出来だと肚を括っている。
   
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