熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

瀬戸内寂聴さん電子ブックを語る

2012年07月11日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   東京国際ブックフェアで、瀬戸内寂聴さんが、90歳とは思えない程の迫力で、電子書籍について熱っぽく語った。
   いまだに、パソコンを使わずに手書きで原稿を書く寂聴さんが、村上龍の電子書籍を見せて貰って、新しい物好きの血が騒ぎだして、仲間に入れてくれと言って最初に出したのが、病床で寝ながら書いた「ふしだら」と言うタイトルだと言うから面白い。
   初期の作品を電子化して、既に、8作品出版していて、自分でも感心するくらい、良く調べて一所懸命に書いた小説なので、是非、読んでほしいと言う。

   jakuan.comを叩くと寂聴さんのホームページが現れて、「ふしだら」のオフィシャル・サイトが出てくるのだが、ここに、その辺の事情が紹介されている。
   ここで、寂聴さんは、電子書籍について、次のように語っている。
   「電子書籍は、印刷術が始まって以来のひとつの革命だと思います。印刷術ができた時も革命でした。けれども、同じ状態は続きません。これは、久しぶりの革命が起こったと思いました。私が生きているうちに、革命に出会ったということは、大変な喜びだと思いますから、冥土の土産にぜひこれに参加したいと思いました。」

   電子書籍で、「私が、一番感じたのは、字を自由に大きくできますから、これは年寄り向けだと思いました。」と言う。
   これはデジタルの良さなのだが、次に強調したのは、絶版になって書店では買えなくなってしまった貴重な本への思いである。
   「欲しい本が、今、買えなくなっています。とても、いい本だけれども、文庫も絶版になっている。そういうのが随分あります。 自分の尊敬している人の小説も、誰もが読まなくなっている本がたくさんあります。そういう本を電子書籍で出していけたら、・・・」

   しかし、現実には、これも、同じくデジタル革命のお蔭で、売買が、リアル・ショップだけではなく、バーチャルなショップでのネット・ショッピングが可能になったので、極めて品薄のロング・テール商品でも、どこからでも瞬時に調達できるようになった。
   したがって、絶版になっていても、アマゾンを叩けば、古書で出品されているので、余程の本でない限り殆どの本は探せるし、寂聴さんの絶版の本も出ているし、それに、寂聴さんの立派な源氏物語の新訳本など素晴らしい単行本などでも、本によっては良品を、1冊251円(本代1円+送料250円)で買える。
   また、スーパー源氏や神田古書などの検索サイトもあるので、古書店にあれば、絶版に拘る必要もないし、それに、国会図書館などに行くなど、手間暇かければ、大体どんな本にでも出会える筈である。

   ただし、電子書籍にすれば、消去しなければ殆ど永久保存だし、最近のように技術が進めば、非常にコストが安く手間暇をかけずに楽に書籍の電子化が可能となり、それに、ストレージのキャパシティが増加の一途を辿っているので、その可能性は無尽蔵であろう。
   昔、グーグルだったと思うが、欧米の著名大学の図書館の書籍を総てデジタル化すると発表したのだが、著作権など色々な障害に遭遇して頓挫(?)したと記憶しているが、むしろ、そのような人為的な障害による電子化不能となるケースの方が問題となろう。
   書籍でも、商業ベースに乗らなければ、著作権者が許可しないであろうから、技術的以前の問題をクリヤーしなければならないであろう。

   尤も、青空文庫と言う素晴らしい無料電子書籍サイトがある。
   「青空文庫は、利用に対価を求めない、インターネット電子図書館です。著作権の消滅した作品と、「自由に読んでもらってかまわない」とされたものを、テキストと XHTML(一部は HTML)形式でそろえています。」と言うサイトで、まだ、収容されている作品には限界があるのだが、内外の貴重な小説や文献の多くを収容していて、貴重な文化文明擁護の社会貢献サイトであり、見上げたものであり、こう言ったサイトが増えると面白い。
   欧米などもそうだが、新聞や雑誌の多くは、有料会員のみとか定期購読者のみとか課金制度を導入して読者を限定しているのだが、私など、欧米の著名大学や研究機関や国際組織などにアプローチして、学術論文や重要なリサーチなどを検索して読んでいて、結構、楽しませて貰っていて、情報、知識、資料などの収集には不自由していない。

   デジタル革命のお蔭で、今や、オープンビジネス、オープンイノベーションの時代であり、多くの読者が無料奉仕で編集し、破竹の勢いで質量ともに情報を拡大深化し続けているウイキペディアが、エンサイクロペディア・ブリタニカを凌駕する時代である。
   情報を囲い込むような現在の新聞の課金システムなどは、時代遅れで、早晩、新しいビジネスモデルの登場で、並みの情報では、商売にならなくなるであろうが、そうなると、知的所有権や著作権などが弱体化して行って、知の創造に齟齬を来すのであろうか。
   
   講談社が、紙の書籍・コミック発売と同時に、電子書籍を配信すると言う。
   話は一寸違うが、アメリカ最大の書店バーンズ&ノーブルが、リアル・ショップに被害が及ぶカニバリゼーションを恐れて、ネットショッピング参入が遅れた結果、アマゾンにコテンパンにやられてしまった例などを考えれば、趨勢が、電子書籍に移行しようとしているタイミングでの講談社のこの決断は適切であろう。
   ソニーが、アップルや任天堂に負けた原因は、ダブル・ベッティングしなかったことだとE・J・スライウォツキーが指摘していたように、二股かけたビジネスを上手く操りながら趨勢に合致したビジュネスモデルに変換して行く以外に、生きる道はない筈であるからである。
   小売業で考えても、百貨店などは完全に斜陽産業であることは明々白々たる事実であるから、出来るだけネットショッピングやデジタル化ICT化に比重を移した経営を志向して、時代の潮流に乗ることが大切だと言うことでもあろう。

   ところで、寂聴さんの話は、こんな話よりも、編集者と親しくならないと作家に成れなかったと言う、作家と編集者との密着した生活一体の話が面白かった。
   分かれた相手のことを詳細に調べて来て報告し、小説に書け書けと叱咤激励するなど、しっかりとサポートしてくれたりしたので悩みから救われたと話しながら、今のデジタル化電子化した時代の編集者との冷たくなった関係など、60年以上の作家生活の軌跡を語って、非常に感銘深く聞いていた。
   今でも、目が覚めたら寝るまで、仕事仕事で自分の時間などない。出家してからの方が忙しい。激しく生きないと勿体ない。と言う。

   政府は、国民のために、国民のことを考えていると言うが、どこが大丈夫ですか。
   今の日本は、本当に危ない。私は死ぬから良いけれど、いつ潰れるか分からない。
   人が生きて来たのは、自分以外の人を幸せにするためで、それ故に尊敬に値するのである。
   お釈迦さまは、人を殺してはいけないと言われた。戦争は絶対にダメです。
   反原発で一生を全うすると言わんばかりの迫力で、後半、例の青空説法を模して聴衆の質問に丁寧に応えて激励していた。
コメント
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