この本は、「BORDER WARS」であるから、北極や南極は勿論、最近の宇宙の支配権の争いなどあらゆる国境問題について論じている。
別にこの本の主題でも何でもないのだが、100日を過ぎて益々深刻さを増しているウクライナ戦争の理解に参考となるようなロシアの記述がないか探してみた。
役に立つ情報は殆どないのだが、若干興味を引く記事について触れてみたい。
開かれた国境に対して、9.11テロの遺産が地政学に浸透し、世界各地に影響を与え、アメリカの対テロ戦争に力を得た中ロ両国は、テロに対する世界共通の恐怖心を利用して、国土を脅かす少数民族や分離主義者グループへの統制を強めた。
ロシアは、分離主義者であると判断したチェチェン共和国に侵入して、さらに、クリミア半島を併合し、ジョージアの領土を占領した。
第6章の「承認されざる国境」で、承認されざる未来という項で、ロシアの国境進攻について触れている。
ロシアは、2014年にクリミアを不法に併合し、ウクライナの治安部隊を蹂躙し、事実上支配を続けている。
興味深いのは、話題にはなっていないアゾフ海と黒海を結ぶケルチ海峡に関する紛争について書いていることである。クリミア半島の突端ケルチとロシアのタマン半島の間の小さな海峡で、問題のマリウポリ港からは、このケルチ海峡を渡ってアゾフ海から黒海に出て、トルコのボスポラス海峡とダーダネルス海峡を越えないと地中海には出られないので、ここをロシアに抑えられているので、ウクライナは籠の鳥である。14年以降、ロシアはこの係争地で軍備を固め、ケルチ海峡を通過するウクライナ船の自由通行を尊重しなくなったので海峡へのアクセスで衝突した。妨害目的で使われたロシアのタンカーをウクライナが拿捕し、ロシアもいまだに24人の船員を拘束するなど紛争が継続しており、ロシアは港湾や海洋でのウクライナの活動を断固妨害している。
ロシアとウクライナの国境紛争については、一切触れていないが、怪しげな国境関係について、密輸業者など犯罪者の暗躍場所だと書いている。
ウクライナでは、ロシアとの国境をドローンが行ったり来たりしている。その一因は、ウクライナの最東部が不安定化しているので、スパイ用のドローンは、ここ国境地帯を厳しい監視下におこうとするロシアの軍事戦略について欠かせないというのである。
一方、ウクライナの西部では、たばこの密輸が一大産業になっているので、ドローンは違った形で存在感を示している。安価なウクライナのたばこは東欧と中欧で販売されているのだが、たばこであれ、麻薬であれ、人身であれ、国境を越えた密輸は近隣諸国を害するので、国境警備隊と密輸業者は、国境監視技術とその回避技術への投資を増やし続ける一種の「軍拡競争」に陥っているというのである。
ロシアのような、冷戦後の解体の歴史を逆転して大国に戻ろうと躍起になっている国には、国境は最大の関心事である。
プーチンは、ソ連が失ったものを嘆く一方、拡大することを、自身の大統領としての主たる遺産にしようとしてきた。
ロシアの拡大政策の典型は、ジョージアである。
コーカサス地方の小共和国と巨大な隣国との緊張関係が悪化して、国境が一気に流動化して、2008年ロシアは、短いながらも被害甚大な戦争で、ロシア系住民の多いアブハジアと南オセチアという2つの地域を、ジョージアから分離独立させた。ジョージアとこの2つの地域の間の境界線は、実質的にロシアの保護下に落ちているので、いまや、公式な国境としての性格を帯びている。
プーチンは、ジョージア国内のロシア語圏の飛び地南オセチアとアブハジアの存在によって、「ロシア系住民を、どこに住み、どこで働いていようと守る」と言う制約の本気度を示す機会を得た。この制約の最終結果が、自国がジョージア、そして問題の飛び地の間の国境地帯に確保した足がかりだったのである。
この方式が、ロシアの拡大戦略の要諦だとすれば、
ジョージア同様に、NATOやEU加盟に動いている旧ソ連領内のウクライナとモルドバには、ロシアの飛び地が存在しており、国土拡大を狙うロシアの標的になることは、あまりにも自明の理。
ロシアが、ロシア語圏で親ロシア派の支配するドンバス2地域を独立させて、国境地帯に膨大な軍隊を派遣して遠巻きにすれば、ウクライナをジョージア方式で侵略するのは時間の問題だった筈。
平和ボケの世界世論が、楽観視していたのがアダになった。
いずれにしろ、ロシアが、何らかの形で、ウクライナ戦争継続が不可能となって、激しい戦争状態は終るであろうが、紛争状態は、東欧の火薬庫として國際リスクが長く尾を引くであろうと思っている。
別にこの本の主題でも何でもないのだが、100日を過ぎて益々深刻さを増しているウクライナ戦争の理解に参考となるようなロシアの記述がないか探してみた。
役に立つ情報は殆どないのだが、若干興味を引く記事について触れてみたい。
開かれた国境に対して、9.11テロの遺産が地政学に浸透し、世界各地に影響を与え、アメリカの対テロ戦争に力を得た中ロ両国は、テロに対する世界共通の恐怖心を利用して、国土を脅かす少数民族や分離主義者グループへの統制を強めた。
ロシアは、分離主義者であると判断したチェチェン共和国に侵入して、さらに、クリミア半島を併合し、ジョージアの領土を占領した。
第6章の「承認されざる国境」で、承認されざる未来という項で、ロシアの国境進攻について触れている。
ロシアは、2014年にクリミアを不法に併合し、ウクライナの治安部隊を蹂躙し、事実上支配を続けている。
興味深いのは、話題にはなっていないアゾフ海と黒海を結ぶケルチ海峡に関する紛争について書いていることである。クリミア半島の突端ケルチとロシアのタマン半島の間の小さな海峡で、問題のマリウポリ港からは、このケルチ海峡を渡ってアゾフ海から黒海に出て、トルコのボスポラス海峡とダーダネルス海峡を越えないと地中海には出られないので、ここをロシアに抑えられているので、ウクライナは籠の鳥である。14年以降、ロシアはこの係争地で軍備を固め、ケルチ海峡を通過するウクライナ船の自由通行を尊重しなくなったので海峡へのアクセスで衝突した。妨害目的で使われたロシアのタンカーをウクライナが拿捕し、ロシアもいまだに24人の船員を拘束するなど紛争が継続しており、ロシアは港湾や海洋でのウクライナの活動を断固妨害している。
ロシアとウクライナの国境紛争については、一切触れていないが、怪しげな国境関係について、密輸業者など犯罪者の暗躍場所だと書いている。
ウクライナでは、ロシアとの国境をドローンが行ったり来たりしている。その一因は、ウクライナの最東部が不安定化しているので、スパイ用のドローンは、ここ国境地帯を厳しい監視下におこうとするロシアの軍事戦略について欠かせないというのである。
一方、ウクライナの西部では、たばこの密輸が一大産業になっているので、ドローンは違った形で存在感を示している。安価なウクライナのたばこは東欧と中欧で販売されているのだが、たばこであれ、麻薬であれ、人身であれ、国境を越えた密輸は近隣諸国を害するので、国境警備隊と密輸業者は、国境監視技術とその回避技術への投資を増やし続ける一種の「軍拡競争」に陥っているというのである。
ロシアのような、冷戦後の解体の歴史を逆転して大国に戻ろうと躍起になっている国には、国境は最大の関心事である。
プーチンは、ソ連が失ったものを嘆く一方、拡大することを、自身の大統領としての主たる遺産にしようとしてきた。
ロシアの拡大政策の典型は、ジョージアである。
コーカサス地方の小共和国と巨大な隣国との緊張関係が悪化して、国境が一気に流動化して、2008年ロシアは、短いながらも被害甚大な戦争で、ロシア系住民の多いアブハジアと南オセチアという2つの地域を、ジョージアから分離独立させた。ジョージアとこの2つの地域の間の境界線は、実質的にロシアの保護下に落ちているので、いまや、公式な国境としての性格を帯びている。
プーチンは、ジョージア国内のロシア語圏の飛び地南オセチアとアブハジアの存在によって、「ロシア系住民を、どこに住み、どこで働いていようと守る」と言う制約の本気度を示す機会を得た。この制約の最終結果が、自国がジョージア、そして問題の飛び地の間の国境地帯に確保した足がかりだったのである。
この方式が、ロシアの拡大戦略の要諦だとすれば、
ジョージア同様に、NATOやEU加盟に動いている旧ソ連領内のウクライナとモルドバには、ロシアの飛び地が存在しており、国土拡大を狙うロシアの標的になることは、あまりにも自明の理。
ロシアが、ロシア語圏で親ロシア派の支配するドンバス2地域を独立させて、国境地帯に膨大な軍隊を派遣して遠巻きにすれば、ウクライナをジョージア方式で侵略するのは時間の問題だった筈。
平和ボケの世界世論が、楽観視していたのがアダになった。
いずれにしろ、ロシアが、何らかの形で、ウクライナ戦争継続が不可能となって、激しい戦争状態は終るであろうが、紛争状態は、東欧の火薬庫として國際リスクが長く尾を引くであろうと思っている。